第16話 工務店情報交換ネットワーク-2

会が終わると、セミナールームを出て、東口近くの店へ移動した。


地下にある店は、カウンターがあり、バーテンさんのような人もいて、立食パーティーのような雰囲気になっている。


先ほどの参加者の半分ほどがこちらに移動しているようだ。


「セミナーのあとは、懇親会になるのよ。飲食代は、会社で負担した会費に入っているから、飲み食い自由よ。」


と言い残して、あかりさんは店の奥へ。


「お疲れでした。どうだった?初めてのこの会は?」

田尾さんが声をかけてきた。


「ええ、ウチでも使っているスケジュール管理のやりかたですけど、こんな風に作ってたんですね。勉強になりました。」


「この会の言いだしっぺは、いすみでね。工務店も、いつまでも設計事務所やハウスメーカーの下請けじゃだめだし、だからといって、の技術はあるけど、設計やお客さん対応がからっきしの会社じゃ、元請けの仕事なんかとれない。それじゃだめだって始めた会なんだけど、他の若手の職人や工務店の社長も同じことを考えてたみたいで、今じゃSNSで会の様子を上げたりしてるから、参加者はどんどん増えてるよ。」


「ええ、それと、みなさん、服装も立ち振る舞いもきちんとしている人が多いですよね。失礼ながら、職人さんや、工務店の会とは思えない雰囲気ですよね。」


現場に出る人たちの会。というと、作業着を着たオジサンたちの集まり。というのをイメージしていたが、作業着で出席している人はおらず、パッと見、やりての若手起業家の会合みたいな感じだ。


「そう、一般の施主さんが、工務店を敬遠する理由のひとつが、おしゃれな家を建てたいのに、きたない作業着を着た、品のないオヤジが打ち合わせにきたら、<ほんとにこんな小汚いおじさんが、おしゃれな家建ててくれるのかな?>と思うでしょ。

当人にしてみれば、<俺は仕事をきちんとやるし、いい家を建ててやるんだから、風体なんか関係ないだろ>なんだろうけどさ。それじゃだめだよね。


高いスーツとまではいわないけど、きちんとした格好で、基本的なマナーも向上させよう。っていうのもこの会の目的さ。職人のなかには、基本的な名刺の出し方も知らない人も多いから、そういうマナー講座をやることもある。」


「でも、昔ながらの工務店社長さんは、そういうの嫌いな人もいますよね?」


設計事務所時代にいくら言っても、時間は守らない。お客さんの前でタバコを吸う。なんてことを繰り返していた、工務店社長を思い出す。


「うん。この会は決して強制じゃない。気に入らなかったら、もう来なければいい。この会に入っているからと言って、フランチャイズみたいに自動的に仕事が来るわけじゃないからね。

でも、この会に来てる工務店は、ほとんどが自社で仕事を請け負っていて、下請けはほぼやっていない会社が多い。その理由を理解できる人だけが来ればいいと思っている。」


「で、相乗効果じゃないけど、みんな美人&イケメンだろ?別に作業着で来るのを禁止しているわけじゃないのにさ。」


あかりさんは、奥でスーツ姿のエグザイル風のワイルドなイケメンと談笑中。


小林くんも、ふんわりとしたワンピースを着たかわいらしい女の子と話している。


「この会に来るのは、2代目、3代目の若い独身も多いしね。職人もきちんとした恰好すると、映えるやつが多い。現場仕事やってると、出会いも少ないから、みんな、この場を楽しみにしている。で、自然、ドレスアップすることになる・・・。と。」


「おたくの小田さんと話している彼は鳶の若頭だし、小林くんと話しているコは、ああ見えて、有望株の左官職人。まあ、になるのも構わないけどね。

最近は、そんな噂を聞きつけて、研修会はおいといて、こっちの方だけ参加したい。なんてやつもいるけど、そういうのはいすみは嫌いだから、そんな輩は断ってるみたいだね。」


専務は妙齢の女性に囲まれている。

こういう場でも彼は華があって、目立つ。


それで独身とくれば、女性は放っておかないだろう。



「ちなみに、俺も独身。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る