第10話 魔王と仲人の初デート

 私が起きた時、昼を過ぎていた。

 ……お昼食べたい。お腹すいた。

 午前中寝ていたにもかかわらず、お腹は正直だった。

 コックに頼んで何か余り物をもらおうと部屋を出たら、ジュリアスがいたので驚いた。

 とっさに一歩下がる。

「じ、ジュリアス?! なに?」

「……ずいぶん寝ていたな」

「ええ、おかげさまで。ゆうべ一睡もできなかったから」

 嫌味っぽく言ってやれば、ジュリアスがわずかに目を伏せた。

 反省しているらしい。

 ……え、もしかしてこれ、しょげてる?

 外見が恐いから分かりにくいが、間違いなくしょげている。

 獰猛なドーベルマンがご主人様に怒られて、しっぽ垂らしてしょんぼりしてるみたい……。

「あれ、もしかしてここで待ってたの?」

「少しな」

「用があったなら、起こしてくれればよかったのに」

「お前が部屋に入るなと言っただろう」

 私は思案した。

 もしかしてこの人、私が怒ったから、廊下で待ってたの?

 笑ってしまった。

「なぜ笑う」

「ごめんごめん。何ていうか……真面目なんだか強引なんだか」

 おかしな魔王だ。

「ああでも、本当に寝室には入ってこないでね。それで、何か用?」

「お前がこの前言っていた動物園が完成した」

 思いつきで魔獣たちの今後の住まいとして言ったプランだったが、なんとジュリアスは本当に作った。

 ドラゴン車による観光ツアーも準備中で、すでに車の改造は終わっている。

「完成したの。早いわね」

「魔法を使えば造作もない」

 そうか。重機を持ってくる必要もないし、コンクリ固めるのも簡単。コンクリートがあるかどうか知らないけど。

「視察に行くぞ」

「今から?」

 皇帝ともなれば、スケジュールは前々から決まっているはず。

「急な予定変更したら、周りが大変じゃない?」

「妃の考案した事業だ。私が見に行くのも当然だろう」

「私は妃じゃないんだけど」

 思いっきりねめつける。ジュリアスの冷凍光線のほうが鋭いから、あまり効果はないようだ。

「何と言おうとお前は私の妃だ。印もある」

 契約印の刻まれた左手をとられ、引っ張られた。

「ちょ、ちょっと! だから私の意見も聞きなさいよ!」

 こういう時だけ無視するんだから!


   ☆


 企画書通り、動物園は開放的な作りに仕上がっていた。

 私の目からすれば、ダンジョンがいくつかあって、それぞれ魔物がいるって感じだけど。バトルはなしで。エンカウントもしません。

 荒野のフィールドには恐竜みたいな魔物たち。海のフィールドには水棲のモンスター。空のフィールドには翼があるタイプ。花畑には植物系や虫系モンスター。

 虫は個人的には好きじゃないんだけど……この世界の人は平気らしい……。

 虫系モンスターの中には植物を育てるのが上手い種がいるという。そうやって自分たちが暮らす環境を保つのだそうだ。ほほう。園内の植物の管理は彼らに頼むことにした。

 翼のある魔物で大人しい種族には警備員になってもらい、上空からパトロールしてもらう。

 園内の清掃は「何でも食べる」系の魔物で綺麗好きなのを面接して集めた。

 話してみると、意外や意外。魔物はみんな大人しかった。協力を要請すると、案外あっさり応じてくれたのだ。

 私の隣にジュリアスがいて、無言の圧力があったのかもしれないが……。

「みんな大人しいのね。魔物ってもっと凶暴かと思ってた」

「そもそも人に危害を及ぼす魔物は退治されている。私が飼っていたのは、害はないが外見から疎まれていたものばかりだ」

 ……それって、自分と似てるから?

「なんだ。ジュリアスは行き場のない魔物を保護してたのね? シェルターを作ってたんじゃない。優しいわね」

 よしよしと頭をなでたら、魔物たちも仰天してた。

「優しい……? 私は優しくないぞ。恐いそうだ」

「優しいじゃない。ふふ。良い子」

 魔物がざわついてる。

「あ、あの魔王様をなでてるぞ。なんだあの人間」

「な、なんて女だ。いや、人間じゃないのか?!」

 人間です。普通の。

「みなさん、みなさんもジュリアス同様、見かけが恐いから人に誤解されてるだけ。みんなに分かってもらえるよう、一緒にがんばりましょう」

「は、はい、ご主人様!」

 めちゃくちゃいい姿勢で敬礼された。

 誰がご主人様だ。

 どうやらうっかりジュリアスをなでたことで、ジュリアスより強いと思われたらしい。「よくできたね」ってライオンをなでたつもりだったんだけど、裏ボス認識された。

 序列をきっちり分けて従う犬のごとく、魔物たちは私に従った。

 何で魔物まで従えてるんだ、私。

 今も私の姿を見ると平伏してくる。……やめて。

「魔物まで簡単に従わせることができるとは、やはり私の妃にふさわしい」

「違うからね?! うっかりジュリアスの頭をなでちゃったから、飼い主みたいに思われてるだけだって」

「そうか」

 飼い主というところにはつっこまず、ジュリアスはさりげなく手をつないできた。

 うわあああああ?!

 こ、恋人つなぎ。

 彼氏なし歴=年齢の私は赤面して固まった。

「な、な、な」

 ジュリアスの右手と私の左手をつなげば、おそろいの契約印がすぐ隣にある。

「夫婦というものはこうやって歩くのだとクレイが言っていた」

「クレイさん、なに余計なこと教えてるの?!」

 この場にいれば糾弾するところだ。

「あいつは既婚者だ。色々助言してもらった」

 それ以前にクレイさんは既婚者だったのか。

「え、クレイさんって奥さんいるの? 年齢的にはおかしくないと思うけど……ジュリアスと同じくらいよね?」

「同い年だ。子供もいる」

「お子さん、いくつ?」

「十二歳と十一歳と八歳と一歳とゼロ歳だ」

 まさかの六児の父。

「……奥さん、育児が大変そうね」

「あいつは早くから神官として頭角を現していたからな。神官は給与が安定している」

「そう……」

 神官は妻帯OKなのね。

「素朴な疑問だけど、ジュリアスは即位前、何してたの?」

「軍人だ。傭兵として働いていた」

 仮にも王子の子が傭兵。いかに捨てられた存在だったか分かる。

「王室から捨てられた以上、役人にはなれない。人に恐がられる外見もあり、戦場のほうが楽だった」

 そりゃ戦場ではその外見は役立つでしょうね。むしろ適職でしょうね。

「……でも危険じゃない」

 現代日本に生まれた私は、戦争とは無縁の暮らしを送ってきた。傭兵がどれほど危険な職業なのか、想像もつかない。

 ジュリアスはあっさりしたものだった。

「いつまでも乳母一家に迷惑をかけるわけにはいかないからな。何も持たないガキが独力で生活するには、傭兵はちょうどよかった。私は魔力も強かったしな」

 けど、一歩間違えば死んでいたはずだ。

 私はジュリアスを見あげた。

 金と紫の瞳に悲しみはない。本当に苦痛を感じてはいなかったのだろう。でもそれは本来あったはずの喜怒哀楽という感情を全て捨てたからではないか。

「……ジュリアスが死なないでくれてよかった」

 私はつぶやいた。

 もしそのまま死んでいたら、彼は嬉しいこと・楽しいことを知らずに死んだことになる。あまりにかわいそうだ。

 せめてそういう経験をさせてあげられたらいいのに……。

 ジュリアスが切れ長の目をわずかに大きくして、すっとそっぽを向いた。

 また一体何。

 ふと視線に気づいて周りを見れば、フェイたち侍女や護衛たちから生暖かい視線を向けられていた。

 そこで初めて誤解を招く発言だと気づいた。

「ち、違うからね! そういう意味じゃないから!」

 必死で手を振る。

「エリー様、陛下を心配されるなんて……本当に愛しておいでなのですね。手をつなぐだけで照れるのも初々しい」

「さすがご主人様、魔王様を手の中で転がしておられる」

「お妃様の可愛らしさに陛下も嬉しくてたまらないご様子だ」

 ヒソヒソ言うな。

「わ、私はジュリアスなんか好きじゃないってば!}

 慌てて手を振りほどこうとするも、放してもらえなかった。

「は、放してよっ」

「嫌だ。夫婦はこうするものだ」

「他の人にもきいてみなさい! そんな夫婦ばっかりじゃないって教えてくれるから!」

「そうなのか?」

 ジュリアスの問いに、一斉に首を横に振る一同。

 裏切り者!

「お前の世界ではどうなのだ?」

「う……中がいいカップルや夫婦は手くらいつなぐけど……人目は気にしようよ」

「皇帝夫妻がなぜ人目を気にせねばならん?」

 ああそうね、最高権力者ですよね。

「それでも恥ずかしいことはやめたほうがいいと思う」

 常識は守ろうよ。

 ジュリアスは少し考えて、

「だが、お前はここを新たなデートスポットにするのだろう? その感覚をつかむのに必要ではないのか?」

「う……」

 私はただ動物園を作るだけじゃなく、結婚相談役としてここをデートスポットにするつもりだった。

 しかし自分がデートする必要はないことに思い当たらないあたり、かなり動揺していたのだろう。

「……そうね、これは仕事よね」

「ああ」

 それもそうかと手つなぎを許可した。

 なにもそうしなくてもよかったと気づいたのは、だいぶ後のことである。


   ☆


 写真スポットとして宣伝予定のハート型花時計はいい仕上がりだった。

 ピンク系の花をふんだんに使い、周りはバラで囲う、ゴージャスな仕様。

「派手だな」

 ジュリアスの感想は一言だった。

「そういうこと言わないの。ピンク、ハート、花、豪華。これは女性にうけるのよ。私の原案もたいていそういう絵がつけられたし、そのほうが売れるのよね」

 事実、漫画家さんがそう描いてくれた扉絵の複製原画読者プレゼントはけっこうな倍率だったそうだ。私もほしかった。

 原案者の特権ってことで、一つくれませんかね担当さん。

 お代払うからサイン入りの一つください!

「お前もこういうのが好きなのか?」

「そりゃ私も普通の女だもの。嫌いなわけないでしょ」

 ジュリアスは何やらうなずいている。何なのだろう。

 ところで植物の手配に関しては『親指姫』に全面協力してもらった。やはり妖精、プロに任せるに限る。

 漂う香りも植物の配置も絶妙なバランス。品種もこの国の気候や土にあったものを準備してくれた。

 ちなみにすぐ隣に出張店舗がある。無理言って早くやってもらったお礼に、出店許可した。ここで可愛い香水やアロマは売れるだろう。

「夜間のライトアップの点検もしないとね」

 園の中心部であるこの花時計を中心にイルミネーションも作ったのだ。

「それなら今すぐできる」

 え?と言う間もなく辺りが暗くなった。

「わっ、何?」

「ライトアップを見たいのだろう?」

 ぼーっとイルミネーションが浮かび上がった。

 ハートの花時計から始まり、園内全体のライトがともる。各エリアに合わせて作り上げたイルミネーションはそれはそれは綺麗だった。

 荒野のフィールドは『アラジンと魔法のランプ』。海は『人魚姫』。空は『かぐや姫』。花園は『白雪姫』。それぞれ物語をモチーフにした。

 こっちの世界に電球はない。ジュリアスがこの前見せてくれた、白熱電球みたいな明かりを使った。色を変えるのも自由にできるというので、何色も使い分けた。

 噴水では水と光のショーが始まる。ホログラメーションも加わって、幻想的だ。

 まるで物語の中に入り込んだみたい。

「すごい、綺麗……! 想像上ね!」

 ついてきた侍女たちも歓声をあげている。

「そうか。よかった」

「ところで、昼間なのにどうやったの?」

「周囲に結界を張り、その中だけ暗くした」

 そんなこともできるのね。

「うん、いい感じ! これは人気スポットになるわよ。インスタ映えしそう」

「何だそれは?」

「ああ……ええと、写真撮るのにいい場所ってこと。これだけロマンチックなら、告白スポットとして十分ね!」

「告白……」

 ふいに手を握る力が強くなった。

「エリー」

「なぁに?」

「一生私の傍にいてほしい」

 ぼんっ。瞬時に顔が赤くなった。

「な、なな、何を……」

 こういうシチュエーションで言うのは反則でしょ?!

 き、聞き間違いじゃないわよね。

 ジュリスはどこか不安そうな犬みたいに見つめてくる。

 うう……やめてよ。それ弱いんだって。

 ジュリアスは不機嫌そうな顔してても、なんだかんだでイケメンだ。普段は仏頂面なのに、自分だけにこんな弱い面をさらされたら……女はほだされるって。

「じ、ジュリアス……」

 こ、こういう時どう返すのが正解?

「私にはお前が必要だ。元の世界に帰らず、共にいてほしい」

「う……」

 うん、とうなずきたくなる力があった。

 心臓がドキドキうるさい。

 侍女たち、声にならない「キャー」って黄色い歓声やめて。

 ……このままこっちの世界にいてもいいんじゃないの?

 そう考える自分がいる。

 元の世界に帰れば、地味だけど平凡な生活が送れる。私が望んだ、可もなく不可もない人生。

 だけどここにいれば私の発送を面白いって言ってくれる人がいて、必要としてくれる人がいる。

 何のとりえもないって思ってたけど、役に立って、「ありがとう」って言われるのは嬉しい。

 それに、ちょっと……いや、かなり難はある!けどイケメンな皇帝の妃。

 誰だってぐらっとくる。

 一生傍にいてほしいって……まるきりプロポーズじゃないの。

 って、もう結婚してるけど。

 ジュリアスが私の夫―――。

 うう……。

 赤い顔がさらに赤くなる。

 ど、どうすればいいの?

 だって私、男性と付き合ったこともないし、どうすればいいか全然分からない。しかも付き合うすっとばして結婚って。

 そ、そもそも私、ジュリアスを好きかどうか分からないしね?!

「―――うん、なんて言うわけないでしょ!?」

 手を振り払った。

「雰囲気にのまれると思ったら大間違いだからね!」

 ジュリアスが目に見えて暗い雰囲気を醸し出す。暗黒をまとったようになっている。

 そ、そんなしょげた顔しても無駄だから!

 これまでならジュリアスがどす黒いオーラを放つと逃げてたフェイが、くすっと笑って言った。

「陛下、人前ではエリー様も恥ずかしいですよ」

「……恥ずかしがってるだけか?」

「ちょっと、フェイ!」

 これまでなら逃げ出す侍女たちもケロッとしてその場にいて、生暖かい笑みを浮かべている。

「恥ずかしがってないっ! デタラメ言わないで」

「ツンデレですね、エリー様」

 口をあんぐり開けて固まる。

 だ、だれがツンデレ……。

「何だそれは」

「きついことを言っていても、意地っ張りなだけで本心じゃないってことです。ツンツンしてても時々デレっとなる。ほら、先ほどデレてたじゃないですか」

「違う! あれは違う!」

 断固抗議する!

「ふむ……本心ではないのか」

「本心だから! 私は帰るの、ジュリアスのお妃にはならないの!」

「帰る? では城へ帰るか、我が妃よ」

「城へ帰りたいって意味じゃないわよ?!」

 侍女と護衛と魔物たちの生暖かい視線にさらされながら、私は城へ連れ戻された。


   ☆


「は―――……」

 ぐったりしてソファーにへたりこむ。

 ジュリアスの執務室まで連れてこられた。

 精神的にキャパオーバーした……。

 頭に手をやろうとして、手の甲の契約印が目に入る。

 ……本来の利き手にこれがあるとか、地味にダメージくらうわ……。

「どうした」

「……この国じゃ王族―――皇族は結婚の印がこうなんだなと改めて思っただけ。私の世界じゃ違うから」

「お前の国ではどうなんだ?」

 書類を片付けながらきくジュリアス。真面目に仕事はしてるのよね。

「たいていは左の薬指に指輪をはめるの」

「我が国でも多いやり方だな」

「この国では宝石がついてるでしょ。アフロディテさんの時に聞いたけど、相手の瞳の色の宝石がついた指輪をはめる習慣なんだって? 私の世界だと、何もついてないわ」

「簡素だな」

 そうと言えばそうかも。

「婚約指輪はダイヤね。結婚指輪は宝石なし。ただ、裏側にお互いのイニシャルや日付を掘ったりするわ。結婚した日の日付ね」

「そうか」

 ロマンチックなプロポーズのシーンも、結婚指輪をはめたヒロインが喜ぶシーンも作ったっけなぁ……。

 それが自分はこう。

 フィクションは現実にはありえないって分かってるけど、へこむわ。これじゃまるきり悪魔の契約印だもんね……。夫は魔王って言われてるし……。

「はああ……」

 ……いつまでもへこんでても仕方がない。頭を切り替えよう。

 頭をふった。

「ところで、この国には遊園地ってないの?」

「遊園地?」

 単語すら聞いたことがないらしい。

「機械……こっちだと魔法で動くアトラクションがいくつもあって、遊べるテーマパークのこと。動物園と同じくらい、私の世界じゃ定番デートスポットよ」

 下手なりに絵を描いて説明した。

 私はあまり絵が上手くない。漫画家でなく原案製作者になったのはそのためだ。

「こういうものはない。娯楽といえば貴族は舞踏会、庶民は酒場くらいのものだ」

「それはつまらないわね。作りましょ。子供のいる家庭も遊びに行けるわよ」

「遊園地か。分かった。他にはないか?」

「水族館もおすすめね。あと、空はドラゴン車の観光ツアーを企画中だから、海で豪華客船クルーズなんてどう?」

 金持ちヒーローと豪華客船ってパターンもよく作った。

「船ならある。戦争時に使ったものだ。今は使うこともなく、処分に頭を悩ませていたが、改造して観光船にするか」

 写真を見せてもらったら、空も飛べる船だった。軍艦だから作りもしっかりしてるし、改造すればちょうどいい豪華客船になる。

「これいいわね」

「手配しよう」

 いいなぁ、空も飛べて海も潜れる、翼のついた船。まさにメルヘン。

「他は?」

「無料のデートスポットもほしいわね。綺麗な花畑とか公園」

「食える花でもいいか?」

「……いいけど、何で?」

 食べたいのかな? それともこっちでは花は食べるのが普通なのだろうか。

「戦争後、荒れた畑を元に戻すのに、まず肥料となる植物を植えている」

 ああ、レンゲみたいな? 雑草に見えるけど、土にすきこむと肥料になる植物がある。

「それが花をつける品種だ。人間も食べられる。時期によっては一面花畑だ」

 これも資料写真があったから見せてもらった。シロツメクサやレンゲ、菜の花のようだ。

「うんうん、これいいわね」

「これならそのまま使える」

「でも花はずっと咲いてるわけじゃないでしょ。その時期以外はどうするの?」

「牧草を植えているところもある」

 牧草……。

「つまり食べる家畜がいるのよね?」

 牛やヤギ、羊のような動物だった。世界が違うから少し形も違うが、大まかには同じ。

「牧場も併設したら? 開花時期以外はそっちで稼ぐ。ふれあい牧場なんか人気よ。エサやり、乗馬体験」

「馬なら戦争時に使った。その後が同じように困っているが」

 地球の馬とは少し違ったけど、同じように乗れるらしい。

「ちょうどいいじゃない。そうだ、地球でも牛は牛乳がとれて飲み物や食べ物が作れるんだけど、こっちでは?」

「ある。なるほど、飲料や加工食品も売れるか」

「お土産だけじゃなく、レストランで新鮮な料理を提供。元々農地再生プロジェクトなんでしょ、農地にできるとこは農地にして、食材を産地直送」

「ふむ……戦争で職を失った者はたくさんいる。雇用問題も解決せねばならなかったし、両方クリアできるな」

 失業者対策で公共事業や公共工事をやるのは鉄板だ。

「企画書にできるか?」

「もちろん! 今から作るね」

 私はさっそく机に向かい、書き始めた。

 頭の中がアイデアでいっぱいだったから、ジュリアスのつぶやきは聞こえなかった。

「……やはり私の妃はお前しかいないな」

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