第3話 知らない顔

喉の奥が、キュッと締まる感覚。

おいしいご飯。

だけど・・・

飲み込むのが、なんだか辛かった。


久しぶりに、

人と向かい合って食事をした。

「ごちそうさまでした」

「大したもの出せなくて、すんません」

「いえ、とてもおいしかったです」

「あー・・・、よかったっす」

「あ、お茶碗・・・」

「大丈夫!そのままで大丈夫ですよ」

「ありがとうございました。あ、じゃあ、私、失礼します」

「あ、送ってきます!」

「いえ、大丈夫です」

「いやいや・・・、もう、暗いし。街灯少ないし、危ないし」




結局、家の前まで、送ってもらってしまった。


「ありがとうございました。また、改めてご挨拶に伺います」

「わかりました。みんなにも話しときますね」

「お願いします」

「それじゃあ・・・おやすみなさい」

「おやすみなさい」



坂本さんを見送り、

鍵を開け、家に入る。



シーンと静りかえった

真っ暗な部屋。



さっきまで、人といたからか、

一段と寒くて、真っ暗な気がする。



祖父は、どう過ごしていたのか。




電気をつけ、仏壇へ。

「ただいま」


蝋燭に火をつけ、線香をあげる。

「シェアハウス始めてたなんて・・・

そんなこと言ってたっけ?」


いつでも話せる。

いつでも帰れる。

どこかで、そう思っていたから、

「へー・・・、そうなんだ」

そうやって、

聞き流していたのかもしれない。




風呂に入り、髪を乾かす。

祖母がよく使っていた鏡台で、

髪をといていると、

まだ新しい写真立てが目に入った。


そこには、

若者に囲まれ、

顔をくしゃくしゃにして笑う祖父がいた。


「すごく楽しそう」

よく見ると、

祖父の横に、坂本さんもいる。


「こんな顔、見たことなかった・・・」


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