俺さ!俺さ!2018年になったとき、地球にいなかったぜ!!

ちびまるフォイ

キングダムハーツ3はいつでるのよ。

「隼人、ヒマなら日めくりカレンダー貼っておいてよ。

 もう来年になるんだから」


テレビに夢中になっている俺を見てお母さんが声をかける。


「ダメだよ。今忙しい」


「テレビ見てるだけじゃない」


「もうすぐ年が変わるから、そのときジャンプするの」


「お兄ちゃんってホント子供ね」


「お前だって昔はやってただろ」


テレビでジャニーズのメンバーがカウントダウンを始める。

ひざを軽く曲げてジャンプの姿勢を取る。





まるでスペースシャトルの打ち上げみたいだ。


2…。



1。



0!!



「たぁ!!」


日付が変わった瞬間にジャンプした。

どすんと着地して振り返る。


「見た!? 俺、2018年になった瞬間、地球にいなかった!! 空飛んでた!!」


振り返っても、誰もいなかった。


「あれ……?」


ついさっきまでそこにいた。

隠れるにしては時間が短すぎる。


テーブルには置きっぱなしにされた日めくりカレンダーがあった。



2017.5年 1月1日



紙に印字されている日付を見て、目を疑った。


「なんだよこれ!? どうなってる!? 2018年じゃないのか!?」


年が変わる瞬間にジャンプしていたせいで、俺だけ別の年明けに来てしまった。

2017年と2018年の間の年、2017.5年。


なにかの悪い夢だと自分を納得させてひと眠り。

目を覚ましても家はおろか、初詣に行く人も誰もいないことに絶望した。


「うそだ……この世界でひとりぼっちってこと……?」


車も走っていない。自転車も通らない。

野良猫1匹見えやしない。


窓から見えるのはゴーストタウンと化した自分の街だった。


「ん……?」


一瞬だけ、人影が見えた気がした。


慌てて自転車を引っ張り出して人影が見えた場所に急ぐ。


「あのーー!! 誰か!! 誰かいませんかーー!!」


第一村人発見。

俺が見たのは見間違いではなかった。


「君は……? わし以外誰もいないかと思った」


「俺もです! あなたも2017.5年に!?」


「そのようだね。ベッドから落ちたときに目が覚めたらここに来ていたんだ」


「やっぱり……年が明ける瞬間に空にいたんだ」


「君はこれからどうするのかね?」


「どうするって……」


「わしはこれから少し観光名所へと行こうかと思うておる。

 なにせこう人がいないのは珍しいからね」


「のんきだなぁ……」


初めて見かけた人はのんきに散歩をし始めた。

道路のど真ん中を堂々と歩けるのは、2017.5年ならでは。車の心配もない。


「誰もいない、か」


それはむしろ好都合なのかもしれない。

全裸で歩き回っても平気。やらないけど。


まず思いついたのが家電量販店だった。


「ホームシアター、前からやってみたかったんだよな!」


家から持ってきたゲーム機を電気屋さんの巨大ホームシアターに映す。

大迫力の映像が眼前に広がる。


「うおおお!! すごい! やっぱ大画面っていいな!!」


値札には数百万円のしろもの。

それを無料でずっと楽しめるなんて最高だ。


『ゲームは1日1時間!!』


と口うるさく邪魔してくる人間もいないのでさんざん遊び倒す。


「なんかのど乾いたな」


近くのコンビニに入ると店員も客もいない。

防犯カメラは動いていても、警察もいない。


「よーーし、全部持って行っちゃおう!」


カゴいっぱいにスナック菓子と飲みものを詰め込んで、また大画面の前へと戻る。

同じフロアにあったマッサージチェアを動かしながらホームシアターでゲームをする。

お菓子も食べ放題。


「なにこの極楽!! 最高じゃん!!」


眠くなったらホームセンターの最高級ベッドで眠り、

普段は入れないエッチなDVDも持ち出し放題、

服屋さんでオシャレな服も着まわし放題で、もう最高。


「ひゃっほーー!! 前からスーパーをスケボーで走りたかったんだ!!」


エスカレーターを逆走し、スーパーをスケボーで爆走。

道路に落書きをして、見知らぬ家に入ったりして遊んでいた。


1ヶ月が過ぎた。



「……誰かに会いたい……」


1ヶ月も過ぎると、もう全然テンションが上がらなくなった。


最新作のゲームをやりつくしても感想を話す相手がいない。

ネットで小説を書いても読んでくれる人がいない。


地球という場所で隔離されているだけに過ぎなかった。


初日に会ったきり、もう誰とも遭遇しなくなった。

年が明ける瞬間にジャンプした人なんてそういないのだろう。


仮に遭遇したとしてもお互いに知らない人だから打ち解けるのも難しい。


「みんな、なにしてるのかな……」


寂しい。

家族に会いたい。

友達と話したい。


この世界には寂しさを紛らわすペットすらいない。


家族との再会を求めるように、自宅へと戻っていた。

大型テレビもなく使い古されたベッドと痛んだ壁の自宅へ。


「あのとき、日めくりカレンダーを壁に貼っていれば

 俺はジャンプしてはざまの年にいくこともなかったんだな……」


テーブルに置かれたままの日めくりカレンダーを手に取る。

壁に貼って1ヶ月分をちぎる。


「いや、待てよ。1年経てば、また来年になる。永久にこのままじゃない!!」


また年が明ければ2018年になるはず。

未来永劫に孤独の檻の中に閉じ込められるわけじゃない。


それがわかったとき、自分の中で光が差した。


「よし! 2018年を最高に充実させるために準備しよう!!」


次の学年の勉強を進めて、いきなりテストで良い点取れるように先取りをする。

書店の本は読み放題だから教材に困ることはない。


体もしっかり動かして、2018年の球技大会で活躍できるよう準備する。

ジムだって好きに使えるし順番待ちもない。


映画もゲームも漫画もDVDも見まくってアイデアを貯めつつ、小説を書き溜める。

2018年になったら新人賞へたくさん応募しできるようストックしておく。



目的意識をもつと毎日が驚くほど早く過ぎていく。


気が付けば年の瀬の師走。

12月31日になると覚悟を決めた。


「よし、今度はぜったいにジャンプしないぞ!!」


最高の年明けをするため、足の裏でしっかりと地面を噛む。

デジタル時計を見ながらカウントダウンを進める。









2…。


1……。



0!!



今度はジャンプしなかった。

たしかに年が変わった瞬間に地上にいた。


やっと会える。

ずっとごまかしていた寂しさが爆発した。


「うあああ~~!! みんな! 会いたかったよ~~!!!」


泣きながら日めくりカレンダーの日付を見る。




2017.6年 1月1日



――体中の水分が抜けきった。

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