第24話

(ライバル登場です)


次の日から、私は早速、水道工事の図面作成に取り組んだ。


今も、東三城殿では水不足が続いている。


私自身、トイレが無いことが不満で仕方がなかった。

衛生面を考えても、やはり水道や下水が欲しい。


平安の横を流れる鴨川は現代にもよく知られる一級河川。

飲み水としても最高に良い。


あわよくば、水を贅沢に使ってお風呂に入りたい。



この計画をなんとか天皇に認めて貰わなければ。


その前段階として、これが実行可能なことなのか、紙の上で計算する事から始めた。


初めて早々第一に降りかかった難所。

それは、水道工事の図面であった。


川から水を汲み上げるには、農村部で使用されている竜骨車を使えば良い。

そこから平安京へ伸ばす。


木製?それとも、鉄?


それらの細々とした部分が分からない。

取り敢えず基礎となる教科書の内容は頭にあるが、応用となれば訳が違う。


そこで、中国の文献を探してみることにした。


確か1世紀前。

中国、長江流域で大運河も建設事業があったはずなのだ。


なら、一連の技術を記した書物が輸入されていてもおかしくない。


私が、書物庫でその本を探すことにした。


しかしその作業は、想像以上に困難であった。


現代と比べると崩れた白文。

学校で習った漢文のとは違って、レ点や返り読みの記号が記されていない。

応急の措置として、業平と梅花に教えて貰いはしたが、まだまだ慣れない。


そもそもここは日本なのに、どうして中国語を使用して書くのか疑問でもあった。


私の考えを理解して、手助けをしてくれる人が欲しい。




しばらくして、見慣れない男の子が入ってきた。


大学寮に出入りするということは、私と同じ学生だ。

手にしている本が中国関係だということは、文章学生(エリート)だろうか。


「邪魔なんだけど」


第一印象は最悪。


「悪かったね」


私は無愛想に言葉を返す。


すると彼は大量に書物を手にして、出ていった。


何事も無かったように、私は書物を漁る。


何分も、何時間も………。


しかし、お目当てのものはなかなか見つからなかった。


もしや、無いのではないか。

そう諦めかけていたとき、また彼が書物庫へやってきた。



「アンタ、何探してんの」


彼は自身の借りた本を書棚に返しながら、声をかけてきた。


「治水工事の技術書」


私は彼の目を見ずに答える。

どうせ、分からないだろう。そう鷹をくくって。


「へえ、珍しいもん探してんだね」


しかし、彼の反応はそれを知ったような口ぶりだった。


彼はそういうと、本棚を眺めて、何かを探し始めたようだった。

そして、手に取った本を私に差し出す。


「これ、設計者の日記。大概どうでもいい話だけど、後ろの方にちょっとだけ設計技法、載ってたよ」


私は唖然とした。

この時代に、ここまで私の話が通じる人間がいたことに。


態度は気に食わないが。


このガキ、只者じゃない。


彼の態度は癪に触ったけれど、私はきちんと礼を言って本を受け取った。






彼が後々、私のライバルであり、親友であり、大切な人になる




菅原道真とは……想いもせずに。

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平安男装カルテット〜これは恋か、それとも友情か〜 しま @YDRkaeruQ

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