父親
夜、部屋に帰って来た。
玄関の鍵を開けようとするともう開いている。ためらった後、思い切ってドアを勢いよく開けてみた。
すると居間に今付き合っている彼女の父親が倒れている。驚いて警察に電話。
あっという間に俺の部屋は捜査官や鑑識の人らしい連中で一杯になった。俺は全く手を触れずに彼らが来るのを部屋の外で待っていたので知らなかったが、父親は死んでいた様だ。
刑事に話を聞かれたが仕事をしていたというアリバイがある為、疑われずに済んだ。ほっとした。
俺の部屋の中で争う様な物音を聞いたと言う話も近所からは出なかった。
死因は内臓破裂。何を使ったのかは知らないが、かなり激しいボディーブローを食らったらしい。
嫌な話だ。
部屋は状況保存の為に入れなくなり、俺は彼女の部屋に数日厄介になる事にした。彼女は先ほど買い物に出掛けて、俺は留守番で鍋を見ている。
しかし何故俺の部屋で倒れていたのだろう。元々俺と彼女の付き合いにはいい顔をしなかった男だ。はっきり言えば邪魔で迷惑。
一人暮しする娘の帰宅する門限まで決めていてそれを10秒でも過ぎようものなら平気で俺の仕事場に怒鳴り込んで来た。
「あれは私の娘だ。守る為ならどんな手でも使ってやる。
誰にも渡さんぞ」
と言って怒鳴る。
少し頭がイカれていて、彼女には毛虫の様に嫌われていた。お陰で上司には睨まれるし給料も減った。
その事を思い出し憤慨していると玄関の鍵を開ける音。
おかえり、と言って振り向くとそこに立っていたのは何と死んだはずの『父親』だった。
黒いトレーナーに作業パンツ。トレッキングブーツまで黒。
頭をつるつるにしている。
顔は青白く、眼の下にクマが出来、瞳孔が開いている。
……ラリっているのだろうか。しかし彼の体から漂って来るのはとてつもない悪臭。
「どんな手でも使うと言ったろ。これで俺は社会のしがらみに縛られずに娘を守れるんだ」
何がどうなっている?
この吐き気を催す様な腐臭は何だ?
先ほど俺の目の前に倒れていたのはこいつではないのか。
考えている間に彼の手に握り締められたバールが横殴りに振り抜かれ、俺の視界を赤く染めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます