第20話 開幕

 ところどころに通気用の竪坑櫓たてこうやぐらが立ち並ぶ、巨大な山岳”ヤラベルク”。迷宮を下にうずめるその内部には、ドワーフの国、ニーダスヴァルトが広がっていた。地下大都市を首都としているが、その領土は、地下にのみ広がっているわけではなかった。

 鉱山内は、とかくガスの発生が多い。可燃性のガスが充満している場合もままあるだろう。それだから、”地下にはなるべく火を入れない”ということが、鉄則となっていた。鉄の精錬加工など、大規模に火を使う作業は、鉱山内では行うことが出来ない。

 では、どこで行うか。

 ――それは、地表だ。

 鉱山は、上記の理由で、採掘場以外にも地上施設を構えている事が多い。ヤラベルク山も例外ではなく、多くの設備を、その山中に備えていた。

 選鉱場や、精錬場。そういった大規模施設には人が集まり、必然的にそこには街が出来る。そうして斜面に造られた街の一つが、鍛冶精錬の街・セーウェルであった。

 山中の森を切り開いて作られたその街中を歩いていると、良く目に付くものがある。それは、水車だ。

 運搬の動力、精錬のための用水、加工のための用水――。鉱山は、とかく多くの水が必要となる場所でもあった。

 それだから、荷揚げ用の水車とはまた別に、地下水組揚くみあげ用の水車も設置されており、水車の数が多いのだ。

 さらには、この山で汲み上げられた水は、浄化された後、大陸の盟主たる人間の国・レギンガルドへ長大な水路橋で輸送されていたりもする。

 セーウェルは、そんな重要な役割を担う街の一つだ。活気があり、住民はみな優しい。

 しかし、この街も、良いところばかりがあるわけではない。鉱山街であるからには、常に命の危険とも隣り合わせの場所でもあった。

 ――今やもう使われていない竪坑たてこう。その入り口を封じるふたを踏み抜いて、数百メートル下まで落ちてしまう者。精錬中の事故死。鉱山特有の病に倒れる者もいた。魔物に襲われて命を落とす者もいる。

 精霊の恩恵おんけいによっていくらか回避する方法はあれど、それも絶対の方法とは言いきれない。そんな危険と隣り合わせの日々の中で、住民達が心の支えとしている場所がある。それが、”山教会”の名で親しまれている、ペルグ=ロスという教会だ。

 ごつごつとした山の岩肌に埋もれるようにして建ってはいるが、豪奢ごうしゃな装飾が違和感なく融合しており、堂々たるファサードが訪れるものを迎える。背の高い、かたい木のドアを重々しく開いたその先に見えるのは、天井を洞窟の岩肌とした唯一無二の洞窟教会だ。

 普段から敬虔けいけんな周辺住民が集うため、地域の小さな教会とは言え、にぎわいを見せることが少なくない。しかし、今日はいつもの比では無く、今後あるかどうかという、空前のにぎわいを見せていた。長い長い行列は途切れることが無く、最早教会の外にまでその尾を伸ばしている。

 彼らの目的は、教会の最奥さいおうにあった。

 祭壇さいだんの前に立ち、祭司とともに参列者に微笑みかけている。彼らが、泣き、喜びながら相見あいまみえるのは――、”年神”、そう呼ばれる存在だ。


       ◆


「お入り下さい」

 ようやくと言ったところだろうか。扉の前で待たされていた列が動き始めた。

 今、行われているのは、告白の儀式。詠隊えいたいによる合唱が行われる中、参列者たちが教会の中を進んでいく。

『我ら 樹々きぎの子 火を抜けて 灰よりでし あけの星

 昇れ 昇れよ 空高く 落ちたる天を 押し上げよ

 一等輝くその土地に 神は御手おんてを伸ばすだろう

 ともせ ともせよ 夢のを 世に降る御厳みいつを 背に受けて

 かつての栄華ひかりを取り戻せ 闇に揺蕩たゆとあけの星

 なんじ 願いを口にせよ なんじ 願いを口にせよ――』

 男女混成の歌声が、岩窟がんくつに飽和する。横列おうれつにならぶ椅子に、だいたいの参列者が並び終えた頃。

 年嵩としかさの祭司が、ゆったりと、しかし遠くまで通る声で喋り始めた。

「日々、世界の発展を目指す暁星あけほしの皆さん。今日お集まり頂いたのは、他でもありません」

 快活な笑顔。風雨にさらされた岩のような肌に、白く長い眉。ローブをまとった背の低いドワーフが、とうとうと喋り続ける。

 彼が、ニーダスヴァルトに点在する教会のトップである土の祭司、その人だ。

「あなたがたの光をくもらせる悩みを、年神様が晴らしたいとおっしゃっております」

 感謝のため息が、そこら中で上がった。土の祭司は軽くうなずき、落ち着くようにと参列者に手で合図する。

「どんな些細ささいな悩みでも構いません。告白なさい。発展のさまたげとなる事柄ことがらは取りのぞかれなければなりません。ここにおわします神は、きっとあなた方に素晴らしい恩恵おんけいさずけてくださるでしょう。しかし、あなたがこれまでどのような働きをして来たかを、まずは胸に問いなさい。もし今までの働きが不十分であったというのなら、それを悩みとして告白するべきです。教会は、それをゆるしましょう。そして、ともに神の恩恵にあずかるための道を示しましょう」

 芝居がかったように両腕を広げる祭司。沸き上がる参列者。お決まりの説諭せつゆが終わり、いよいよ儀式は佳境かきょうへと至る。

「さあ、一列に並びなさい――」

 信徒に先導された参列者が、祭壇へ向かう通路に並び始めた。先頭では、すでに悩みの告白が始まっているようだ。まずは、祭司に告白をし、次に神からお言葉をたまわるという順序のようだ。

 詠隊えいたいの歌声が一際ひときわ大きくなる。

 これは、他人の告白内容が聞こえないようにするための措置そちだという。そのため、参列者達も、自分の番が来るまでは大きな声で歌を歌う事が義務となっていた。

 だが、中には義務を果たさない者もいる。そういった者は整理役の信徒に厳しく取り締まられ、ひどい場合は教会から追い出されることもあった。

 番犬のように目を光らせる信徒達が、祭壇へ向かう列のそばを、威厳いげんたっぷりに巡回していく。恐らく修道騎士かなにかだろう。盛り上がった筋肉を誇示するように、袖の短い修道服を着込んでいた。

 ふと、修道騎士の一人が眉をひそめた。その視線の先には、フードを深くまで被った二人組がいる。片方は、紋様の入った白いローブを羽織っており、どこかしら高貴な家の出を感じさせた。しかし、中に胸元がはだたけた服を着込んでおり、単なるくらいが高い者と言うわけでは無さそうだ。その姿は、背の低いドワーフや、わざとらしく仕事着を来た旅人達が多い中で、殊更ことさらに浮いていた。そして、なによりも問題なのが、口を堅く真一文字に結んでいることだ。

修道騎士が白いローブの者の脇に立つ。

「おい」

 洪水のような歌声があふれかえる堂内であっても、はっきりと通る声だ。

「歌え」

 威圧感を与えるその言葉。白いローブの参列者は、しかし、ぴくりとも動かない。

「貴様――」

 と、つかみかかろうとした騎士と参列者の間に、

「すみません、騎士様、この者は言葉が分からないのです」

 と割り込んだ者がいた。同じくフードを深くまで被った参列者だ。

 白いローブの者と比べると、そのローブは見劣りするほどに見すぼらしく、こつれた茶色の色をしていた。

「何……?」

 一見すると従者と思われる茶色いフードの者が、頭を下げる。

「幼い頃に火事に見舞われ、そのショックから部屋に閉じこもりきりになり、人と喋ることもほぼ無く育ってしまわれたので……」

「フン、それで? そのフードは、火傷のあとを隠すために被っているとでも申す気か?」

「はい」

「……気にすることはない。火傷のあとなど、ほくろが有るか無いかと同じようなもの。神の御前ごぜんである、フードを脱ぎたまえ」

 と、白ローブの頭に手を伸ばそうとする騎士を、はねのける従者。

「――なりません」

「顔を見られたくない理由は他にあるのだろう!?」

 と、声を張り上げ、にらみ合う形になった従者と騎士。見下ろす騎士は腰に手をやり、今にも制圧に乗り出そうという気迫だ。しかし、従者はそれに対し、一向に退こうとしない。

「祭司様に、お伝えしたいお話がありまして」

まかりならん。帰れ」

 一触即発の空気、周辺の参列者も歌うのをやめ、距離を取り始める。そこに、声が投じられた。

「――何です、騒がしい」

 合唱の声が減ったことで異変を察知したのだろう。祭司が、壇上から降りてくる。

「祭司様、近づいてはなりません!」

 腰からメイスを引き抜いた騎士は、もはやローブを着た二人組を敵と認めた。

「――この者達は、あなた様に危害を及ぼそうとしているやもしれません」

「おやおや、物騒な事を」

 紳士然とした爽やかさのある笑顔を崩さぬまま、祭司がローブの二人組に語りかける。

「……そのローブ、特務神官ラタトスクの者だろう。まあ、そうでなくても構わないが……、我らが年神様になにか御用かな?」

 その裏で、ひそかに修道騎士達が周囲を固めていく。

 ローブの従者の口のはしがにやりと歪んだ。

「いいえ。あなたにお伝えしたいお話があるんです、祭司」

「……私に?」

「はい」

 にこりと、祭司の笑みが濃くなった。

 

       ◆


 映は、深く被った白いローブの下で、息をつめていた。

「(上手くやりなさいよ、ウィルマー……)」

 作戦はシンプルだった。教会のお偉いさんである祭司と会話が出来るこの機会を利用し、本物の年神はここにいるぞ。そんな偽物を用意してどういうつもりだ? と密かに問いつめる。そして、こちらの要望を通す。衆人の目があるので、教会側も下手なことは出来まい。……そういう算段だった。

 しかし、ウィルマーがあおあおる。映は、彼が無駄に窮地きゅうちを作り出しているような気がしてならなかった。

「――それは、さぞかし価値のある話なのでしょうね」

 祭司はそう穏やかに言っているが、明らかに嫌みだろう。映が、なんとなく目線だけで周囲を見回すと、修道騎士が自分とウィルマーを囲うように配置についていた。教会側がこちらの話につき合ってくれるのも、もうあとわずかだろう。

「ええ、勿論。今この場で開かれている茶番と比べれば、雲泥うんでいの差ですよ」

「貴様……!」

「まあ、落ち着きなさい」

 いきり立つ修道騎士をいさめつつ、祭司は幾分か真面目に口を開く。

「では、まず、勅命印ちょくめいいんを見せなさい。その後に所属と名乗りを」

 細部に聞き取れない単語はあるが、名乗れと言われているのはわかる。疑われているのだ。

 まずい、と映は思った。人をだますときは、相手が考える余裕を無くすことと、確認をさせないようにする事が大事だ。とにかく立ち止まらせてはいけない。それ以外に真実は無いかのようにたたみかけなければいけないのだ。

 しかし、ウィルマーは随分とゆっくりとした話し方をしている。相手の意識を狭めようという気がまるでない。どう話を転がすつもりでいるのだろうか。

 ”世界樹の眼ラタトスク”は、独立組織ではあるものの、教会派生の組織であると、ここへ来る道すがらウィルマーが言っていた。照会でもされれば一発で嘘がバレるだろう。

「”教導師リヒター”、セルバンテスです、祭司」

 眉間にシワが寄る映。その斜め前で、ためらい無く自らのフードを外したウィルマーの頬には――、いつの間にか、月を基調としたような紋章が明滅していた。

「(どこで……?)」

 少なくとも、樹上の家でも、ここに来るまでも頬に何かを描いたそぶりは見えなかった。と、言うことは、ウィルマーは元々”世界樹の眼ラタトスク”の一員だった……? いや、そんなはずは……と考え込む映をよそに話は進んでいく。

「おや、あなたも・・・・そうでしたか。”教導師リヒター”……セルバンテス、聞いたことがあります。風変わりで有名でしたね。あなたの印は頬にあるのですか――。良いでしょう」

 そう話をしながら、祭司は遠くに立つ修道士に目配せをする。おそらく照会をさせにいくのだろう。

「これで、お話を聞いていただけますかね、祭司」

 徐々に周囲の民衆のざわめきが大きくなっていた。状況が見えない後列の待機者達の不満が、噴出ふんしゅつしているのかもしれない。

「いや、まだ足りません。お連れ様のお名前をうかがってませんよ、セルバンテス」

 しかし、祭司もウィルマーも止まらない。

「そちらの、白いローブの方こそ、”特務神官ラタトスク”なのでしょう?」

「いいえ、違います、祭司様」

 二人の笑顔がかち合う。

「”世界樹の眼ラタトスク”が動く時はどういう時か、祭司様はご存知ですよね?」

「……神が地上を荒らす時、もしくは人が神を軽んじた時、ですね」

「――まるで、祭司様が神を愚弄ぐろうしたかのような物言いだな……!」

 耐えかねたとばかりにメイスで宙をぎ、口角泡を飛ばす修道騎士。最早もはや祭司の制止も聞かず、肩を怒らせてこちらへと歩いてくる。

「いい加減にしろ!」

 その筋肉質な腕を伸ばし、映のフードに修道騎士が手をかけた瞬間。

「――いいんですね?」

 と、ウィルマーが声を堂内にとどろかせた。びくり、と誰もが反射的に反応してしまうような大声。

「な、なにがだ!」

 と、修道騎士も思わずひるむ。

「本当に、そのフードを、下ろしてしまっても良いんですね?」

 修道騎士は、フードに手をかけたまま動きを止めている。

わからないようなら、もう少し詳しく説明いたしましょう。あなたがそれを下ろしてしまったがゆえに、祭司様が”処刑人ヘンカァ”に追われるようになってしまっても良いんですね? と、私は問うているのです」

 振り向かぬままに、ウィルマーは鼻で笑う。明らかに、参列者達が聞き取れるように喋っていた。

 周囲のざわめきが、先ほどとは別のベクトルを向き始めている。

 ――ウィルマーが、場の空気を支配していた。

 「(恐ろしい……)」

 映は鳥肌が立つ片腕をにぎりしめていた。

 ウィルマー。お人好しで、人当たりが良く、仕事には真面目で可哀想な動物は放っておけない。そんな、人畜無害な人間。それが、彼だと映は思っていた。

 そして、それは”誠治”にも通ずる性格だ。しかし、現状はどうだろうか。

 人を煽り立て、せせら笑い、ハッタリをかまし、口八丁で相手を丸め込む。そんな、山師のような事をてらいなくやってのけてしまう人間が目の前にいる。これは、誰だろうか。

 ウィルマーのことは、昔からよく知っているような気になっていたが、良く考えれば出会ってまだ日もあまりっていない。彼は、あくまで”誠治”の記憶を持った、知らない人間なのだ。

 血が止まりそうなほど、映は腕を握りしめていた。

「……なにがお望みでしょうか」

 少し固くなった笑顔で、祭司が問う。

「ハッ、最初から言っているじゃないですか、祭司サマ。話がしたいんですよ」

「なら、この後で時間を設けさせましょう――」

 と、顔をそむける祭司。

「ですので、今はお引き取りください、ってか? ヒャハハ、ああ、出ていってやるよ、今はなぁ……!」

 と、最早悪党丸出しの台詞を吐き、絡み付く蛇のような視線を祭司に送ると、くるりと振り向き、ウィルマーは参列者達の方を向く。

「皆様、私の顔を覚えておいてください。この顔が明日から見えなくなったら、その時は――」

「(もう嫌!)」

 と、映が心の中で叫んだ瞬間。

 何かに撃ち抜かれたように、ウィルマーの体が跳ねた。次いで、ウィルマーは、頭をおさえながら苦悶の声を上げ始める。

「あ、ああぁ……あぁ!」

 今度はなんだとばかりに、眉間にシワをよせる祭司達。 

 ウィルマーはと言えば、滝のように汗をかき、床に膝をつきながら頭を抱えていた。この光景は、前に地下洞窟でも見たことがある。何か悪いところでもあるのだろうか……?

「すいません、何でもありません……。夜、またうかがいます」

 先程までが嘘のように殊勝しゅしょうさを取り戻し、ふらふらと教会の入り口へと歩いていくウィルマー。その頬からは、いつの間にか、明滅する紋章が消え失せていた。

 呆気あっけにとられたまま立ち尽くしていた映も、ふと我に帰り、その後を追って走り始める。

 しかし、その背中に、

「おい、待て!」

 と、声がかかった。映は、足を止めて振り返ってみるが、そこには参列者の列形成をし直し始める信徒達と、祭壇の方に深々と謝罪をする祭司の姿があるだけで、もうすでにこちらに注意を払っている様子はない。では、今の声は誰が――? といぶかしく思う映の遠く背後で、再び声が上がった。

「お、おい、や、やめ――!?」

 ぐちゃ、という肉が潰されたような粘着質な音と、生臭い鉄の臭い。息を飲む音。おい、やばいぞ! というざわめき……。

 映は、体の向きを戻した。まず、目に入ったのは、足を止めて、呆然と立ち尽くすウィルマーの姿。そしてその向こうからは、ずず、ずず、と、何かを引きずりながら近づく音がする。

 大きな木の扉をくぐって現れたのは、巨人だった。上半身の筋肉がいやに盛り上がり、しかし、腰から下は小さくひょろっとしていて、あまり筋肉がないように見える。極端な逆三角形だ。二足で立ち続けるのは難しいのだろう。一歩ごとに地を響かせ、ゴリラのように手を着きながら迫り来る。

 しかし、顔はいやに小さかった。まるで、大人の体に赤子の顔を乗せたかのようなアンバランスさだ。

 顔の造作ぞうさくは良く見えない。だが、なんとなく・・・・・鼻から頬にかけて・・・・・・・・引き連れの痕が・・・・・・・見えるような・・・・・・気がした・・・・

 その巨人が何かを放る。千切れたような音がした。赤い飛沫しぶきき散らしながら、教会のちょうど真ん中に落ちていく。

 石造りの床に、グチャと、重く湿った音がした。

 ――落ちたのは、鎧をつけた人の片足だ。

「逃げろ――!!」

 蜂の巣をつついたかのような騒ぎだ。悲鳴が嵐のように巻き起こる。教会の奥の方へ逃げようと、人が殺到する。隅の方でうずくまり、年神に祈る声も聞こえた。

 その中で、ウィルマーは微動だにせず、巨人を見上げ、その場に立ち続けていた。巨人が手を付き、轟音ごうおんと共に地にを揺らす。勢い、品定めをするかのようにウィルマーのことを覗きこむ。顔を洗う風をものともせず、ウィルマーは、目を見開いていた。

 映は、息を飲む。巨人の顔に、見覚えがあった。ウィルマーもあるだろう。いや……、あるというレベルでは無い。整った美少年のようなその顔は――、

「セバ……さん……?」

 彼の、恩師の顔であったからだ。

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