第17話  新撰組の困った奴ら その1

美星がお珠と話し合っていた。

「仕方ねぇなぁ。今回はそれでいいよ」

「なぁにが仕方ねぇだ?男の膝枕に子守唄付きの大盤振る舞いじゃねぇか。うらやましいったらねぇぜ…そのかわり今日一日、鉄さんの護衛はこの美星様に任せるってことで手打ちにしてやる」

「分かった。こちとら江戸っ子だぃ。今日一日だけは勘弁してやる。せいぜい楽しんでくるがいいさ」

「言われるまでもねぇ。あたいの手管で鉄さんを「でれんでれん」にしてやるぜ」

事の発端は、昨日の膝枕に子守唄の件を不服として、お珠に詰め寄ったのが始まりだった。

男の膝枕に子守唄付きのフルコース。この世界の女どもに言わせれば、

「誘ってるでしょ!誘ってるわよね!」

と解釈され、即ベッドインな事態である。

 無論、鉄はお珠を慰めただけだし、歌った、fly me to the moon もあの場でふと思い浮かんだだけの事だ。他意はない。

それでも、美星は悔しかったのだ。我慢できない事態だった。この世界の女としては凄く我慢した結果であった。

女としては、引くに引けないそんな気持ちだった。しかし相手は友だし、情状酌量の余地は十分にあったのだ。

(にしても、男の膝で寝れるなんざぁ…一生にあるかないかだなぁ。いいなぁ!いいなぁ!あたいもしてみてぇなぁ!)

ダンダンと地団駄を踏む。

周りにいた通行人が少し驚いたようだったが、美星は気にしなかった。



「てぇ訳だ。鉄さん。今日は美星と出かけてくんな」

「まぁいいですけど。なんでそんな怒ってるんです?」

「なんでって!あたしはここに留守番で!美星のバカは逢引き状態になるんだ!これで怒らねぇ女はいねぇよ?!」

「逢引きって…仕事の上での同行じゃないですか」

いやだなぁもう。と鉄は笑ったが

「二人っきりだよ?あたしなら間違いなく押し倒すね」

お珠の顔は真面目だった。

「それと、美星。昨日のこともあるからね。ミブロには注意すんだよ?」

「わかってら。八木邸には近づかねぇし、段だら模様が見えたら、迂回するさ」

「特にあのド三品には気をつけろ。昨日、斬ったのは間違いなくあいつだ」

「任せな。あのド三品の顔は覚えてる」

「ならいい。早く行きな」

くるりと反転するとお珠は大股で、奥の部屋に入り煙管を吸い始めた。

(我慢だ、我慢だ)

煙管を吸いながら、心を納得させる。

一方、美星は

(えっへへぇ!これから逢引きだぁ~。一日楽しんでやろうかねぇ♥️)

とウキウキだった。



「あ~アッつい」

新撰組屯所内で沖田総司は、上着物を脱いで、袴をばっさばっさと動かし、内部に風を送り込んでいた。

ほかの隊の者も同じ有様で、夏真っ最中の京都で、女どもは皆、上を脱いでいる状態だった。

何処をむいても肌色と乳しかないが、新撰組の中に恥ずかしがるものなどいない。

皆、下乳に付いた汗を濡れ手ぬぐいで拭いたり、

「つめだくてぎもぢぃぃ~」

板の間にそのまま寝転んでいる者もいた。

「なんか、スカッとすることしてぇなぁ」

「なら、散歩がてら見回りに行こうぜぇ」

「僕も行きますよ」

「なら、俺も行く」

原田サノが言うと、永倉もそれに同意して、沖田がそれに続き、沖田を心配して土方も浴衣姿のまま下に襦袢は着ずに表を見回ることになった。勿論、羽織は着ていない。

遠目からでは一見して新撰組の面々とは分かりにくい恰好だったと言える。

そしてそれは、鉄之助達にもアクシデントとして振り返ることになった。



「いやぁ。鉄さん今日は襦袢に黒の紗の着物だねぇ。涼しそうでいいねぇ♥️」

「そういう美星さんこそ、同じ様な恰好じゃないですか」

「確かに、あたしも絽の着物だが、女と男じゃ色気がちげぇ。…もうなんか、あ…汗のいい匂いもするし、たまんねぇよ♥️へへぇ♥️」

「今日は京都の郊外まで行って、パーカーさんと会うんですよ?分かってます?」

「分かってるよぉ。怒った顔も素敵♥️」

「何言ってんですか?僕なんか唯のオッサンですよ。素敵なわけが…」

「いいや。あたしは鉄さんは一等いい男だと思ってる。二番目はパーカーの爺様かなぁ」

「ジジイ専門なんですか?」

「いやぁあたしは少しだけ年上が好きなだけさ。二人とも渋くていい感じだぜ」

そんなことをいいながら、昼間の京都を歩く二人は、周りからは相当にうらやましく思えた。

なぜなら、周りの目が美星に突き刺さるのと、羨望のまなざしと、欲望に満ちた目線が一斉に降り注がれるのだ。

これは美星にとっては優越感を感じずにはいられなかった。

(いやぁいい気分だねぇ。良い男と一緒に散歩だ。どうだ?お前ら羨ましいだろ)

そんなことを思ってさえいた。

しかし気を抜いているわけでもなく、鉄に近づく女たちにはしっかりと目を光らせていた。

そんな中、後ろから何やら騒がしい女たちの声が聞こえる。

「サノ。がっつきすぎだ。もうちょっとちらっと見るくらいにしてやれ」

「そういう歳さんだって、じろじろ見てるじゃん」

声の主は、原田サノ、永倉、沖田、土方の四人だった。

「鉄さん。次の道を右に折れてくんな。寺にでも逃げこもう」

「ええ。そうですね」

鉄も了承し、はや足で動き始め、次の道を右にまがり近くの浄楽寺と書かれた寺の門の陰へ身を潜め、四人が通り過ぎるのを待ったのだが、なぜか四人は十字路で止まった。

「どしたぃ。総司」

「いえ…とってもいい匂いがするんです♥️」

すんすんと沖田が鼻をひくつかせているのが分かると周りの3人も何かに気が付いた様に鼻を利かせた。

「本当だ。いい匂いだ。男の汗のにおいだぜ♥️」

「ですよね。ここに暫く居たいなぁ♥️」

それを聞いて門の陰で鉄之助は

(……ヒェッ! なんて嗅覚だ)

と怯えていた。

隣では鉄を隠すようにして美星がガードしながらつぶやいた。

「少しの間だ。すこしきついだろうが我慢してくんなよ」

「大丈夫です。美星さん、それにしてもそんなに匂ぃますか?」

スンスン自分の襟もとの匂いを嗅ぎながら鉄は美星に質問した。

「いや。いい匂いだぜ。男から甘い匂いがするんサ。あたしもこんなに間近で嗅ぐと理性が飛びそうだァ♥️」

「襲わないでくださいよ?」

「……我慢してる」

「美星さんのお尻が当たってますよ。もうすこしずらして…」

ふにゅんと鉄の顔の上に美星の尻が当たる。

二人は寺の門の横にある小さな隙間の陰に二人は隠れている状態だった。通りからは見えない位置で鉄が下へしゃがみ、美星がその上に居る。

(ぎもぢぃぃ…ダメだぁ…逝くな…!逝くな!イッ…♥️)

「ふぅ…♥️ふっ…♥️ンンッ!!」

当の美星は、着物越しに当たる鉄の鼻と息がXXXに当たるのを感じて、数度、逝きかけたが何とかとどまった。

そして鉄は、美星の尻の柔らかさを顔で感じながら赤面し内緒であるが股間が起き上がるのを感じた。

(女の人のお尻はやっぱりやわらかい)

そんなことを思いながら息をひそめる。

鉄はそこで黙ることになった。なぜなら、四人が前の道を通りすぎていったのだから。

ザッザッ…と草鞋が道を通るたびに音が近づきそして、しばらくして音が遠くなり消えていった。

「行きました?」

表通りに出ると、すでに新撰組4人の姿はなかった。

「ああ、イキかけ…♥️いや、行ったみたいだね」

美星は少し恥ずかしそうにしながら、鉄に報告している。

「どうしたんですか?」

「?!」

美星はまさか本当に股がぐっしょりと濡れてしまったとはいえず、さすがに顔を赤くし、

「鉄さん、か…厠へ行きてぇんだ」

そういうしかなかった。

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