第四章 工業高校生にとっちゃ、こんなん朝飯前っしょ!

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 鎌倉は、倒れた襖を両手で抱えて填め込みながら、社務所の階段を上って二階にやって来た煙水中を睨み付ける。

「よお、東大デモクラシーとは、このことだな」

 煙水中は無表情のまま、首を傾げる。

「灯台もと暗し、のことですか?」

「お、俺の通ってる大学では、い、言い方が二通りあるんだよ、クソ眼鏡!」

「そうですか」

 煙水中は、東大デモクラシーとは何であるかを必死になって取り繕う鎌倉をよそに、畳の上に横になるミヤコの元へと向かう。

「よう、久しぶり!」

 ミヤコは横になり、頬杖をついた状態で顔を上げた。左手を挙げて挨拶をする。ミヤコの姿を見た煙水中に、呆れたり怒ったりの表情はない。

 おい、反応ゼロかよ。ま、どうせ、そうだと思ったけどよ。一週間ぶりに顔を見たけど、相変わらずの能面みてえな無表情だな。元気そうじゃねえか。安心したぜ。

 煙水中はミヤコの隣に腰を下ろし、正座をして畳を軽く叩く。

「ん、なんだよ。男の膝枕は嫌だぜ」

「俺も、寝釈迦の彼女は御免だ。その体勢、あまり、行儀が良いとは思えんが」

「はいはい、座れってことな。全くよぉ、お前が来るのが遅いからよ、すっかり眠くなっちまったぜ」

 超特急で来るように、煙水家が火事だっ、って小芝居まで打って、辻村に消防車のサイレンのモノマネまでさせたのによ、遅えんだもん。お前が電話口で「全焼したら火災保険で新居でも建てる」って平然と言ってのけたのには、恐れ入ったぜ。

 ミヤコは身を起こすと、グッと背伸びをして、大あくびをする。煙水中は部屋の隅で体育座りで小さくなっている外国人青年三人に視線を投げ掛けた。壊れたギターを抱えた金髪の青年は、煙水中と目が合うと、引き攣った笑顔を浮かべ、左手を挙げて「ハ、ハイ」と挨拶をする。

 ハイじゃねえっつうの、金髪のあんちゃんよぉ。へっぴり腰だし、体は震えてるし、アタシらは凶暴な犬じゃねえってば。

「ずっと、あの調子。ハイって返しても、結局、てんで英語が分かんねえから、会話が続かねえ」

 ミヤコは胡坐をかいて、口の先を尖らせる。煙水中はミヤコの捲れたスカートの裾を直し、襖を填め込む鎌倉に視線を投げる。背中に視線を感じた鎌倉が振り返る。

「俺は英語が喋れねえ。金儲けが絡まねえなら、喋る必要もねえ。以上っ」

「なるほど。ミヤコ、五十鈴は?」

 ミヤコは親指を立てて階段を差す。

「五十鈴? ああ、辻村なら、太公望釣具店のオヤジに、大道芸人どもの名簿を借りてくるって。名簿と照らし合わせれば、何か分かるかも知れないからって言ってたぜ。マメったいら?」

「マメは、あいつの性分だ。この空気は堪らなくて逃げたってのも、少しはあるだろうな」

 違ぇねえ。英語で話しかけられている間、辻村の顔はミケそっくりで、どこか痒いのか分かんねえが、鼻や口元をヒクヒクさせて、そりゃあもう、ブサイクだったぜ。

 煙水中は、黒のセルフレームの眼鏡を人差し指で押し上げる。

「まあ、五十鈴のことだ。太公望釣具店に事細かに経緯を説明しているだろう。手間が省けた。……さて」

 煙水中は、左手を挙げたまま言葉を探している金髪の青年と目を合わせ、口を開く。

 んんっ? なに? 今、コチョコチョって唇をほんの少し動かしたけど、もしかして喋った?

 ミヤコは煙水中の脚に右手をついて、回り込むようにして口の動きを凝視する。

「なあ、おい、喋った? 英語、喋ったのかよ? なんて言ったんだよ。なあ、おい、教えろよ」

 煙水中は肩を竦め、体重が掛かったミヤコの右手を退ける。

「イギリスの出身か、と聞いただけだ」

「え、英語を使うのって、アメリカ人じゃねえの? なんでイギリスなんだよ?」

 煙水中は死んだ魚のような目でミヤコを見る。

「ミヤコ、お前が聴いているロックの歌詞は英語だろう。英語の英は、イギリスの英だ」

 ……そう言われれば、そうだ。ロックン・ロールのお膝元はイギリスだ。《レッド・ツェッペリン》の歌詞は……英語だ。《ピンク・フロイド》もイギリス出身なのに、英語だ。《ディープ・パープル》もイギリスなのに英語だ。《AC・DC》は、オーストラリアだ。オーストラリアって、あの拡大コピーした四国みたいな形の国で……ええい、オーストラリアは、とりあえず引っ込んでろっ! 

「つまり、この金髪のあんちゃんたちは、イギリス人ってことだろ? つか、なんでイギリス人って分かったんだよ。あっ、勘か! ギター持ってるから、イギリス! ロックン・ロール・イズ・イギリス! さすが、名探偵!」

 ミヤコは煙水中の背中をバシバシと叩き、鎌倉も「なるほど」といった表情で、何度も頷く。煙水は無表情のまま、淡泊な口調で否定する。

「違うぞ。日本語に訛りがあるように、英語にも国によって訛りがある。それだけだ」

 あっそう、ギターじゃなくて、訛りねえ。大阪弁や東北弁、静岡弁みたいなもんか。

 するってぇと、中は、金髪のあんちゃんがちょっとだけ喋ったのを聞いて、イギリス人じゃねえかなって判断したってことか。よく分かんねえけど、スゲエな。スゲエのか、分かんねえけど、スゲエんだろう。

「いよっ! 煙水中大明神! さすがっ! さすが……えーと、花火師!」

 ミヤコは煙水中の背中を、びしばし強く叩き、盛大な拍手を送る。鎌倉も胸の前で腕を組み、深く頷く。

 名簿を持って社務所の二階に戻ってきた辻村が、煙水中の置かれている状況を、怪訝な表情で窺っていた。辻村は手に提げた名簿を煙水中に渡し、ミヤコの口調を真似る。

「いよっ、年中苦労人。長男と三男の蝶つがい次男坊っ」

「果たして、逃げた男に発言権はあるものか」

「やですねえ、戻ってきたじゃないですか。ちゃんとヒントだって手に入れたんですから」

 煙水中は受け取った名簿の付箋が貼ってあるページを開き、ミヤコも覗き込む。

 ボランティアの学生が作った名簿のようで、見やすく作られているが、鉛筆や赤ペン、蛍光ペンといったバラバラの文房具で到着確認の印を付けてあるので、非常に見にくい。

 ミヤコは名簿に目を走らせて、下から三行目の欄を指差す。

「おい、中、ここだけ、チェックがねえぞ」

 ミヤコが指差した名簿欄には、英語にフリガナが振られ《アイアン・ワークス》と記載されている。

 アイアン・ワークスって、バンド名? あ、もしかして金髪のあんちゃんたちが、このアイアン・ワークスなんじゃねえか?

「なあ、あんたらさ、アイアン・ワークスって名前だろ!」

 ミヤコは振り返って金髪の青年に笑いかける。が、金髪の青年は首を横に振り、項垂れて「ノー」と肩を落とす。

 え? アイアン・ワークスじゃねえの? あーもう、そんな泣きそうな顔するなって。頭ぁ下げて、がっくり肩も下げて、ここだけやたらと重力がドーンと掛かってるみてえだな。こっちまで気が重たくなってくらぁ。

「おい、中。適当に励ましてやってくれよ、って、聞いてんのか、おーい」

 ミヤコが呼び掛けるが、煙水中は目を細くして名簿に視線を落したまま、てんで動かない。ミヤコが目の前でブンブンと手を動かしても、脇腹をくすぐっても、膝を蹴っても、反応がゼロ。

 ミヤコは辻村に向かって、肩を竦める。

「こいつ、頭ん中で、色々と考えてるみたいだぜ」

「恐らく、僕の持って来たヒントが、確信に変わりつつあるんでしょうねえ」

 鎌倉が煙水中に歩み寄り、名簿を上からヒョイと取り上げる。アイアン・ワークスと書かれた名簿欄を透かすようにして眺め、そのまま視線を金髪の青年へ移す。沈黙したままの煙水中の背中を脚の裏で小突き、片方の眉を吊り上げる。

「おい、煙水。澄ましやがって、てめえは弥勒菩薩か、ってんだ。俺ぁ、こいつらに関わって儲けが出るのか出ねぇのか、そいつを知りてぇんだ」

 ミヤコは鎌倉の手から名簿を取り上げて、辻村に返す。

「んなことぐらい、てめえで考えろ」

 鎌倉め、口を開けば「金」かよ。呆れるぜ、全く。困ってる人がいれば助ける。でもって、人助けに損得はねえってんだ。そいつが貧乏だろうが金持ちだろうが、はたまた、外国人だろうが宇宙人だろうが関係ねえ。そんな当たり前のこと、幼稚園児のクソガキだって、毛虫だって知ってらあ。

 睨み合うミヤコと鎌倉の様子に戸惑いながらも、金髪の青年が無理矢理どうにか笑顔を作りながら、仲裁に入ってくる。辻村が金髪の青年の肩を軽く叩く。

「いつものことですから、客人が余計な気を使う必要はないですよ」

 そうだぜ、金髪のあんちゃん。あんちゃんは大人しく待ってなって。

 ミヤコは辻村の言葉に鷹揚に頷く。

「そうだぜ、アタシたちがどうにかしてやるから、笹舟に乗ったつもりで、でーんと構えてればいいんだって!」

「大船だ。泥船よりは幾分かマシだが」

 煙水中は抑揚ゼロの声音で口を挟み、正座の状態から、敏捷にすっと立ち上がる。

 おお、喋った、動いた。

 ミヤコは煙水中の耳を掴んで、ぐいぐいと引っ張る。

「で、どうすんだ?」

「移動だ」

「場所は?」

「ミセス・ロビンソン。壊れた楽器を直す。俺は、会長さんに話があるから、先に行け」

 煙水中は巧みな英語で金髪の青年、残りの二人と、言葉を交わす。壊れた楽器を指差して、事情を説明している様子だ。

 金髪の青年は楽器に視線を落とし、ニャモニャモと呟いている。

 どうせ、直らないよ、とでも言ってんのかな。ここまでぶっ壊れてるんだから、やってみりゃあいいら? チャレンジあるのみ。よっしゃっ、そうとなれば、さっそく運搬だ。力仕事なら、任せとけっ。

 ミヤコはバスドラムの入った一番大きなケースを片腕でヒョイと担ぎ上げ、肩に載せた。更に、両脇にタムドラムを一つずつ抱え、両腕にシンバルの入ったケースを引っ掛ける。

 鎌倉が部屋を出ようとする煙水中の背中に尋ねる。

「で、金になりそうかよ? 金になるんだったら、俺はもうちっと付き合うぜ」

 鎌倉、さっきから金、金って、うるせえぞっ。お前は未来永劫、金輪際、古今東西、引っ込んでいやがれ!

 ミヤコは、ドラムを担いだ状態で飛び蹴りの体勢を取る。慌てて辻村がミヤコを宥め、煙水中は踵を返し、体の正面を鎌倉に向ける。

「鎌倉さん」

「おう、なんだ。言っておくがな、襖はもう填め込んだからな」

「その填め込んだ襖、裏表が逆です。それでは、俺たちは、先を急ぎますんで」

「え、あ、おい、え、あ、ちょっと、ちょっと待てよ!」

 鎌倉は襖を両手で掴んでガタガタと動かして填め直そうとするが、上手く外れずに地団駄を踏む。

 へっ、ざまあ見ろってんだ。ずっと襖相手に、ガタガタ踊ってやがれ。

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 辻村は《ミセス・ロビンソン》の鍵を開け、それまで手に持っていた、黒色の壊れたギターをカウンターへ静かに置いた。収納棚から方眼紙を取り出すと「本日、猛暑のため臨時休暇」と筆を走らせる。布テープを裂いて、接着面同士をくっつけて輪を作り、《ミセス・ロビンソン》の扉へ貼った。ドラムセットをライブ・スペースに置いたミヤコは、張り紙を見ながら、細い顎からぼたぼた滴る汗を、作業着の袖でぐいっと拭う。

「いいのかよ、臨時休暇にしちまってよぉ。学生とか、練習に来るんじゃねえの?」

「ですから臨時なんです。たまには、こういう日があってもいいじゃないですか。風流で」

「普通に、臨時休業って書けばいいじゃねえか」

「説明不足は、よからぬ詮索を呼びますからねえ。臨時休業の理由が立つなら、少しばかり笑える理由のほうが楽しいでしょう?」

 辻村は目を細めて、ニヤッと笑う。

 ああ、こういう笑い方をする猫、いるなぁ。そうそう『不思議の国のアリス』に出てくる、紫とピンクの縞模様の意地の悪い猫だ。意地悪く笑うところなんか、そっくりだぜ。

 つうか、なぁにが風流だよ、このスカタン。要は、テメエのちょっとした趣味みてえなもんじゃねえか、愉快犯め。大喜利じゃねえんだぞ、ったく。

「あそこのライブハウスは猛暑だと店ぇ閉めるぜ、って噂が立っても、知らねえからな」

「それもまた、一興ですよ」

 辻村は張り紙の文字を人差し指でなぞり、満足した表情で笑う。

 まあ、確かにな。病気のためとか書かれると、商店街の集らは心配するし、かといって人助けのためって正直に書いても、色々しつこく聞かれて面倒だし。元々、人助けをするのに理由なんて必要ねぇから、張り紙に書くってのも、ちっとばっか、むず痒いというか、納得いかねえつうか。……そうすると、猛暑のためっていう理由が良いような気もする、か?

 辻村は店内へ。カウンター奥の収納庫に足を向けると、張り紙と睨み合いを続けているミヤコを呼ぶ。

「さて、ミヤコくん、手伝ってくださいな」

 ミヤコは手招きされるまま、収納庫の前へ。ファイルに綴られてキャビネットに格納された書類やスチール・シェルフに並べられた音楽書籍の数々など、事務所の中は整理整頓が行き届いており、床も塵一つ落ちていない。

 辻村は収納庫のスチール製の引き戸を開け、照明のスイッチを入れる。

「おお、こらぁ、また」とミヤコは唸る。

 高さ約二メートルの低めの天井に、十畳程の広さの収納庫には、ギターやベース、ドラムが置かれ、両脇の収納棚には部品が種類別に分けられて整頓されている。

 うげ、こんなにキレイなのも、どうかと思うぜ。煙水中の家みたく、少しぐらい襖に穴が空いてたり、長太郎の脱ぎっぱなしのドでかいトランクスとか、終治郎のエグいエロ本とか転がってたほうが、まぁだ落ち着くってもんだ。

 ミヤコは収納棚の抽斗に手を掛け、種類別に区切られて保管されている部品を観察する。ネジやナット、コンデンサー、ボリューム・ノブ、ボルトなど、ギターやベース、ドラムを修理するための部品や道具が、一通り揃っている。

「辻村、お前はマジでマメってえなぁ。楽器修理にも手ェ出したのかよ?」

 ミヤコが聞くと、辻村は壊れたギターとベース、ドラムの部品を集めながら、首を横に振る。

「嗜む程度ですよ。ライブハウスをやっていると、楽器の改造や修理の相談を受けることが多くて」

 嘘こけ。揃いまくった部品や楽器のどこをどう見たら、嗜む程度なんだよ。足突っ込みまくりの嗜みまくりだっつうの。つうか中の野郎め、さては、辻村が楽器修理始めたってこと知ってやがったな! アタシだけ仲間外れかよ、こんこんちきめ。

ミヤコは胸の前で腕を組み、頬を膨らませ辻村を睨み付ける。辻村は「怖いですねえ」と軽快に笑いながら、部品を両手に抱え、収納庫を出てミヤコを手招きした。

「まぁまぁ、河豚のように膨れないでね。ご存知かと思いますが、中はね、何かにつけて気が回る男ですから。将棋でいうと、相手の二つ三つ先の手を見越して指すようなタイプですよ」

 あー、それは、分かる。あいつ、無用に先回りするよな。きっと、辻村が楽器修理を始めたってえのを黙ってたのも、アタシが収納庫を隠れ家にするんじゃねえかって、先回りして考えてのことだしよぉ。まあ、隠れ家にするよな、間違ぇねえ!

「いわば、損な役回りなんです。会長さんに話があるというのも、あのイギリスから来られた方々を連れて、頭を下げに行ったんでしょう。中のことですから差し詰め、俺が面倒を見ますとでも言いにね★」

 辻村は肩を竦め、カウンターに部品を置き、ギター用、ベース用、ドラム用と分けて並べた。

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 大道芸人へのオファーは、浅間通り商店街振興組合の会員が手分けをして行っている。

 ボランティアで集まった英語ができる大学生を通じて条件を提示し、出演のオファーを依頼する。条件とは、商店街振興組合による、浅間通り商店街までの行き帰りの交通費と、飲食代の全額負担だ。宿泊代については、二泊三日のホームステイ先と通訳の無料確保。なお、渡航費については商店街振興組合側で提示した限度額一杯まで負担し、当日の投げ銭は全て、大道芸人のギャランティーになる。なかなかの好条件だ。

「恐らく、イギリスの彼らは、アイアン・ワークスという大道芸人と間違えられて、オファーを受けて、ここに来たんでしょうねえ」

 辻村はカウンター席に座り、ノートパソコンを起動ボタンを押す。ミヤコも座りながら、部品をジッと注視し、歪みや傷が無いかを確認してカウンターの上に並べた。

 頭が良くて、相手の二手三手を見越して先回りする中のことだ。オファーし間違えたのが誰だっていう犯人捜しが始まって、商店街の連携が崩れちまわないように、てめえが全部フッ被ったのかもしれない。ったくよ、金を渡して「新しい楽器でも買え」って突っ慳貪に帰さねえところは共感できるし、かっこいいと思うけどよ。自己犠牲の精神っつうのは、ちっともかっこよかねえぞ、ばーか。アタシや辻村は分かってんだからな。

ミヤコは部品を並べ終わると、ぐぐぐっと背を伸ばしながらパソコンの液晶画面に視線を向けた。

 液晶画面には、黄色の背景に画像と英語の文字が表示されている。どうやら写真はバンドのライブ画像で、英語の文字はバンド名らしい。日付けが入っている文字は、ロンドンという単語と番地らしき表記から、ライブ履歴だと推測が立つ。最終の日付は今年の四月の最終日で止まっている。ミヤコは目を凝らした。画像の一番手前、赤と黄色のステージライトが交差する中、見覚えのある金髪の青年が前傾姿勢でギターを弾いている。

「あ、金髪のあんちゃんじゃねえか! やっぱ、あいつらロックバンドだったんだな!」

 本場イギリスのロック・ミュージシャンかよ! スゲエな! ……で、ホームページやステッカーに書いてあるバンド名は、なんて読むんだ? えーと、なになにぃ? ……イ、イロ、イロヌゥ、ヌゥ? ……ヌゥ、ヌゥだな、ヌゥ?

 ミヤコはバンド名を解読するため、パソコンの液晶画面とステッカーを交互に見る。 英語の綴りを掌を帳面替わりに書く辻村も、ミヤコと同様の英語で苦戦している。

ミヤコと辻村がバンド名の解読に苦戦していると、煙水中が金髪の青年たちを引き連れてミセス・ロビンソンに姿を現した。煙水中は、眉間に深い皺を寄せながら「ヌゥ?」「ヌゥ……」「ヌゥ!」と不気味に繰り返しているミヤコと辻村に向かって、無表情のまま答を投げた。

「どうして、そういう変てこりんな読み方をするのか、俺みたいな凡人には全く分からんが、一応、言っておく。アイロン・ワークスだ。本来ならアイアン・ワークスが正しいが、アイロニーと掛けて、アイロン・ワークスと読む、と説明書きがある」

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 煙水中は、カウンター席に行儀良く座る三人を差して、順番に紹介した。

 金髪の青年はリードギターのロイド。華奢で一番背が高く、垂れ目の青年がベースのダニー。茶褐色の髪の毛を逆立て、両耳合わせて合計十個のピアスを開けているのがドラムのエリック。

「へえ、アイロン・ワークスって言うのか。そりゃあ、アイアン・ワークスと間違えてもおかしかねえな」

 ミヤコは四番街の《魚しず》から貰ってきた、寿司桶を包むためのビニールシートを、カウンター・テーブルの上へ広げた。《魚しず》の女将さんが、海産物が入った発泡スチロールを担ぎながら、《ミセス・ロビンソン》の前を通過し「足りなかったら、遠慮せず言いなよぉ」と声を掛けた。ミヤコは店の窓から顔を出し、四番街に足早に向かう女将さんのしゃんと伸びた背中に返した。

「うん、おばさん、ありがと! 辻村に、今度、出前を頼ませるからよ!」

 女将さんはくるっと振り返り「少し割引してやるから、取りに来なぁ」と無邪気に笑った。辻村が目を糸のように細くして、渋い顔をしながら、ぽつりと零す。

「ウチはしがない店ですからねえ。頼むなら、さび抜き、ネタ無し、シャリのみですよ」

 辻村が言ったことを煙水中が通訳すると、三人は顔を見合わせて、肩を竦めて控えめに笑う。

 おお、笑った。ずっと、地獄と世界の終末と抜き打ちテストがいっぺんに来たような顔をされるより、よっぽどマシだ。よくよく見ると、アイロン・ワークスは全員が、人懐っこい、犬っぽい顔してるよな。ギターのロイドは、モシャモシャの金髪がゴールデン・レトリーバーみたいだろ。で、ベースのダニーは、シュッとした感じがドーベルマンに似てて、ドラムのエリックのコロッとした体型とピアス空けまくってる大きな耳は、ビーグルそっくりだ。

 ミヤコは自分を指差して「ミヤコ」と簡単に自己紹介をした。踵を返し、楽器の破損状態を確認しようとドラムケースの蓋を開け、短く「ウゲッ」と悲鳴を上げる。

 こりゃ酷え。タムとスネアのヘッドの部分が、見事に破けちまってるじゃねえか。

 ヘッドとはドラムを叩く部分の名称で、プラスティック製のヘッドが一般的だ。打撃によって摩耗し、定期的に交換を必要とする。

 けど、いくら摩耗するっていったって、どういう乱暴な扱い方をしたら、破裂したみたく破けるんだよ。ヘッドの上で、爆竹でも鳴らしたのか?

 煙水中はドラムケースを覗き込み、ドラムの悲惨な状態に驚くわけでもなく、平べったい口調で、ぽつりと零す。

「ドラムと言うより、桶だな」

 確かにな。バカみてえに高価な桶だ。湯船に浮かべるには、あと百年くらい使い込んでからが頃合いだけどよ。

 ミヤコは床に座り、スネア・ドラムを慎重に取り出して、脚の間に挟んで固定した。屈んで、破けたヘッドに刻まれたマークを見る。丸が三つ横に重なったマークに「L」から始まるロゴには、見覚えがある。

「ラディックだ! いい趣味、してやがるぜ!」

 ミヤコの言う《ラディック》とは、老舗のドラムメーカーの一つだ。リンゴ・スターやジョン・ボーナムを代表とする、多くのミュージシャンに愛用されている。ラディック製のドラムが奏でる高域のサウンドは、纏まりがあり、ロックサウンドを鋭く尖らせ、厚みを持たせるのにとても適している。

 まあ、作りは、日本製の《ヤマハ》や《パール》に比べると、ちょっとばかりザ・アメリカ製って感じで、大雑把なところがあるんだよな。特にビンテージものなんかネジ穴がずれてたりしてよぉ。パンにハンバーグを挟んだら、どんな形でもハンバーガー! みたいな軽いノリで作ったんじゃねえの? って疑いたくなるような製品もあるし。そういう大雑把な作りなくせして、すげえカッコイイ「ラディック!」って音が出るから、不思議なもんだぜ。

 ミヤコは、シェルと呼ばれるドラムの側面部分を撫で、顔を近づけて、凹みや傷、剥離や亀裂が生じている部分が無いか、慎重に確認する。

 よし、なんとか無事みたいだ。シェルを修理するのは至難の業だからな。正直、シェルがやられちまってたら、修理はお手上げ状態だった。ヘッドが派手に破れちまってるけど、不幸中の幸いってやつだな。

 煙水中はミヤコの隣に工具箱を置き、平べったい口調で尋ねる。

「深胴からして、型はLM四〇二か?」

「おっ、ご名答! その通りだ。 軽音楽部に、これと同じタイプのスネアが有って、メンテナンスを何度も頼まれたことがある」

 ミヤコはニッと笑い、煙水中の肩をバシンと強く叩く。煙水中は叩かれた衝撃でずれた眼鏡を、人差し指で押し上げた。

「そうか。だったら、任せた」

 ミヤコの煙水中は浅く頷き、アイロン・ワークスに向かって、英語で状況を説明する。

 相変わらずニャムニャム、ニョモニョモとしか聞こえねえ。

ドラムのエリックは席を立ち、ミヤコと向かい合う形で膝をついて座り、心配そうな面持ちでスネア・ドラムを見る。

 不安な気持ちは分かるぜ。ドラムはドラマーにとっては、手足も同然だからな。

 ミヤコはエリックを励まそうと、口をパクパクさせながら煙水中に訴えた。煙水中は肩を竦める。

「一度、分解して壊れている箇所の把握、メンテナンスをする。ドラムは扱い慣れているから、そんなに心配は要らない。手伝ってくれ、と説明してあるが、他に伝えることはあるか?」

「おっ、さすが、段取り早えなぁ。えーと……」

「ラディックのヘッド、スナッピー、ビスなどのストックは有る」

「おお、先回り。じゃ、特になし! 思いついたら、そのつど呼ぶからよ!」

 ミヤコは、煙水中にヒラヒラと手を振ると、エリックと視線で言葉を交わし、ドラムの分解に取り掛かった。

 まずは、スナッピーの取り外しからだ。スナッピーとは、螺旋状になったコイルや、ワイヤーを帯状に纏めた響線のことだ。スネア・ドラム独特の「レディース・アンド・ジェントルメン! ダダダダダダダダ……ジャン!」のダダダダの音を作り出すために使用し、装着するスナッピーによって、スネア・ドラムを叩いたときの音が変わる。スナッピーの両端に付いているコードを、シェル側面に取り付けられたストレイナーとバットという金具に取り付け、ドラムの裏側に装着し、テンションと呼ばれる張り具合を調整する。

 ミヤコは工具箱から掌ほどの大きさのショート・ドライバーを取り出し、左手首を柔らかく動かし、ストレイナーとバット部分のネジを外した。視線はネジとスナッピーに向けたまま、左手でネジを外し、右手は工具箱の中へ。感覚だけで、工具箱からチューニング・キーを二つ、掴み出す。ミヤコは取り外したスナッピーとネジを床に置き、唸る。

 うーん、なるほど。煙水中の読み通り、スナッピーは交換だな。ワイヤーがズレてヨレヨレだ。伸び切ったパンツのゴムみてえ。ダメだ、こりゃ。

 ミヤコはドラムを寝かせ、破れたヘッドを仰向きにする。右手に握った二つのチューニング・キーのうち、一つを放り投げて左手へ渡す。両手に一つずつチューニング・キーを持った状態で、破けたヘッドを仰向けにして両手を対角線状に動かし、チューニングボルトを緩める。

ミヤコはスネア・ドラムの外枠、フープと、破れたヘッドを取り外して床に置く。チューニング・キーを工具箱にしまい、再びショート・ドライバーに持ち替える。

 ミヤコは、スネア・ドラムを縦にして、シェルを固定する。ネジ穴を潰さないよう、手の甲に押し付けるようにドライバーを回し、シェルの内側のビスを取ってストレイナー、バットなどのパーツを取り外す。

 フープは……ちょっと錆びてるくらいか。よし、磨けばどうにでもなるっしょ!

 ミヤコは顔を上げ、スナッピーを指差し、エリックに声を掛ける。

「エリック、えーと、スナッピー、スゴク、コワレーテルカラァ、レッツ、バイバイ、オッケー?」

 エリックは、タムを抱えた状態で固まっている。

 ん? どうしたエリック。アタシの英語、やっぱ分かんねえか?

 カウンター席に座るロイドとダニーが大きく頷いて、ミヤコに拍手を送る。ロイドの身ぶり手ぶりからすると、どうやらエリックは、ミヤコの作業が速いことに感動し、驚いているらしい。ミヤコはフープにスプレーで潤滑油を吹きかけ、工具箱からワイヤーブラシを取り出して磨きながら、首を傾げる。

 ふうん、作業が速いってか? 褒めてくれるのは嬉しいけどよ、工業高校でロックが好きなヤツは、大体みんなこんな感じで、セカセカしてんぜ!

 ミヤコはフープに浮き上がった錆を、フロスで拭いた。

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「どうでぃ、チビるくらいにピッカピカだぜ!」

 見事に錆が落ち、銀色に光るフープを高々と掲げるミヤコに、丸めた製図用の方眼紙を抱えながら、辻村は拍手を送った。

「お見事ですねえ。作業が鮮やかで、惚れ惚れしますよ」

「たりめぇだぁ、工業高校、舐めんなってんだ」

 ミヤコはニッと歯を見せて満面の笑みを浮かべながら、次の作業に取り掛かる。ラグと呼ばれるヘッドを固定する金具のバネを指で摘み、顔に近づける。バネの状態やビスで固定する穴が潰れていないか、亀裂が入っていないかを目で探っている様子だ。

 作業手順も速さも、言うことナシですね。そんじょそこらのドラマーよりも格段にドラムの知識は明るいですし、なにより一つ一つの作業がきめ細やかなのが素晴らしい。ま、普段が少しばかり豪快なだけに、作業の繊細さが際立つのもありますがねぇ。

 辻村はフライヤーやステッカーを貼った壁に製図用の方眼紙を広げ、画鋲で固定した。煙水中は壊れたギターとベースをカウンター・テーブルの上に寝かせ、ロイドとダニーと会話を交わしている。ロイドは金髪を掻き上げて、首を横に振る。ダニーは曇った表情で、足元に視線を落とし、胸の前で手を横に振る。声音から察するに、修理を拒んでいるというよりは、諦めている雰囲気だ。それでも煙水中は表情一つ変えず、凹凸のない平板な声音で、同じ英語を繰り返している。辻村は、三人の会話に耳を傾けながら、製図用マーカーのキャップを取り、製図用方眼紙の隅に試し書きをした。

 恐らく、中のことですから「直す、直る」の一点張りなんでしょうねえ。表情はのっぺらぼうで恬淡としている割に、変なところに強情で、タチが悪いったらありゃしませんよ。

 静かな押し問答の末、ロイドとダニーが煙水中の言葉に促されるように頷く。煙水中は振り返り、辻村を呼んだ。

「おい、五十鈴、図面」

 ただいま、風呂、飯、のような、亭主関白極まりない口振りですね。僕は女房じゃありませんよ。あなたの女房なら、今、ドラムのヘッドの張り替えをしているところですけど。

「はいはい。今、書きますよ。言っておきますがね、楽器の図面は、僕の畑じゃないですからね。線が歪んでるとか文句つけるのは、ナンセンスですよ」

 辻村はカウンター・テーブルに置かれたギターとベースを横目に、フリーハンドで、方眼紙にギターとベースの全体図を書き込んでいった。

 最初は、ギターだ。型は、ロック・ギターの代名詞とも言える《ギブソン・レスポール・カスタム》だ。カスタムはスタンダード・モデルと比較して、音が太く、ロック・ミュージックに適しており、黒く美しい外見がら《ブラック・ビューティー》の異名を持つ。

 ボディーは数字の「8」に肉付けして、「8」の右上を一口だけ齧ったような《シングル・カッタウェイ》と呼ばれる形状をしている。煙水中はギターのペグを回し、弦を取り外し、丁寧に巻き取ると、ヘッドの裏に刻まれているシリアル・ナンバーを確認し、呟いた。

「八、一四二、〇、三、二五……製造は、一九八〇年五月二十一日、水曜日だ」

 おや、お見事。閏年を忘れないところは、流石は煙水中。お尻から三番目の三の数字は、工場を表しますから、アメリカのナッシュビル・ファクトリー出身。末尾の二五は、二十五本目に製作されたギター。

「素晴らしい。瞼を閉じると、当時のギター工場の情景が浮かんできますよ」

 辻村は手を止め、マーカーを持ったまま、カウンターへ歩み寄った。煙水中の隣で、しげしげとギターを観察する。黒のボディーが反射する鈍い光や、ギターを弾くことでできる、引っ掻いたような無数の浅い傷に年季を感じる。ピックアップと呼ばれる、ギターを弾いたときの弦の振動を感知するマイクの役割をするパーツや、弦を張ったときの支点の役割をするパーツ、ブリッジ、テイルピースは、落ち着いた金色に輝いていて美しい。右下に並ぶ四つのコントロール・ノブはボディーと同様の黒で、色味のバランスが取れている。パーツの金色と、漆黒のボディー、どちらが目立つわけでもなく、調和が取れており、引き締まったイメージと、どっしりとした安定感がある。

 辻村は深く何度も頷き、鼻歌交じりで、ギターのロイドを褒めた。

「いや、素晴らしいですね。若者でしたら、見た目といい、音といい、必要以上に華美にして、ギターのバランスを崩してしまうもんです。ところが、これは均整が取れていますね。いやはや、一九八〇年、古き良き時代かな」

 ロイドは首を傾げる。でも、どうやら褒められているということは分かるらしい。「サンキュー」と、しごく分かりやすい英語で返す。煙水中は、折れたヘッドからペグを取り外し、ギターの破片を並べた。修復手順を組み立てながら、興奮する辻村に聞く。

「畑違いと言わなかったか?」

「隣の畑ですよ。僕は何事も、手広くやる主義でね」

「器用貧乏とも言うぞ」

 おやま、手厳しい。でも、人のことは言えませんよ。

 煙水中はボディーに損傷がないことを確認し、ドライバーで慎重にパーツを取り外し、ギターをうつ伏せにした。辻村は折れたネックとヘッドの断面を触り、状態を確認する。

 運が良いことに、ネックとヘッド、両方とも綺麗に折れていますね。ああ、でも、ネックはボディーとの繋ぎ目が、ザラザラしていますね。接着剤でしょうか。となると、過去に接着剤で修復した部分からバッキリ。なーるほど。となると、まずは接着剤をどうにか落としてから修復しないと、元通りとはいきませんね。前途多難と言うほど作業工程が複雑ではないですが、一筋縄ではいかないでしょう。修理し甲斐があるってもんですね。

 辻村は方眼紙と向かい合い、素早くマーカーを走らせ、断面図を書き上げると、修理工程を書き込んでいく。

 最初にネックとボディーに付着した接着剤を小刀で慎重に剥がし、木工を削るための機械オービタル・サンダーで表面を整える。接着剤だけで不安なネックとボディーの固定は埋め木を用いる。次に、万力でヘッドを圧縮し、接着剤のみで修理するのか、埋め木をして修理するのかを決めて、ヘッドの修理を行う。ヘッドの修理が完了したら、ネックとボディーを固定する作業に移る。

 煙水中がカウンター奥の収納棚から、四個の万力と、噛ませるための厚い板を持ってきた。ロイドにギターの状態と、修理の工程を説明する。ロイドは煙水の言葉に耳を傾け、じっくりと頭の中で精査してから、首を縦に振る。気になったところは言葉を挟み、カウンター席に座るダニーと、ドラム修理をしているエリックに相談している様子だ。

 こだわりがあるというよりは、戸惑っているようですね。まるで突如ばったり意識を失った肉親の大手術みたいに、勝手が分からない状態。本人の代わりに手術を行うことを決断するような……。ああ、もしかして最近、ギターを譲り受けたか、購入したか、なのでしょうか? 

 辻村はパンパンと手を叩き、煙水を振り向かせた。

「中、あなたは、ダニーさんとベースの状態を確認してくださいな。僕がなんとか話してみますから」

 煙水は浅く頷く。辻村は狼狽するロイドに、手招きをする。ロイドは恐る恐る、辻村の元へ……。

「やですねえ。お化けじゃないんだから、怖がらなくても大丈夫ですよ、ほら、足、あるでしょう? それに、突然、噛みついたりはしませんし、ミヤコくんじゃないんだから、あてっ!」

 足を上げて戯ける辻村の後頭部に、ミヤコの投げた、壊れたスナッピーが、すこーん、と命中した。

「喋ってねえで、手ぇ動かせ。こっちはもう終いだぜ!」

 既にミヤコは、ドラムの組み立て作業に入っている。残すところはフットペダルのみだ。エリックは、すっかりミヤコの作業の速さに惚れこんでいる様子だ。目をキラキラさせた子供のような表情で、歓声を上げている。辻村は髪の毛に絡まるスナッピーをそのままにして、肩を竦めた。方眼紙に書いたギターをマーカーの先で差し、ロイドの目をじっと見て、口を開く。

「僕ぁ、英語は、さっぱりですからね。あの強情頓馬の眼鏡に何を言われたか分かりませんが、あなたの好きなようにしたらいいですよ。あなたのギターでしょう?」

 ロイドは首を傾げ、眉間に皺を寄せた。言葉が分からないといった表情で金髪を掻く。辻村は鷹揚と笑った。

「まあ、いいでしょう。あなただって、こんな素晴らしいギターがタダの木材になってしまうのは、忍びないと思っているはずですから」


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