十二話 初めてのクエスト 其の二

申請をし終わったらいよいよ出発だ。


今回は街の近くの森林にいるデビルズラビットの駆除が目的だ。


駆除対象のデビルズラビットは二匹しか発見されておらず、さらにその二匹がつがいらしく、子どもが産まれる前に駆除して欲しいとのこと。


でも、二匹だけだったら楽じゃないか?

デビルズとついてるけど所詮はウサギだろうし。

まあ、森林を食い荒らすっていうのが少し引っかかるけど。


そんなことを考えてはいたが、実際は初めてのクエストということもあり、気持ちが昂ぶっていた。

それこそ不安なんか消し飛ばすくらいに。


すると、気持ちの昂ぶりが態度に出ていたのか、アリスが微笑みながら言ってきた。


「フフッ、そんなにクエストが楽しみなの?」


「うん、まあそんなとこ」


考えていることが読まれたようで、少し気恥ずかしい。


「カイトにも子どもっぽいところがあるのね」


アリスは母親のような目でこちらを見ながら言ってきた。


「俺はもう子どもじゃねーよ」


子どもと言われて少しムキになってしまった。


けれど、アリスは先ほどの調子を崩さずに、


「はいはい」


と軽くあしらってきた。


うーん、なんだか負けた気分だ。

ていうか負けたなこれ。最後のほうなんか親子の会話みたいだったし。



森林へ向かう途中のどうでもいい会話の中で新たに分かったことは、アリスには敵わないということもだった。

口で勝てなくて、ジョブの関係上物理でも勝てないとなると、今後はアリスに尻に敷かれてしまう可能性がなきにしもあらず。別に気にしていないが。




街を出て十分、それらしき森林が見えてきた。

背の高い針葉樹林と言ったところだろうか。

深緑の葉がうっそうと生い茂っている。


「ここね、デビルズラビットのいる森林っていうのは」


「アリスはここに来たことはないのか?」


この近さなら来たことはありそうだけど。


「ええ、私もそこまで長く冒険者をやっているワケではないの」


そこまでというのがどれほどの長さを差すのかは分からなかったが、ベテランではないらしい。


まあ俺と同じくらいの歳っぽいし、当然と言えば当然か。


そんなことを考えながら、俺はデビルズラビットの捜索を始めた。


デビルズラビットは洞穴などに生息して、木の幹を主に食べている。

木の根元からかじっていって、木を倒してから食べるのがふつうである。


一匹や二匹ならそこまで被害は無いが、数十匹となると話は変わってくるらしい。

しかもデビルズラビットは繁殖力がかなり強いため、数匹の内に駆除をしないと手に負えなくなってくるらしい。


こう聞く限りだとデビルズラビットが物凄く恐ろしい怪物だと思ってしまう。

実際のところ俺もでかい怪物を想像してしまった。


だが、そんなことを恐れていては今後冒険などできっこないだろう。

なので、どんな敵が向かってきても大丈夫なように身構えながら、慎重に捜索する。



デビルズラビットの捜索から一時間。


複数の洞穴を見てみたが、それらしき影は見当たらなかった。


洞穴の中の捜索を諦め、森林全体の捜索を始めた。

しかし、森林全体がとても広いために、くまなく捜索するというのがかなり骨の折れる作業となった。

しかも、俺はデビルズラビットを見たことがないため、動物を見つけてはアリスに報告するというかなり面倒くさいことをしていた。


そのせいか、一時間くらいの捜索だったのに一日捜したかのような疲れ具合だった。

このままでは埒があかないため、俺達は少し休憩することにした。



「こんなに見つからないものなのか?」


と俺が聞くと、


「いいえ、普通はすぐに見つかると思うわ。ここのデビルズラビット達は随分警戒心が強いみたい」


なるほど、どうりで見つからないワケだ。


これは丸一日掛かっちゃうかな。


ガサッ


ん? 向こうの茂みで何か音がした。

今まで出会ってきた動物のたてる音とは違う。

若干大きな音だった。


ついにデビルズラビットとご対面か?


そう思い、すぐさま戦闘体制に入った。

横を見るとアリスも剣の持ち手に手をかけていた。

俺も杖を持ち、何かしら出来るようにしておく。


ガサッガサッ


目に見える部分の茂みの揺れが顕著になる。

そろそろお出ましか?


ガサッガサッ シュバッ


そう思った矢先に何かが茂みの中から出てきた。


出てきたのは真っ白の体毛に覆われたウサギのような生物だった。

容姿はまさしくウサギなのだが、歯がうさぎのそれとは全く異なっていた。

むしろ歯よりは牙といった方が適切かもしれない。


「こいつがデビルズラビットよ!! 気をつけて!!」


アリスが注意を促す。

それだけ危険な敵なのだろう。


デビルズラビットは最初からこちらに気付いていたが、様子をうかがっている。

攻撃するなら今がチャンスだ。


しかし、俺には攻撃手段がない。

アリスに頼るしかないようだ。

そう思い、俺はアリスに声をかけた。


「アリス!! デビルズラビットは様子をうかがっているぞ!! 攻撃するなら今だ!!」


するとアリスは、


「分かっているわよ!!」


そう言ってデビルズラビットに向かっていった。

アリスが近付くとデビルズラビットはこちらを敵と認識した。


「ガルルルルルッ」


そして、ウサギとは思えないような鳴き声を発しながらアリスに飛びかかった。


その動きはとても速く、俺は目で追うのがやっとだったが、アリスはそれをいとも容易く避けた。

避けられたデビルズラビットは地面に着地すると、すぐさま二度目の攻撃を仕掛けてきた。


「グルルルルルッ」


アリスは剣を構えてデビルズラビットに斬りかかった。


「はあ!!」


ザシュッ!


さっきのデビルズラビットの攻撃は目で追うことが出来たが、アリスの攻撃は目で追うことが出来なかった。


「グオッ」


アリスの攻撃をくらったデビルズラビットはうめき声を上げて絶命した。


「ふう、とりあえず一匹は倒せたわね」


アリスは平然とした調子で言った。


「そ、そうだな」


一方、俺は一瞬の出来事だったので、返事をすることしか出来なかった。


「じゃあ、もう一匹を捜しに行きましょうか」


そう言ってアリスは歩き始めた。

アリスについて行くために俺も歩き始めた。


ゾクッ


その瞬間に悪寒が俺の体に走った。

これから悪いことが起きるかのように……


なんなんだいまのは?


俺はその正体を探すために辺りを見回した。

すると、木の陰からこちらを伺うデビルズラビットの姿を確認することが出来た。


その目は怒りに満ちているように見えた。

おそらく番が倒されるのを見ていたのだろう。

視線が前を歩くアリスに向いていた。


しかし、アリスは気付いていない。


どうにかしないとアリスが危険だ。


そう思った矢先、デビルズラビットがアリスへ飛びかかった。


やばい!


俺は考えるよりも先に駆け出し、アリスを守りに行った。


ドンッ!


「きゃっ!」


俺はアリスを押してデビルズラビットの攻撃線上から外した。


よし、アリスは守れたぞ!


そう思った瞬間、右腕に鋭い痛みが襲った。


ザクッ!


「ッ!?」


どうやらデビルズラビットの攻撃が当たってしまったようだ。

俺は右腕を負傷し、その場に倒れ込んでしまった。


「ちょっと! 大丈夫!?」


俺に押されたアリスは俺の右腕を見て声をかけてきた。


「俺は大丈夫だから早くデビルズラビットを!!」


正直、大丈夫じゃなかったがデビルズラビットを倒すのが優先だと思ったので、アリスに言った。


「わかったわ! ちょっと待ってて!」


そう言うとアリスは再び剣を抜き、デビルズラビットと対峙した。

デビルズラビットはアリスに向き直り、先ほどよりも素早く襲いかかった。


「グァァァァァ」


ザシュッ!


「グォッ」


しかし、アリスはそれよりも速く剣を振り、デビルズラビットを斬りつけた。


「ふう、終わったか」


俺は安堵しつつ息を吐いた。


「ええ、そうね」


アリスもホッとしていた。

二匹だけだったが、かなり怖いモンスターと戦ったのだ。ホッとするのは当然だろう。


ズキッ


「痛っ」


右腕の傷のこと忘れてた。

今になって痛みが顕著に現れてきたぞ。


「そうだったわ! カイト、右腕大丈夫?」


「まだ少し痛むけどたいしたことは無いと思う」


傷をなんとかしないと。

ていうか俺はヒーラーじゃないか。

自分で治せるだろう。


なんか漫画とかラノベとかでよく見る手をかざして治すみたいなことが出来るんじゃね?


俺はそう思って傷口に左手をかざした。


すると、手から光が出てきて傷口を塞いでいった。


おお、すげー。こんな感じになるんだ。痛みもひいたし完璧じゃん。


「よし、大丈夫みたいだな。じゃあ、クレアシオンに帰ろうぜ」


「ええ、そうね」


俺は立ち上がって森林の出口を目指した。


「あ、あの!」


すると、後ろからアリスが声をかけてきた。


「どうした? アリス」


「その、さっきは助けてくれてアリガト……」


頬を若干赤らめながらアリスがさっきのことについてお礼を言ってきた。


「気にすんなよ、困ったときはお互い様だろ?」


あれは俺の善意でやったことだし、結果的にアリスを助けられたから全然気にしていなかった。


アリスは俺の返答を聞いて笑顔でさらにお礼を言ってきた。


「ありがとう!」


しかし、このありがとうは先ほどのありがとうとは違った感じに聞こえる不思議なありがとうだった。

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