狂。

重厚な作品。あえて書きますが、普段読書に慣れていない人には、少し難解でとっつきにくいかもしれません。気合を入れて読みましょう(笑)
特に神話の説明や神とは何であるか、といったくだりは気後れしかねません。私はそうでした(恥)

でも、そこで離れてしまうのはもったいない作品です。作者さんには大変申し訳ない話ですが、そこのところはサラッと読んでいったとしても、ストーリー上、重大な欠陥にはなりません。要は「神とは身近であり偉大である」といった印象さえ掴めればいいのです。それにそのあたりは日本人には詳しい説明はなくとも、なんとなく分かる感覚でしょう。

ホラーと言えば、幽霊や心霊現象が浮かびますが、この作品ではそれにあたるのが「神の存在」であるため、厳粛な恐怖と畏怖によって読者を物語に引き込んでいきます。


主人公の中学生美邦は父を病気で亡くし、母も幼いころに亡くしていたため、親せきに引き取られることになる。
地方の田舎町、海が近くにあり、のんびり過ごせそうに思えるが、実際は過疎化などで寂れた雰囲気と田舎特有の閉鎖的な気配が漂う。

幼いころ暮らしていたことがある美邦は、ある神社の存在を思い出す。しかし、誰に聞いても知らないと言われ途方に暮れる。
確かにある記憶、不思議な夢、幻視……。一体、自分の周りで何が起こっているのだろうか。

友人たちと共に神社探しを開始するあたりは、少年探偵団のようなワクワク感があるのですが、物語は悲劇により一転する。孤立する主人公とそれを支えるように行動を共にするクラスメイトの冬樹の存在。神経質になっていく叔母や狂っていく生徒たち。

敵対する存在が霊であるなら、除霊や神の力を借りるなど出来るが、相手はそう生易しいものではない。町全体が神に憑かれている。

この物語は「家族」の持つ温もりと閉塞感、喪失による空虚などが、テーマではないでしょうか(あくまで私がそう思うだけですけど)


特にラストまで読んだあと、もう一度序章を読むと全く違った哀しみが胸を打つ。犠牲や生贄とは何であろうか。人柱、という言葉が浮かんでくる。

是非とも書籍化して欲しい作品。じっくり何度も読み返してみたい。そして、それを神棚に飾りたい。またはご神体にして……。

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