12色カラーマンションに住むならどこに住む?

ちびまるフォイ

色鉛筆で白い鉛筆の使い道とはいったい…

入居抽選に見事当選した俺たち12人はカラーマンションにやってきた。


「本当に家具家電付きで、家賃免除なうえ

 電気代も支払い不要でネットと携帯使い放題なんですか?」


「ええ、もちろん。その条件だからこそ抽選したんですよ」


「それで、私たちの部屋はどこなんですか?」


「このマンションで住みたい部屋を自分で決める立候補制です。

 まぁ、見てってくださいな」


マンションのマスターキーを渡されると部屋を1つ1つ見ていく。


真っ赤に染められた赤い部屋。

真っ黄色になった黄色の部屋。

真っ青の青い部屋。

真っピンクの部屋。


その数なんと12色。色鉛筆みたい。


「私ピンクの部屋がいい! 一番かわいいもん!」

「俺ァ、赤い部屋だな。腹が減りそうだ」


「え、俺はじゃあ……」


もたもたしているうちにどんどん部屋が決まっていく。


「黄色の部屋!!」


俺の部屋は部屋一面、家具も含めて黄色の部屋になった。


「あの、マンションの端にある部屋はなんだったんですか?

 12部屋+2部屋で14部屋あるじゃないですか」


「あれは気にしないでください」


「はぁ」


マスターキーを返し、黄色の部屋での生活がはじまった。


住んで数日、話を聞いた友人が部屋に訪れたりしてにぎやかだった。


「わぁ、本当に真っ黄色なんだなぁ、家具まで黄色じゃん。

 お前の着る服は黄色じゃないんだな」


「いや、そこまでは染まらないでしょ……」


「で、どう? 発狂した?」


「するか!!」


住めば都という言葉通り、最初は珍しかった黄色の部屋も慣れるもので

すっかり居心地のいい部屋になっていた。


一面黄色とはいえ、テレビでは普通の色の画面が出るし

外出も自由なので常に黄色に囲まれているわけではない。


「てか、お前最近明るくなったよな」


「あ、そう!? そりゃ家賃免除で遊ぶ金が貯まるもんな!」


「そういうことなの?」


友達からも明るくなったと言われて、黄色い部屋に住んでいいことずくめ。

気になる女の子を部屋に呼べないのは残念ではあるけれど……。

こんな部屋見せたらヤバイ奴と思われる。


ある日の夜。


ドン!!


壁の向こうから叫ぶような声と壁を蹴る音で目が覚めた。


「……なんだ……? 赤い部屋の人か……?」


ゲームで不機嫌にでもなったのか、怒り狂っている声が漏れてきた。


「うるさいなぁ、隣の青い部屋の人は静かなのに……」


顔を見たときにでも軽く注意しようかと思ったが、

翌日、顔を見たとき、あまりに迫力のある顔つきになっていたのですくんでしまった。


「お隣さん……あんなに顔怖かったっけ……?」


ご近所トラブルで人を殺してそうな形相。声をかけるのはまずい。

放っておいて今日のデートの準備をして待ち合わせへと急いだ。


「遅れてごめ~~ん」


「大丈夫だよ、俺も今来たところだし」


気になってる女の子と今日はデート。


「黄色いマフラーじゃん、かわいいね」


「そう? ありがとう」


黄色の部屋に住んでからというもの、黄色にやたら過敏になっていた。

町でも黄色を見かけるとセンサーのように目で追ってしまう。


「ねぇ、私、服を見に行きたいな」


「もちろんいいよ。さぁ行こう」


順調な滑り出しだったはずのデートも結末はひどいものだった。


「なんでずっとへらへら笑ってるの!? 気持ち悪い!

 私の顔がそんなにおかしいの!? ねぇ、答えて!!」


「え、笑ってた!?」


「すすめる服も黄色ばっかり!! 食事もバナナって頭おかしいんじゃない!?」


「そんなつもりは……」


「もういい!!」


無意識のうちに黄色から黄色へと行動が誘導されている。

黄色の部屋に住むことでの副作用が出てしまっていた。


自分の部屋に戻ると、真っ黄色の部屋を見て深い安心感を覚える。

それだけに危険だということもすぐにわかった。


「やばい……俺、黄色になじみすぎて、黄色がすりこまれてる……!!」


隣の人は赤い部屋に住んで怒りっぽくなり、

青い部屋に住んでる人は表情がとぼしくなる。


黄色の部屋に住んでる俺は陽気で明るくなったが

常にニヤニヤしてしまい、安心感を求めて黄色を選んでしまう。


もうだめだ。


「あの!! 黄色の部屋を出たいんです! お願いします!!」


「どうしても出たいんですか?」


「あの部屋に居続けると、自分が自分じゃなくなるんです!!」


「ではこちらをどうぞ」


渡されたのは2つの鍵。


「これは?」


「黄色の部屋から出ることは許可します。

 その代わり、1ヶ月だけこの鍵の部屋どちらかに住んでください」


マンションに戻り、渡された鍵を1つ1つ確かめていく。



カチャ。


開いたのは、前に入れなかった両端の部屋2つ。


「うそだろ……」


言葉が出なかった。


なにも見えない真っ白な部屋と、何も見えない真っ暗な部屋。

白と黒の部屋。


「こんなの1ヶ月も生活したら頭おかしくなりますよ!」


「安心してください。外出こそ許可しませんが、部屋の中では自由です」


「そういう問題じゃなくて!!」


「黄色の部屋に戻りますか?」


「それは……」


1ヶ月。それだけ耐えきれば普通の生活に戻れる。


真っ黒の部屋で住み続けるよりは、真っ白の方がまだマシだろう。

俺は真っ白の部屋の鍵を手に取って部屋に足を踏み入れた。


限界は自分で思っているよりも早く訪れた。


「うああ……あああ……」


病院よりも白すぎる部屋は、どこまでが部屋なのか境界線すらもあいまいにさせる。


どこまでが天井なのか。

どこまでが壁なのか。

自分はとんでもなく広い場所に一人でいるのではないか。


白い光が目に痛い。

まるで発光しているようだ。目も開けていられない。


なのに、まだ3日しか経っていない。これの10倍耐えなくてはならない。


色がある部屋の方がまだよかった。

せめて色さえあれば、部屋の広さを認識できる。


「あぁぁ!! 助けてくれぇーー!!!」


1か月後、部屋を認識できた俺はついにマンションから自由になった。


 ・

 ・

 ・


カラーマンションの入居希望者12人がまたやってきた。


「みなさん、入居当選おめでとうございます。

 カラーマンションではお好きな色の部屋に住むことができます」


「もう誰もいないんですか?」


「はい。うちの契約は定期更新で、入居者は自動的に入れ替わります」


マスターキー12個を渡された当選者たちはそれぞれの部屋を見て回り始めた。

カラーマンションの噂は広がり、今日はテレビの取材も入っている。


「どうして12個なんですか? 部屋数は14部屋ですよね?」


「ああ、記者さんは見ても大丈夫ですよ」


14個の鍵を手に入れた記者はそれぞれの部屋を見に行った。

これで次の入居希望者がまたわんさとやってくるのならいい宣伝になる。


入居者たちは自分の色を決め、報道陣は満足げに戻って来た。


「いやぁ、噂通りすべての部屋がそれぞれの色に染められてるんですね!」


「はい。色における心理効果を体験してもらうのがカラーマンションです」


「黒い部屋とか怖すぎますよ」


「あれは実験離脱者用の最終実験です。

 どうせカラーマンション出るので、壊れても問題ないですからね」


記者は思い出したように尋ねた。




「そういえば、どうして赤い部屋が2つあったんですか?」

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