沈黙の文字 その三

八番目の世界・レーフ。

 ―― 警告 ――


〝沈黙の文字〟は、本編に関わる説明文になります。


 飛ばしますか?


 ○はい⇒https://kakuyomu.jp/works/1177354054884893885/episodes/1177354054884945722




 ●いいえ⇒ありがとうございます。続きを、ご覧下さい。









 人類は、文明と言う名の産衣うぶぎの作り方を忘却した。


 世界は崩れ去り沈黙するが、い上がる生命が満ちたのは、ひび割れた未来を、自らの生命で埋めるため。原初の本能であり、欲望であり、使命だった。


 途方もない時間を重ね、立ち上がる生命が出現する。

 

 やがて、人類と自負する種族は、奪われずに済んだ四肢と脳で、未開の世界で生存権を主張した。


 さらに時間は流れ、人類は火を取り戻す。あかりで夜の闇を払い、外敵を遠避け、火を辿たどった同志が集まる。


 火を囲む集団の中、姿形すがたかたちの違いに気付く。思いが募り、恋の唄が青い空の下で響くと、愛が生まれた。


 火は、生きる糧を増やし、活動時間を延ばす。土を焼き、石を割り、木々を拓き、山を削り、鉱石を溶かした。


 集団は単一ではなく、得手不得手が役割りを生む。公平だった価値観は不均衡を来たし、対価の概念も、この時に生じた。


 支配する者、される者。富める者、持たざる者を排出した。


 山をう者。地を駆ける者。地にもぐる者。生活の豊かさを構築するために、不可欠な素材を求める。


 人類は、望むままに穴を掘る。地中には、人類を支える導線が詰まっていた。


 ただ、可能性を秘める自然の宝物庫から、人類の領域へ引き上げる人員や技術が、圧倒的に足りない。常に、需要が供給を上回る。


 事故は日常的だった。


 肺腑はいふおかし、爆発を誘発する粉塵。付きまとう落盤の恐怖。水脈を避ける二本の棒。それでも突き破られる地下水脈。

 潜る人類に、不条理を発しながら死んで行く小鳥。届かない陽光と空気。他にも、数きれない天然と人的な危機。

 地上に這い出し、行き着く場所は劣悪な環境。それでも貴重でわずかな休息の時。


 過酷な労働と、危険と絶命が寄り添う採掘場や、求索きゅうさくへ赴く理由は給金の高さと、この場所でしか生きられない状況を、支配者達が主導したからだ。


 同志である人類を、無体に扱う訳ではない。無事、人身も発掘物も、引き揚げる事を望んでいた。


 作業・寝食を共にする十人を一組とする、最小単位の協力体制の実施が試みられる。

 その中で、得意とする役割の分担が当てた。危機意識が共有され、連帯感が生まれる。


 現場を受け持つ官吏かんりは、それぞれを競わせ、恩賞を与えた。作業効率が飛躍する。


 官吏同士も、競争意識が芽生えた。


 人類は、地上に繁栄の花を。地下に欲望の根を張り巡らせ続ける。 


 ある日。坑道を掘削くっさくする十人組の姿があった。


 姿形は違うが、同じ言語で郷里をなつかしみ、互いの明日を語り合う若者達。

 監督官の口頭指示を受け、粗末な道具で計画通りに掘り進め、交代の合図だけを心待ちにしていた。


 不意に。の手応えと、響く打つ音が変わる。


 目が弾け飛んだ錯覚。その痛みさえ感じる光の壁。だが、生きる者は頑強で、空間の明度に視界が開けた。


 空間の中央、長方形の物体が浮かぶ。それは、未知の物質でじた一冊の書物。


 文字を木片や簡に木炭由来の墨で記し、石版にくさびで引っ掻き残す時代。不釣り合いな違和感を、彼らが覚えるいとまは無い。


 十人の目の前に、


 布のように、薄くなめらかにめくる均一の一面には、黒い線が複雑に踊る。

 文字も、記録係のモモト族の青年以外は、読み書きに不自由があった。


 突然、十人は未知の羅列を読み解く。視界に映る知識が奔流となり止まる事を知らず、暴力のように侵入する。


 ときの感覚は既に麻痺し、視線が文字を追う事を忘れた頃、息を繰り返しているのが、二人だけになっていた。


 状況を把握はあくし、感情が湧き上がる前に、二人は認識する。


 何故、全身を毛で被われるモモト族が、熱と湿度がこもる坑道で平然と作業が出来たのか。デユセス族が、感覚で鉱脈、水脈を察知する理由。オ・ニギ族の身体能力が、群を抜いて高いのかを。


 全ては、世界に満ちる眞素マソの恩恵を、一族や同胞で、その特質を体現していたのだと。


 ようやく二人は、家族に等しい同僚を失った思いに浸りながら、祈りの言葉を眞導マドウに変換し、八人を地上に連れ出した刻限は夜。


 遠くに散る、見慣れた拠点の灯りが瞬く地上に出た二人は、気付いてしまった。


 足りない何かが、ある事を識るすべ。増えている何かが、ある事を確認する情報を得ている。


 月明かりに浮かぶ円環の数が増えている事を。


 八番目の世界から星々が奪われている事を。





編集後記:目的に則した文面を書くようにと、■■に指導を受ける。文面を読んだ十人中の八人が同じ感想を持つ文章構成を心掛けよ。とも加えられた。


それ以前に、私が書く文字の汚さにも言及げんきゅうされる。


私に言わせれば、■■が書く文字が整い過ぎる方が異常なのだ。


いけない。■■に通じる誰かに閲覧されない内に、数日後、いいや。二時間後に編集するものとする。


情報集積・編纂・管理責任者:■■■・■■■■・■■■





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