第3章_11 気付くこと


世界中に私とあなた

二人だけがいればいいのに


何もなくて、誰もいなくて

ただ、目の前に大好きな笑顔があればいい

そんなバカみたいなこと考えてた




ハルは今、何を思ってるんだろう

もう、私のこと嫌いになっちゃったの?


彼に会いたくて ただ、会いたくて




1週間が過ぎた頃、

私は気が付くと彼のマンションへ向かってた


近くまで行くとなかなか進めなくて、躊躇ってた



冷たい雨がポツリポツリと降り始め、寒くて…ハルのあったかい胸が恋しかった




「もう、私…ダメだよ ハル」



座り込んだ時

背中から抱えられるように支えられた



「幸世」



振り向いた瞬間、愛しい彼の顔がボヤけてしまった


きっと、これは夢なんだね




目が覚めると心配そうに見つめる大好きな人の顔があった



「幸世、大丈夫か?」


「ぅん」


「はぁー、良かったぁ

びっくりしたぁ」


「夢じゃないの?」


「ん?」


「ハルなの?」


「そうだよ」



涙が止まらない




「ハル、私ね、ハルに会いたかったの

会いたくて会いたくて……」



彼に飛び付くように抱きついた

背中をさすりながら、少し掠れた声で言った



「俺も」



「ハル…いいの?」



「俺は…幸世がいないなんて、耐えられなかった」



「私も…ハルがいないと」



「もう、離さないから」




強く抱きしめ返された時にまた温かい涙が溢れてきた



大好きな彼の温もりと香りに包まれると全身の力が抜けて心も身体もすべて委ねてしまう



腕を緩めて長い指先で涙を拭ってくれるとどちらともなく、重ねた唇


何度も確かめるように角度を変えて繰り返すキスに頭がフワフワとして、息が苦しくなる

唇が首筋へと思ったら急に彼は動きを止め私の顔を覗きこんだ



「幸世…やっぱり、体調良くないよね?」



「ふっ…はっ…うううん、大丈夫っ」



「さっき、顔色真っ青だったよ

今も…」



おでこをくっつけて熱を計った



「ちょっと熱あるね」



「大丈夫だって」



「ハハ、何だよ?それって、続きしてほしいってことなの?」




俯いて手をキュッ握ったと思ったら潤んだ瞳で真っ直ぐ見つめられる

それだけで、すぐにでも抱きたくなったのに



「……して…ほしい 」



「もう、反則だよ

ヤバイからそういうのやめて」



「だって」



「俺は幸世の身体が大事だからしないよ」



「もっ、恥ずかしいじゃない」



背を向けた彼女を抱き上げてベッドに寝かせ隣で横になった



「きゃ、何?」



「はい、安静にする」



「わかった

ハル…ここにいてくれる?」



「うん…結構辛いけどね(笑)」



「わがまま言ってごめんなさい」




彼女の柔らかい髪を撫でながら耳元で囁いた



「いいよ、元気になったら、しっかり返してもらうから」



頬に触れるだけのキスをするとゆっくりと瞼を閉じた彼女の寝顔を俺はいつまでも眺めてた





大切な人をなくして初めて知る

どれ程かけがえのない存在なのかを…。


当たり前の日常の中、何が大切なのか?

わからなくなる時がある

気付かせてくれる何かがあったのなら…もう2度となくさないようにしたい



でも本当に大切なことはきっと、気付くことなのかもしれない

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