第3話 真相にたどり着くために

調査一日目が終わってから特に動きがないまま3日が過ぎた。

この日リン・ドウは朝から調査に出かけるのではなく事務所に来ていた、ようやく生と死の狭間をさまよっていた辺境伯の意識が戻ったと報告があったからだ。


「ようやく戻ったんですね、報告ありがとうございます社長」


「いや、いいんだよ。探偵じゃない僕に出来ることは事務所の経営と君たちの手助けくらいのものだからね、ところでリンリン、あんまり無茶はしては行けないよ」


「はい、では行ってきます」


「頑張ってきなさい」


「あ、脳筋。あなた私の影に入っていていいから着いてきてくれない?」


「はいはい、ったくやっと俺の出番ってわけかよ」


「調査が進まなくて悪かったわね」


悪態を付いたケン・ザキはその場から消えたと思うと足元に残っていた影だけがリン・ドウの影に合わさり、それに対してリン・ドウは何事も無かったかのように目的地までの道のりを歩き始めたのだった。


―――――――――――――――――――――――


調査五日目―――リン・ドウ視点


先程私がケン・ザキを連れてこようとしたのは今日でかたがつくと踏んでいるからだ。

今私が向かっているのは言うまでもなく辺境伯が入院している病院だ、彼から有力な情報さえ手に入れば全てが繋がるはずだ。

この際、辺境伯が探偵を雇ったと周りの人間にバレたとしても影には暗殺のプロがいるので素早く対応することができる。

たとえ、辺境伯の周りに王国の使いが居たとしても。


『メンドーム中央病院』大きく書かれた看板を通り過ぎ中に入る、そこには大勢の患者がいたのだが命を狙われているのだそうそうに病室から出ようなどとは考えない。

ナースに辺境伯の部屋を聞いて、その部屋の前まで早足で移動する。

一呼吸置いてから病室のドアを開けると、体型は変わらないがどこかげっそりとした辺境伯がベッドで横になっていた。


「辺境伯様、突然のお尋ね失礼とは存じ上げますが私は先日辺境伯様に雇われました探偵のリン・ドウと言うものです。」


「ああ、探偵か。して、何の用だ?あいにく今の私は長話をできるほどの体力を持ち合わせておらん」


「心配には及びません、これだけ聞かせていだければ結構ですので」


「何じゃ?」


「あなたを刺した男、今までにも会ったことのある辺境伯様自信が雇用した召使いですか?」


「それは私も不思議に思っておったのだ、帝国会議から帰ってくると見知らぬ顔の召使いがおってなぁ、気がつけば刺されておった。少なくとも私自身で雇用した召使いでなかったな。」


「そうですか、ありがとうございます」


一礼してから病室を出るとそのまま病院の外へ、そしてあまり人目につかない路地まではいる。

今までずっと影の中にいたケン・ザキに出てくるようにいった後こう続けた。


「全ては一本の糸で繋がった・・・・・・・・・・


「なんだよいきなり、あの小太りなおっさんに質問しただけでなんか分かったのか?」


「ああ、おおよその検討はついた。」


「ほほう、話してみろ」


「なんで上から目線なんだ、まぁいい。

真相は恐らくこうだ。

私の見立てどうり坊っちゃまが王国と内通しているとして、坊っちゃまは王国と繋がっており同時に自国にも根強い関係がある。

そしてある日、坊っちゃまが情報を横流ししているという噂が立った。

王国側は大慌てだ、恐らくこう考えたのだろう。

噂の発生源は坊っちゃまともっとも繋がりの深い存在、つまり辺境伯であると。

そしてその発生源を絶ってしまえばこんな根も葉もない噂は消えてなくなるだろうと。

王国は早速、辺境伯の息の根を止めるためにスパイを送り込んだのだが上手くいかなかった。

恐らくこの手段は咄嗟にとった苦作だったのだろう、だから坊っちゃまは時分の父親が刺されたと聞いてフードの男に掴みかかっていたんだ。」


「ああ、それで?王国が絡んでることが確実になっただけでこの一件は終わるのか?」


「そんな訳がないだろう、まだ続きがある。

ここからは私の推測だが、あの辺境伯の使いが私たちに依頼をしに来た時。使いは依頼をしに来る前日に謎の男から坊っちゃまの内通疑惑を聞かされたと言っていた、だがその日のうちに辺境伯は襲われた。

これだけの速さで王国に情報が行っていたんだとしたら、辺境伯が意識を取り戻したことくらい王国にはもう行き届いているだろう。

そして次の作戦にでる。

坊っちゃまを殺しにかかる作戦に。」


「なんでだ?坊っちゃま殺したら帝国の情報が手に入らなくなるだろ?それに辺境伯の方が弱ってるし」


「ばかか、辺境伯は1度襲われた事で警備を強化しているに決まっている。

それに情報源なら違う人間を探して金を積めばいくらでも見つかるだろう、それよりも王国側が恐れていること、それは坊っちゃまが持っている王国の情報だ。

1度は坊っちゃまを使い続けることを選択した王国だが上手くいかなかったとなれば焦って当然だ、今度こそは確実に王国の情報を消すために元を絶ちに来るはずだ。」


「なるほど、よっしゃあとは任せとけ。よくやったぞリン」


「ああ、あとは任せた。」


ケン・ザキは影移動を使ったのか瞬きするとそこにはいなかった。

ここ五日の疲れが一気に来たのかリン・ドウはその場に座り込む、調査をして答えを出すことなら今までもしてきたことだ。しかし答えが出たからと言って必ずいい方向に転ぶとは限らないのを単独行動では思い知らされた。

しかし今は答えを出せばあとを任せられるタッグがいる。昔から見てきた頼りになる幼馴染が。


深呼吸すると、鼻に抜けるような声で「良かった」そう誰かに言われたような気がした。


―――――――――――――――――――――――


坊っちゃま邸―――ケン・ザキ視点


ケン・ザキのすることはいつも単純だ、影になり静かに対象の首を刈り取る。

彼がセ・ナミに慕われているのは何も強さだけではない、スイッチの入った時の雰囲気。それがケン・ザキだけずば抜けているのだ。

今から人を殺すのだという確固たる意志の元に織り成す一撃は音という概念をすべて取り払ったように静かで対象が存在に気づいた時、そこには既にケン・ザキはおらず首は落ちているのだ。

だが、そんな冷血な仕事人であるケン・ザキの心持ちは今日に限って浮ついたものだった。


‘‘タッグに託された仕事’’そう考えるといつもの仕事とはまるで別のように思えてしまうからだ。


「やべぇ、今俺仕事楽しい」


自然と顔がニヤつく、気づくともう坊っちゃま邸についていたのだから余程だったのだろう。


フッと影に溶け込み屋敷の中に忍び込む、今回の依頼は独断ではあるが暗殺から拘束して連れ帰ることになったので暗殺対象は坊っちゃまではなく坊っちゃまを暗殺しに来るスパイになったわけだ。


手早く部屋を周り、やっと坊っちゃまの部屋を見つけると、中には坊っちゃまともう1人召使いがいた。


「坊っちゃま、辺境伯様が目を覚まされたようです。」


「そうか、ならば外出用の服を用意してくれ」


「かしこまりました」


命令された召使いは特に怪しい動きもせず部屋を出ていった。彼ではなかったようだ、しばらくすると今度は違う召使いが服を持ってきた。

―――金属の匂い―――

きらびやかな装飾が施されているのだから当然なのだろうがそういったものとは違いもっとありふれた金属だ。


こいつだ。


確信を持つが決定的な瞬間を見ない限り逃げられてしまう可能性がある、ギリギリまで待ってすきができた所を刈り取る。


部屋に入った男は特に慌てるでもなく、声を震わせるわけもなく淡々と


「お召し物が用意できましたのでお持ちしました」


そういったのだが、ここで坊っちゃまがとんでもないことを口にした。


「私はそんな服、持っていなかったはずだが?」


坊っちゃまが怪訝そうな顔をしてそう言うと、男は予想外だったのか少し驚いた顔をしたあと、素早く胸ポケットに手を入れたと思うと銀色に輝くナイフを―――


次の瞬間ナイフも、男の首も等しく重力に抗うすべもなく床に転がった。


「え」


坊っちゃまから掠れた声が漏れる。

もちろんやったのは俺だ、男が胸ポケットに手を入れた時には動き出していたのだから取り出し終わったころなは首は落ちていて当然なのだ。

俺の技量なら。


俺は血のついたダガーナイフを捨てると懐から同じものを取り出し軽い殺気を織り交ぜ一言


「同行ねがいまーす」


王国の作は全て虚しく失敗に終わったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

異世界探偵事務所! 悟壮司 @Bota1031

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ