第1章-3 カズとリュウ


シーズンが明け、2回生になった


私達はあれ以来、名前で呼び合うようになり、お互いのことをよく話すようになった


ひと冬の山での生活は彼との距離を近づけていた




普段のcampus life


カズは相変わらずのモテモテぶり

適当に付き合っては別れ…を繰り返していた



私はそんなカズに何故か苛立ちを覚えていた


好意を持ってくれる人が現れても、アイツの存在が心の奥にドーンと居座って自由に動けなかった




同期のリュウは冗談交じりにいつも言ってた


「カズは難しいぞー。俺にしとけよ」って。



リュウはいつも私の重い気持ちを知らないうちに軽くしてくれる。







バシッ

後ろから頭を叩かれた



「相変わらずボーッとしてんなぁ。何考えてたんだぁ?お前も男ぐらい作れよなぁ」



「いったぁーい、ほっといてよ、カズみたいにあっちもこっちもって訳にはいかないんですよー」



動揺を隠しきれてない気がして足早に立ち去ろうとした瞬間、カズが私の腕を引っ張って壁際に押しやった



唇スレスレのところにカズの唇

息がかかるほど…。


どこ見ていいかわかんない





「俺が……お前のこと欲しいって言ったら?」




鋭い目は真っ直ぐに、まるで、私の瞳孔を捉えるように動かない



心臓が止まりそう






「バーカ、そんなこと言うかよ」



ケラケラ笑いながら去っていくカズ




悔しい、ムカつく

馬鹿にしてる!



アイツ私の気持ちなんて、これっぽっちもわかってない


いやっ、わかってて弄んでるの?



大きく息を吸って、気持ちを落ち着かせ、歩き出そうとした時、数人の女の子達がすごい、形相で私の前に立ちはだかった。




「何か?」


「何か?じゃないわよ。あなたカズとはどういう関係?」



あー、そういうことね



無視して横を通り過ぎようとした時、思い切り突き飛ばされた


フワリと浮いた体を支えてくれた逞しい腕があった



「リュウ?」



「お前らなぁ、文句あるんなら、カズに言えよ」



いつもの優しい笑顔とは別人のような厳しい表情。


騒ぎに気付いて駆け寄ってきたカズ


そんなカズに間髪いれず、リュウが怒鳴るように言った


「カズ、ちょっと話がある」



リュウは私の腕を離さない


どんどん歩いていく後ろからカズもどこか淋しそうな表情でついてきた




私は…カズの顔を見れなかった





「カズ、お前がいい加減なことするから、ノンをあんな目に合わしたんだ。俺は許さない」



「へ?リュウ、ノンはお前の女か?じゃあ、しっかり掴まえとけばいいだろ?」



「お前なぁ…ノンは……

わかった。ノンは俺が守る。絶対誰にも渡さない。いいんだな」




リュウの言葉に肯定も否定もせず、

一言も発することなく、俯いたまま静かに去っていった



ずるいよ…



私は心の中でカズの背中に向かって叫んでた

「カズ…行かないで」と…。




何が起こったか整理がつかず、ハッと我に返ると腕を強く掴んでいたリュウの手が私の手を優しく握ってた



しばらく何も話さず歩いた




大きな手があまりにもあったかくて、

いつもすぐ泣いちゃう私なのに、その手から伝わるリュウの気持ちが嬉しくて、

不思議と涙が出なかったんだ




カズといる時とは違う穏やかな気持ちになる自分がいた




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