第11話 工務店の日常-2

「どうですか。3か月お勤めしてみた印象は?」


「はい。思ってた工務店のイメージと違ってました。また、設計事務所より私に合っている気がしますので、お世話になります。」


「ああ、よかった。設計事務所から来た人は、こないだも言いましたけど、試用期間でいやになっちゃう人が結構いるんですよね。監理だけじゃなくて、細かい気遣いや、お掃除なんかもやらなきゃいけないですから。

でも、瀬尾さんはその辺も嫌がらずにやられてますし、あいさつもきちんとできるので、職人の評判もいいですよ。」


「そうなんですよ。設計事務所時代は、現場に行くと、作業している人達とイマイチうまくいかない感じで、こっちのいうことを聞いてくれないことが多かったんですけど、ここは違いますね。

ハナシをちゃんと聞いてくれるし、当たり前ですが、約束を守ってくれる・・・。」


設計事務所のころは、こちらのお願いしたことや、変更点をスルーされることも多く、現場に行くと「あんたは俺たちとは違うよな」という疎外感を感じることがよくあったのだけど、ここの現場はそんなことはない。


毎日の挨拶もここちよい。


「瀬尾さんは現場の手作業が得意なようですが、前のお仕事でも現場仕事をされてたんですか?」


先日、社長と引渡し業務を行う現場に行ったときに、キッチンのタイルのジョイナー・・・。壁紙との境の見切り材にコーキングがされていない部位があった。


その日は、これからお客さんが来て、引渡しを行う現場だったので、施主さんが来る前に済ませないとまずい・・・。


社長は「しょうがない。引き渡した後に、もう一回作業に来るかあ」なんて言ってたけど、このくらいなら。ということで、近所のホームセンターに行って(その時は社長のレクサスで来てたので、工具がなかった。)コーキングガンとコーキングを買って、その部分の作業をあたしがやってしまったのだ。


「瀬尾さんすごいね!こういうこともできるんなら、あなた現場にも向いているよ。設計事務所より工務店の方が絶対向いてるよ!。」と称賛いただき、その日のうちに引渡しが完了したのだ。


「そういうわけではないんですが、模型づくりを長年やってたせいかもしれませんね。」


「あ、なるほど。それで工具の使い方なんかも詳しいんですね。養生テープ張りが上手だったって、塗装屋が驚いてましたよ。」


最初は現場の勝手がわからなかったので、掃除や養生なんかも率先して手伝っていた。

模型の塗装をするときに、養生テープを張ってからエアブラシをかけることも多いので、余計なところに塗料がかからないようにするテープ張りはよくやっていた。

そこを褒められたんなら、うれしい。


「苦手」と思っていた間取り図の作成なんかも、設計事務所時代は担当か所長から「指示書」が来て、それをもとに作っていたのだが、ほとんどが却下されていた。


だが、お客さんと会って、直接「ヒアリング」をしたうえで作成すると、 ―当然、一緒に打ち合わせをした専務のチェックのうえで提示するが― 「これで行きましょう。」と採用されることが多くなっていた。


以前勤めていた設計事務所では、所長が看板建築家で、彼が設計するという建前を掲げていた会社の体制上、やむをえなかったのだろうが「直接施主に聞く」ということは相手の意図をくみ取る最良の方法だと感じていた。


また、パースや図面書きも、この事務所で使っているCAD(PCで図面を書くソフト)は自分と相性がいいようなのと、女性社員の小田さんが、丁寧に教えてくれているのもスキルUPの要因だ。

貞子はちょっとこっちがわかんなくなると、「もういい!」ってすぐにキレたからなあ。



「では、本採用ということになりますので、詳しいことは、事務員さんとお話ししてください。」

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