第1章-14 宝物にサヨナラ


私達はここから帰る前に少し離れた別のスキー場のペンションで1泊することにした




私はカズとキスしたことを思い出して、一人でいても顔が緩んじゃう



「ノン、何にけてんの?やらしいことでも考えてんじゃないのー?」



「そ、そんなことないよ」


と言いながらも、カズに見透かされてるような気がして顔が熱くなった



「あー、やっぱり図星だ、ノン、えっろ」



「えろえろカズには言われたくないよー」


そう言いながらも、明後日からのカズとの1泊旅行のことを考えると気が気じゃなかった


その後に待っている別れのことも……





そして、ここを発つ日


カズとの思い出がつまったこの場所にさよならする


私達はいつも星空を見に行ってたゲレンデの大木の下に立った




雲1つない青空


空の青さと雪の白さがまるで水彩画のように鮮やかで……

何も言わず、ただ、黙って肩を並べてた




「ノン、そろそろ行こうか」



「……もう少しいる。カズ先に行って」



「そっか。じゃあ、荷物出しとくな」



「うん、ありがと」



私は歩いていく彼の後ろ姿をじっと見つめながら、ポケットの中に入れてきたモノを取り出した




もうグチャグチャになってしまった飴玉を

雪の中へそっと埋めた




カズとの思い出の場所へ大切な宝物を置いていこうと思った



大木を見上げると…

雪の重さで垂れ下がった枝が風に揺れ、

晴れた空からたくさんの雪が舞い降りてきた。

キラキラと輝いて、とても綺麗で……



カズ、ここは…この場所は……

いつも、あったかいね






近くのスキー場へはバスで移動し、

バス停からペンションまで少し歩いた



「ノン、早く来いよ」


「ちょっと待ってよ~、きゃー」


ドサッ


「だっせぇ、こんなとこで転ぶなよ。

俺ら雪道は慣れてんだろ?」


「カズがさっさと行くからよ」


「はいはい、お嬢さん、お手をどうぞ」



カズが手を差し出してくれたので掴まろうとすると、いきなり、雪の吹きだまりに突き飛ばされて、全身雪まみれ



「もうー、何するのよー」


反撃しようと向かっていくけど、軽くかわされる。




「ハハハぁ、ノンは一生俺には勝てないって」


「ムカつくぅ、絶対仕返ししてやるんだから」



「ごめんごめん、ほら」


カズが私の頭や肩についた雪をはらってくれた。

唇が近づいて思わずドキッとした



チュッ


「え?な、なに」


「だって、ノンがキスしてほしそうな顔してから」


「それはカズがでしょ」


「いや、ノンが」


「カズがぁ」


「ノンだってー」



くだらないことを言い合って笑った

明日、別れが訪れること……

そんなこと二人とも百も承知だった



ただ、ただ、"今”という時間を大切に過ごしたかった



不器用で素直になれず意地を張ってた

今までの時間を取り戻すかのように…。



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