第23話 体を交渉材料にする男

河上彦斎が喀血して倒れるころ、鍬子とお珠もまた、争っていた。

「抜刀斎が倒れたなぁ」

鍬子はお珠に語りかけた。

「ああ、さすがみほしだな。じい様風にいうならナイスってやつだ」

「訳のわからないことを言うな。日の本言葉を話せ」

「嫌だね。あたしもエゲレス言葉がやっと分かり始めたのさ。便利だぜ。日の本言葉はまどろっこしいくて行けねぇ」

おたまは英語を聞ける様になり、パーカーの言葉を理解できるようになりつつあった

「Come back!(戻れ)」

パーカーがオタマの右手後方の位置から指示すると、おたまは銃をウェスタンスタイルのまま、後退しはじめた。

「爺ぃ!邪魔をするな!」

鍬子はパーカーに剣気をぶつけた。

「Don't mock the eagle. lady?(haha、ワシを嘗めるなよ。コムスメ)」

銃を構えて笑うパーカーは悪役そのものだった。

「If you move, I will shoot」

「「もし動けば撃つ」だってよ」

お珠はパーカーの言葉を訳して見せた。

「I'm serious」

「本気だってよ」

「そんなものがなんだというのだ。撃ちたければうちなさいよ。あたしは新撰組一番隊よ。いつだって死ぬ覚悟は出来てる」

新撰組1番隊は最も危険が伴うそんな職場だ。

「狂ってるってぇ訳かい」

「武士とはし狂いするものなりだ!」

「クレイジーだな」

お珠は嘲る。

「何をいうてもあたしには分からない。ここから先はこれが語る」

鍬子は刀を構え直した。

「Smoke and fire!!」

パーカーが叫ぶ。と1軒先の路地裏に密かに動いていた鉄之助が催涙弾を投げつけ、お珠は銃を乱射した。

「ぐ、なんだ!」

煙が鍬子の喉を苛む。咳が止まらなくなった。

「グッバイ、新撰組!」

おたまはスモークの中で鍬子の脚を撃ち抜く。とその場から逃げた。



河上彦斎は手当てをされ、宿の一室に縛られていた。

「何故、殺さんが」

「あんたに聞きたいことがあるノヨ」

抜刀斎の前にいるのはロザリーだった。

「異人が何故ここにいる……「合の子か」」

ギリ…とロザリーの歯が鳴る。

彦斎は柱に縛られたままいった

「so we have a question that who hired you?(さてと、質問だ。お前は誰に雇われている)」

パーカーはタバコを吸い込みながらきいた。

鉄之助がそれを訳す。

「雇われておらん。宮部先生の仇が新撰組だっただけじゃ」

「つまり、私怨で戦っていた?と」

「お前たちがいなければ、うちが勝っていた。邪魔したのはお前らよ」

「襲いかかってきたのはあんたの方だったワ」

ロザリーはいう。

「あたしはずっとここからみいてたもの。鉄に近づいたのはあんたの方よ」

彦斎は認めようとはしない。

「この単眼鏡はあたしが作ったの。ここからあの柳までがまるで目の前にある様に見えるでしょう?」

ロザリーは彦斎に無理やりスコープをのぞかせた。

彦斎の目が見開かれる。

「驚いたかしら?なら、私の言ってることが本当だって分かるわよね」

場が鎮まる。

そして、

「そうじゃ。近づいていったのはあたしじゃ。じゃがお前らが仕掛けたんだろうが」

「Do you know the word self-defense?(正当防衛という言葉を知っているかね?)」

「正当防衛という言葉を知っていますか?」

「正当防衛……なんじゃそれは」

「自分で自分を守る。もしくは その行動の事です。つまり貴方が襲ってきたから僕らは自分を守るためにやむなく戦ったんですよ」

「何を!」

ごり……とお珠が銃を彦斎の頬に当てた。

「黙って聞きな。さもなきゃ左頬にでっかい風穴が開く」

「ちっ」

「つづけますよ。美星さんがいま、下の階で代官所に行く準備をしています。だが、要件を飲むなら、代官所に走らずに貴方を解放する準備がある」

すうと鉄は息を吸った。

「一つ。今後一切僕らに手を出さないことを誓うこと」

「一つ。僕らの人相を他に漏らさぬこと」

「その二つだけか?」

「ええ。お得でしょう?僕らは貴方に邪魔されたくない。貴方は僕らに恨みがあるわけでもない。なら、いい落としどころだと思うんですがね。飲めば自由になりますよ」

すこし抜刀斎はだまりこみ、何かを思案し始めた。

「ワシを抱いたら、その条件飲んじゃろうかの」

「抱きしめるだけでいい……訳無いですよね?」

「当り前じゃぁ。ワシを女にしてくれたら考えてやってもいいそう言っとる」

がち、がちり。

ロザリー、お珠がハンマーを起こした。

「Let's say it all over again(もう一遍言ってみろ)」

「もう一遍言ってみろ。ドブス」」

今にも撃ちそうな目と冷めた口調でロザリーとお珠がはもった。



「犯せばいいんですか」

「Stop it.Tetsu(止めるんじゃ。鉄)」

「鉄さん。もう分水嶺は超えちまった。このドブスは言っちゃあいけねぇこと言ったんだ」

「Let's kill her(殺しましょう)」

「僕だってできますよ。交換条件になるなら安いもんだ。でも……縄は解いてあげませんからね。それに証人が必要になる。お珠さん。美星さんを呼んできてください。これから……僕はこの女を犯します」

「お前。狂っとるな。ええじゃろ。ヤレルもんなら犯してもらおうかぁ」

「Do you do it in front of these women? Stop it. Don't sell yourself cheaply!(こんな女どもの前でやるというのか?止めるんだ。自分を安く売るな!)」

パーカーは今にも泣きそうだった。

「It's fine. I should show a man here(いいんです。僕はここで男を見せるべきなんです)」

「みんなも証人になってほしい」

鉄は頭を下げる。

「納得できるか!あたいはぜってぇ認めねぇ!こんな殺人鬼の為になんで鉄さんが犠牲にならなきゃなんねぇんだ!」

「I don't agree. The Men don't show their skin so easily!(同意できないわ。男はそう簡単に肌を見せるもんじゃないのよ!)」

お珠、ロザリーは必死に食い止めに掛かった。

「おぃ。抜刀斎。お前、もし約定をやぶったりしてみろ……その時はあたし達がお前を追いかけて必ず殺してやる」

部屋に入って来た美星も銃を抜いて構えた。


ぐっちゅ。ぐっちゅ。

水音が部屋の中に響くのを誰も止められずにいた。

皆の目の前で、抜刀斎は尻を持ち上げられ、後ろから鉄に『差し込まれて』涎をたらして喜んでいる。

「くは……!くは!はぅん♥……これが、これが貫通するってことか♥……堪らん。こりゃあ……癖になるぅ……♥」

ぱん、ぱん、ぱんぱん。

打ち付ける度に、抜刀斎は喘ぎ、鉄は苦しそうに息を漏らす。

気持ちいいなどという感覚は鉄には無い。

(この場を穏便に済ませて、相手に優越感を与えて、要件を飲ませるんだ)

交渉を飲ませる事だけが優先。自分の体の価値などはどうでもいいそう思っていた。

そして、お珠と美星、ロザリーは正座をしたまま爪を膝にめり込ませて耐えていた。

(クソッタレ。どうしてそいつなんだ!何であたしじゃ無いんだ!)

お珠、美星、ロザリーはこの時同時にそう思っていた。

 この男が少ない世の中で自分の好きな男が他の女を目の前で抱いている。

悔しくて、泣きたくなる。現代で言えば間男に自分の妻が寝とられているのを見せられているそんな状況なのだ。

悔しくないわけがない。だが、鉄は抜刀斎を抱く前に三人に言ったのだ。

「絶対に動かないでください。僕は今から自分を交渉材料にします。我慢してください」

と。

「分かったよ。我慢する……っ」

そう言った手前、約定を破るわけにはいかない。破れば女として面目が潰れる。

(好きになった男が決めたんだ。耐えて見せる)

三人の思いが『耐える』という一点のみで一致していた。

(This time, I have to scold.(今回は、叱らねばなるまいな。))

パーカーも今回は椅子に座ったままタバコを吸い、気を紛らわせようと必死だった。

やがて、

「いっくぅ……♥」

抜刀斎がはてたと同時に、鉄が引き抜く。卑猥な音がして一物が抜かれると、抜刀斎は痙攣をおこしていた。が、鉄が髪をつかんで顔を上げさせる。

「いいか。これでいいだろう。抜刀斎。金輪際、僕たちに手出しをするな。わかったか?」

念押しをすると

「ぁぁ。分かっとる。ワシも女じゃぁ。ここまでして男を見せられたら無下にできん。ワシはあんたに近づかんよ」

ビクン、ビクンと腰を痙攣させて抜刀斎はうなずいた。



「嫌な気分だぜ」

「ああ、全くだ」

「吐きソウ」

その日の明け方ごろ、抜刀斎を表に叩き出したお珠たちは口々に呟いていた。

「本当ならもっと嬉しい光景のはずなのにな」

「でも、証明されたじゃぁねぇか。あたい達は自分の好きな男が寝取られてる光景には欲情しねぇんだって事がさ」

寝取られを喜べるほど、変態では無かったというだけ。

今頃、二階では鉄はパーカーにこっぴどく叱られているころだろう。

「ひでぇ一日だったねぇ」

「ああ、早く寝ちまおうぜ」

「同感だわ」

開ける朝日の中で、三人の女はどれもげっそりした顔で呟き合うのだった。

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