そこかしこに

@tomomik

第1話 ヒトリぼっち

幼い頃に、事故で両親を亡くして、

育ててくれた祖父も亡くなった。


真っ黒な車に揺られて、やってきた火葬場。

祖父が入った棺は、

エレベーターのようなドアの向こうにゆっくりと移動して、

ドアが閉まると、ゴーッという音が聞こえ始めた。

「こちらでお待ちください」

誰もいない畳の部屋。

明るい窓の向こうと、薄暗い室内。

同じ世界のはずなのに、

どこか違うところにいる気がする。


腕時計の秒針の音。

何をするわけでもなく、

ただ、

ただ、

待つ。


「こちらへどうぞ」

案内されるがまま、部屋に入ると、

熱を帯びた板の上、姿かたちを変えた祖父がいた。

「こちらが、喉仏になります」

木で作られた長い箸で、

足の骨から順番に

ひとつひとつ壺の中に納めていく。


箸で持ち上げる骨。

そのどれもが、

とても軽くて、

とても脆かった。


「以上になります」

蓋を閉めて、壷に綺麗な布をかけてもらい、

挨拶をして、火葬場を後にした。


帰り道、

物悲しく、パンプスで歩く音だけが響く。



白い壺に、小さく納まった祖父を胸に抱いて、

改めて思った。






もう、誰もいない。


天涯孤独になってしまった。








真っ赤な夕日が、

私の影だけをうつしていた。





就職のために上京して、

会社のある都心に一人暮らし。

仕事を言い訳にして、

祖父とは、

月に何度か電話で話をするだけになっていた。


「ただいま」

久々に帰った、祖父の家。



電気をつけると、

さっきまでそこでお茶を飲んでいたような状態で、

新聞も、みかんも、座布団も、

全部そのままだった。


でも、

こたつをつけても、

テレビをつけても、


ただ、静かで、

何もなくて。


”いない”と言う事実だけが、

そこにあった。






「片付けないとな・・・」

祖父が暮らしてきた、平屋の広い家。

父、母、祖母の写真が並ぶ仏壇に、

祖父の遺骨を供える。


一人で暮らすことは慣れている。

だけど、

何でもない話を聞いて、話してくれる人がいないのは、

やっぱり…


「寂しいね」


みんな、

いま、

向こうで一緒にいるんだろうか?


どんな話をしているのかな?

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