8人と俺

アクティブ

第1話 まさかの…

全日本中学校体育野球大会決勝。


全国屈指の名門校の山帯中学校対近年力をつけてきた天水中学校による決勝戦の9回裏1死満塁。天水中学校の1打サヨナラのチャンスに、この中学生が打席に立つ。地方大会では17打数9安打5本塁打14打点。全国大会では弱冠成績が悪くなるも、11打数5安打2本塁打7打点と活躍して、決勝まで進んだ。


神崎 功臣【かみざき こうしん】中学3年生。



小さい頃から野球を始めて、毎日野球の練習をするぐらい、野球が好きな少年。彼はプロ野球選手を目指して必死に練習をしていき、U-15の日本代表にも選ばれた実力者だ。そして、神崎は優勝を目指して打席に立つ。


『これで、最後だ。俺が決めて、絶対に優勝して、そして…』


一瞬、脳裏に浮かんだのはある女性と男性。その二人の為にも、神崎はバッドに力を入れる。相手チームの投手も絶対に打たせないと、得意のカーブを投げる。外角の低めの変化球であり、プロ野球選手でも、打ちにくい球だが、神崎はしっかりと捉えて、そして、サヨナラヒットを打った。サヨナラヒットを打った瞬間、神崎の目には大粒の涙が出ていて、チームメイトが喜んで神崎に近づく。


「やった!!やったああああああ‼」


これで、神崎の知名度は更に上がり、スカウトされるに違いない。これでやっと、祖父母を楽にしてやれる。神崎は信じていたが、すぐに絶望が訪れる。神崎にとって、とても辛いことが…。


神崎はとある町に住んでいて、父親と母親の3人暮らしで仲良く過ごしていたが…。ある日、3人で旅行に出かけた時のことだ。神崎はホテルのおみやげコーナーで、チームのみんなへのおみやげを選んでいて、父親と母親はホテルのお会計をしていた時。悲劇は起きた。


銃声と悲鳴が響き、逃げ惑う人々。そう、テロだ。神崎は両親と逃げようとしたが、両親は射殺され、神崎だけが逃げることができた。


「とおさあああああん‼かあさああああああん‼」


このテロにより、両親は死亡。神崎は祖父母の家に引き取られて育ったが、祖父母もパートなどして生活していき、それを見た神崎は誓った。


絶対にプロ野球選手になって、祖父母を楽にする。


となると、ある高校野球部がスカウトしに来た。その高校は独自の奨学金制度を設けており、神崎の成績だと入学金、授業料などが無料となり、寮も格安にしてくれるという話があった。それなら、神崎の希望に合う。全国大会で優勝して、さらにスカウトの評価も高くなるに違いないと確信していた数日後、悲劇はふたたび訪れた。


「え?引っ越す…?」


祖父から伝えられた言葉を聞いて、そう返事をした。


「あぁ、実はこの家を出なければならないんじゃよ。金銭面で、これ以上は生活が厳しくなるならなぁ」


「そ、そんな…」


そうなると、スカウトの高校には進学できない。実は条件の1つに、絶対にその地域の選手でなければならないと規定がある。引っ越したら、その高校に行けない。となれば、他の高校に進学となるが、そうなると費用が高額となる。でも、15歳の中学生にはどうすることもできなく…


「わかったよ。じっちゃん、ばっちゃん」


こうして、神崎は4月から亡くなった両親の父の弟が住む、離島の高校へ進学することとなった。


3月25日。引っ越してから、1週間。


「平和だな…」


蒼い海が目の前に広がり、穏やかな風。鳥たちの鳴き声。人口は150人で、島の6割が高齢者。叔父は農業をして、暮らしている。神崎は今までの生活とは真逆な環境にショックを受けている。日本代表に選出された選手が、まさかの離島の高校へ進学とは…。


「功臣君。きゅうり食べる?」


「あ、いただきます」


叔母さんがきゅうりを手渡す。叔父さんが育てた野菜はすごく美味しくて栄養も高く、本州の一流ホテルと契約するぐらいの価値がある。


「叔母さん。おいしいよ」


「そう?もっとあるから、食べていいよ‼」


「うん。だからと言って8本も一気に渡さないでください」


「あはははは。そうだ。功臣君。林明高校の説明会は明日だから、下見に行けば?通学路とかも気になるだろうし…」


林明高校。神崎が4月から通う高校は林明町…いや、この島の唯一の高校で、生徒は2、3人しかいない。学科も普通科のみ。叔父の家から徒歩15分という、近さだが、別に下見に行かなくてもいいじゃないかと思いもあったが、暇潰しに行くことにした。


「叔母さん。ちょっと行ってくるよ‼」


ランニングも兼ねて走ったが、叔母がある事を思い出す。


「待って。あの女の子がいるけど、大丈夫かしら…功臣君は野球以外、何も興味ないから…」





功臣は林明高校に着いたが、これまた古い学校のようで、木造で1階しかない。校庭も前に比べると小さい気もした。そんな時に、ある女の子が話しかけてきた。


「あ、あの…どなたですか?」


神崎は声がしたので、後ろを振り向くと、目を疑った。


そこには、同じ顔、同じ体、同じ髪型、同じユニフォーム、大きな胸をした8人の美少女がいたからだ…。


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