紅色 ~傷~ 34

授業が終わり、鞄に最低限必要な物だけを詰め椅子から立ち上がる。

今日も今日で、高校生の青春ってやつを堪能したな。朝も友人(果柱)と喋ったし、昼飯も屋上っていう学生定番の場所で食べたし(一人で)午後も友人(果柱)と喋ったし、こうして一人で帰宅しようとしているし……本当に満喫してるよ。

別に悲しい訳じゃない、それでも、周りに人が集まって各々グループを作っているのを見るとどことなく疎外感を感じる。

まぁ、僕が果柱宜しく、神愛さん宜しく、京先輩宜しくフレンドリーに付き合ってないからしょうがないんだけど。

こうして振り返ると僕の周りにはコミュニケーション能力が無駄に高そうな人達でいっぱいだ。

妹──活発活性活動の元気ハツラツの守里は言わずもがな、鯨さん──僕の良き相談役でもあるあの人も中々どうしてコミュニケーション能力が高い……肉体言語だけれど。

僕にもみんなようにコミュニケーション能力が高ければもう少し高校生らしい青春ってやつを堪能できたのかはわからないが、そうなってしまうと果柱や京先輩、今日出逢ったばかりの神愛さんとも縁ができなかったかもしれない。

そう考えるとぼっちも悪くない。

ポケットにあるチャリ鍵を確認した後、教室の扉に向かう。


「オイ、神無月」


引き留められた。

台詞もシチュエーションも僕にこのまま帰宅せよと道中偶然にも神愛さんとバッタリ鉢合わせてしてそのまま二人で一緒に帰宅コースなはずの僕を止める人物は──我がクラスの担任である総鳥そうどりおさむ先生だった。


「何ですか総鳥先生?僕に何か用ですか?」


「用があるから引き留めてんだよ。じゃなきゃ、俺はとっくに家に帰ってビール片手間テレビ観てるよ」


それは一教師としてどうなんだ……。


「なら、その用を早く言ってください。僕にはこの後待ち受けているであろうイベントにHPとMPを温存しておかなければならないんですから」


「……お前は一体何とファンタジー宜しく戦うつもりだよ。ドラゴン?キメラ?彷徨う騎士様?堕天使?悪魔?時を超えて蘇った超古代文明の古代兵器?」


古代兵器とは、総鳥先生も中々マニアックな所をついてくるな。

彷徨う騎士様もこれもまたマイナーなボスキャラを推してくる。

僕は断然美少女で可愛いドラキュラを推すけれど。あの金髪赤眼でゴシックロリータな服から見えるあの魅惑の足がいいんだよな。


「古代兵器はマニアックじゃねェーよ。俺がお前くらいの年代じゃかっこいいロボットは血気盛んな少年達の憧れの象徴なんだよ。ほら、腕が回転したりするジャイロとか機具と機具が擦りあって発する軋む音とかロケットパンチとかさ」


「ジャイロ──ジャイロ回転ですか」


「あぁ、ジャイロ回転だ」


お互いの視線が衝突する。

僕は総鳥先生のことを良くは知らないけれどこの時は立場を忘れ、年齢を忘れ、好きなものに正直になれた瞬間だった。

僕はジャイロ回転より、ロケットパンチの方が好きだけれども、それは内緒ってことで。


「それで総鳥先生、僕に用って?」


逸れていた話題を戻す。

このままお互いの好きなものについて討論し合うのもコミュニケーション能力を高めるにはいいけれど、今日はここ最近で特に精神的に色々とくる日だったから尚更家に帰ってそのままベットにダイブしたい、てか、ぐっすり寝たい。

僕に用って何だろう?僕は決して天才や秀才やましてや優等生って柄でもない。どちらかと言えば、不良生徒、落第生の枠組みに入るであろう僕は教師に呼び止められる程の問題を起こしていない。少なくとも、僕が記憶してる限りでは。


「お前、昼休みどっか行ってたろ?それも5限目の授業が始まる1分前まで」


あっ……僕が屋上で沈んでいた時だ。


「その間に教室いたみんなにちょっとした報告してたんだ。『報告』というより『注意』って言い換えた方がいいかもな」


「『注意』?」


『注意』という単語を繰り返す。途端に僕の軽かった肩に重く『不安』が重石のようにのしかかる。総鳥先生も先程までの軽い口調ではなく、ゆっくりと一言一言を僕に聴かせようと話している。

『注意』、僕がいない間に何か問題でも起こったのだろうか。

……本当に今日は変な日だとつくづく思う。


「終礼でも言ったと思うが、神無月お前は窓の外の方をぽけーと眺めいたから聴いてねェーだろうがな」


「あ、アハハ……」


総鳥先生の言葉に苦笑を浮かべる。

終礼の時間、確かに僕は周りの声が聞こえていなかった。朝と昼の出来事、そして、つい先程の午後の休み時間で聴いたとあるニュース。終礼の時間はイベント盛り沢山の今日での出来事や情報を整理していた。

整理していてやはり想う──今日は色々と起こりすぎだと。


「ここ最近のニュース観たか?」


「いえ、僕はあんまり朝はテレビをつけないんで、朝のチャンネル券は父さんと妹に譲ってますから」


「そうか。注意ってのも何も禁止するとか、誰が亡くなったとかそんな暗い話じゃないんだが、それでもお前達学生は現在青春満喫中で何をしでかすかわかんねェーから、頭の片隅にでも憶えてろ」


総鳥先生は一語一語正確に僕に伝えた。

僕はその内容に対してどんな表情をしていたのか自分でも憶えていない。


──『切り裂き魔』が出た。


何かが起こり始めている、いや、もしかするともう僕の知らない所で起こっているのかもしれない。

7月26日 まだまだ色々と起こりそうな日は続く。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る