紅色 ~傷~ 31

昼休み、屋上にいた京先輩と喧嘩とは違う仲違いに似た──どうしようもなく完全に僕に非がある一方的な言葉の暴力ならぬ態度の暴力によって僕と京先輩の間に小さな亀裂をいれてしまったのではないかと思わせる、思い返すだけで自分のガキっぷりに顔を覆いたくなるそんな昼休みが終わり、ついでに5限目の授業も終わり、僕は一人、教室片隅(自分の席だが)で何をすることもなく悶々として、長く感じる休み時間を過ごしていた(過ごしていたというより、心ここに在らずの状態で特に何もしていなかったが)。

こんな状態を当の本人──被害者たる京先輩が見たら、あんたまだ気にしてるん?と今回の仲違いの根本から覆しかねない、否定しかねないことを平然と言いのけるだろう。

時坂ときさかみやことは──僕が知っている京先輩はそんな人だ。その時その時の出来事をずるずると僕のように後悔しながら頭を回し悶々と考えふけるようなことをしない、さっぱりした先輩だ。

女子高生だから人だからなどと口煩く言うつもりは一切ないのだが、京先輩らしく(京先輩のことをそんなに詳しくは知らないが)はあるが、損な生き方だともう少し相手のことを非難してもいいのだと、僕が言うのはお門違いだろう。

そういう役目は僕よりもっと相応しい人間がいるはずだ。

優柔不断な風来坊の僕よりかは京先輩にとってマシな人間が世の中には沢山いるはずだ。

敢えて僕がその役をかってでる必要はないよつうに思う──が、それでも気になるし、僕をもっと非難してほしいとサディズムなことを口に出さずにはいられない。

さっぱりした京先輩にレモンより(レモンが酸っぱいのかさっぱりしているのかは悩みどころではあるが)さっぱりしている京先輩にそんなことを真顔で真面目に言う相手が──友人がいるだろうか?

京先輩からは友人がいるとは一度も聞いたことがない。

まさか、ぼっちなのか?

あの大阪人の勢いとノリっぷりに他の生徒が後ずさる姿を想像するのは難くない。

僕と会うたびに下ネタやつまんないボケが飛び出すシルクハットのように発言している京先輩に限ってそんなことは……あるか。

あの勢いに呑み込まれると僕のずるずるとはまた違った面倒臭い系統のずるずるにその表情を苦虫にがむしを三度は潰した顔にならざるえないだろう。

かと言う僕も初めて京先輩に出逢ったその日に、パンツはボクサー派か?ブリーフ派か?と初対面の僕に真顔で質問して、苦虫を三度は潰したように顔になった。肝が据わりすぎて膝が痛くなるくらいの人だからなぁ。

……やべぇ、本当に京先輩に友人がいるのか不安になってきた。

もし想像通りならこんな悠長に悶々となんてしてられない、すぐさま京先輩の元へ行って友人1号の称号貰わなければ。


「オイ、どこ行こうとしてるんだよ?もうちょっとで6限目の授業始まるぞ」


と勢い良く立ち上がった僕に首を傾げ、声をかける果柱はばしら

……果柱いたのか。


「ちょっとぼっちな関西弁の女の子を助けに行こうかと。止めてくれるなよ」


「イヤイヤ、止めるよ普通!何いきなり言い出してんだお前は。昼休み、俺に何も言わずに屋上行って、帰ってくるのはチャイム鳴った後だし。今日のお前いつもより変だぜ」


「やめろよ、僕をそんないつも変みたいな変態みたいなことを言うのは」


「変態は関係ねぇよ。それといつも変ってのは正解だ、景品にティッシュやろうか?」


「いらねぇよ」


僕が変ってのは否定してくれよ。

悩める現役高校生が何かを解決しようとしているのだから、それを止めることは罪だ、ギルティだ。よし、明日の昼飯を果柱に奢らせることで罪を許すとしよう。

……果柱と会話して気付いたけど、朝の引きづり──果柱との京先輩とは違った仲違いモドキを案外僕は特に気にしている様子はなかった。

朝の件はこれまた京先輩と同じで、完璧に僕の責任せきにんである、果柱が朝の件をどう感じているかは定かではない──もしかすると、僕に気遣って触れようとしていないのかもしれない。

もしそうなら、先程の明日奢らせるのはキャンセルしてもいいかもしれない。代わりにジュースで手を打とう、妥協しよう。


「果柱が言うように『僕が変』って訳ではないけど、それにしても今日は変な、特別変わった一日だったな……色々な意味で」


「へぇ、そうなのか?」


「そうなのだ」


果柱には──他人には詳しく話すつもりはないけれど、一様友人ではある果柱には(朝の件とか昼の件とか色々と心配?をかけたからな)詳細を省いて、美少女(片方は確実でもう片方は、まぁ、うん、美少女だよね)についての情報は伏せておこう。

秘密捜査官になった神無月夜空。


「″とある″女の子に″とある″関西弁の女の子と出逢ってお話した、と。加えて、″とある″二次元いるような執事にも出逢った、と。何やそれは神無月!」


今まで聞いたことない関西弁モドキで声を上げる果柱。

うん。そうなるわな。僕も果柱から同じように聞かされたらそうなるよ。


「何や!って言われても実際事実、そうなんだからそう言うしかないだろ。僕の方が何やそれは!って言いたいよ」


「でも、実際事実、出逢っての感想は?」


「(親指上げ)」


「そうかよ」


呆れた顔をする果柱。

しょうがないじゃないか、今日も今日とて、また同じような一日が始まるんだと思ってた矢先に普通とは逆──特別な出逢いがあるなんて誰が想像できる。その相手が、かのこのクラス、学校中の人気者、アイドル、女王、頂点、先生より権力があると噂の神愛かみあい乙女おとめ、その人とバッタリ階段で出逢うことは、へんてこな、神愛さんは言わずもがな、その他の生徒より頭が悪い不良生徒の僕が未来予知みたいな芸当を出来るとは到底思えない。

できる人は知ってるが、あの人あの人で僕より、神愛さんより別の意味で特殊だから比較すること自体がおかしい。

執事服の男──悪島あくじまさんとの出逢いだって、ごく普通の高校生の僕にとっては奇跡に近いものかもしれないのに。

やはり、僕の感じるように果柱が言うように変だよな〜。


「オッ、The 美少女の神愛乙女さんが帰ってきたぜ。どこ行ってだろうな。トイレかな?」


「そこは言わないで差し上げろ」


つい尊敬語になってしまう神無月夜空。

神愛さんがこのクラスにいるだけで、クラスの雰囲気が格段と上がっているな。

トイレの消臭剤のように、いや、消臭剤に例えるのは如何なものか。

神愛乙女、その人自身を例えることは、表現する言葉が手段が僕には思い付かなかった。

『神愛乙女』と言う美少女、その名の通り神に愛されているのでは、と感じるさせる僕とはその他の生徒とは実際事実──桁外れの少女、想像外の少女。

『神愛乙女』と言う名の『神モドキ』を誉める、崇拝する言葉は次の以下の通りになる。

成績優秀せいせきゆうしゅう才色兼備さいしょくけんび容姿端麗ようしたんれい頭脳明晰ずのうめいせき文武両道ぶんぶりょうどう天真爛漫てんしんらんまん質実剛健しつじつごうけん音吐朗朗おんとろうろう錦心繍口きんしんしゅうこう聖人君子せいじんくんし泥中之蓮でいちゅうのはす天香国色てんかこくしょく明朗闊達めいろうかったつ明眸皓歯めいぼうこうし一片氷心いっぺんひょうしん──完全完璧かんぜんかんぺきな少女──神愛乙女。

ぽっとでの新人小説家が自分の文章を読者に賢く、深く、興味を惹かせようとGoogleでそれっぽい四字熟語を調べ、一通り並べたかのような(実際事実、作者がそうなのだからどうしようもないのだが)言葉の羅列が一人の少女の姿を覆い隠すレベルで存在する(これでもかなり少なくした方だ)。

それが──それを超えるのが神愛乙女。

正にその名の通り神に愛されている乙女。

神に愛されている女の子から僕は今日、運良く、僕にしてみれば久方ぶりの『幸運こううん』。

『幸運』を呼び出すために僕の少ない『幸運』を全て跡形も残さず、にえとして天に神に捧げられたのかもしない。

それはそれで恐い。

神愛乙女が本当に『神モドキ』から『神』になったかのように感じる、その場合、彼女は最早人ではなく、人外、人ならざる者になってしまう。

しかし、事実は事実。変えようがない現実の出来事として僕の目の前に現れた。

あの螺旋階段での出逢いは強烈で繊細に脳裏に深く刻まれている、僕が生きている間はその事実を忘れることはないだろう。


「ほら野郎共、授業始めっから教材だせ」


と、国語(現代文)の教師の総鳥そうどりおさむ先生が来たのでガヤガヤと忙しかったクラスが各々の座席へと帰っていった。









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