11月

みのむし きぐるみ ふゆじたく

 いつも、遊びに来る時間になっても、クマパンちゃんが来ない。

 どうしたのかな。風邪でも、ひいたのかな。

 心配になって、あたしは、クマパンちゃんの所にようすを見に行くことにした。


 公園の木も、そろそろ、紅葉。赤や黄色に染まってきたよ。

 あっ、みのむしさん、みっけ!

 もう、11月だものね。

 もうすぐ、木枯らしが吹いて、また、冬がやってくる。

 あたしは、思わず、身震いしちゃった。猫なんだもの。寒いのきらい。

 冬は、みのむしさんみたいに、お部屋でぬくぬくしてるのが一番だよね。

 本格的に寒くなる前に、あたしも、そろそろ、冬支度ふゆじたくしなきゃ。

 みのむしさんもみのの中で、木枯らしや雪に負けずに、がんばってね。



 トントン。クマパンちゃんちのドアをノックする。

「クマパンちゃん、いますかぁ」


「いるよ〜」って、お返事があるのに、いっこうにクマパンちゃんは出てこない。やだ、そうとう具合でも、悪いのかな。


「おじゃましまぁす」

 勝手知ったるクマパンちゃんち。あたしは、クマパンちゃんのお部屋の戸を開けるなり、驚いた。

「クマパンちゃん、どうしたの!?」

 クマパンちゃんたら、毛布にくるまって、まるで、みのむしさん! たいへん、きっと、お熱があるんだわ!

「食欲、ある? なにか、食べたいものがあったら買ってきてあげる」


「スイートポテトと栗入りどら焼きとかぼちゃのプリン。あと、あったかいあんまんも食べたい」


「…… 食欲は、あるみたいね。うん、ちょっと、待ってて」


 あたしはコンビニまで走って行って、スイートポテトと栗入りどら焼きとかぼちゃのプリンとあったかいあんまんと、おでこに貼る冷却シートを買ってきた。


「はい、クマパンちゃん」


「うわぁ、ミケちゃん、ありがとう! なんだか、お誕生日とクリスマスがいっぺんに来たみたい! …… ところで、ミケちゃん、これなに?」

 クマパンちゃんが、毛布にくるまったまま、冷却シートを指差した。


「これなにって、お熱が出た時、おでこに貼るやつ。クマパンちゃん、お熱、あるんじゃないの?」


「ないよ」

 クマパンちゃんは、あっさり答えた。


 あたしは、クマパンちゃんのおでこに前足を当てた。

「ほんとだ。お熱は、ないみたい」


「ミケちゃんの方が、あるんじゃないの? ピンクのお鼻が真っ赤だよ」


 確かに。コンビニまで走って行って、超特急でお買い物して、また走って帰ってきたんだもの。

 クマパンちゃんは、あたしのおでこに冷却シートをペタンと貼った。


「やだ。クマパンちゃんに、買ってきたのに」


「ぼくは、スイートポテトと栗入りどら焼きとかぼちゃのプリンとあんまんだけでいいよ。冷却シートは、ミケちゃんにあげた」


 あげたって、これ、あたしが買ってきたんじゃないの!

 クマパンちゃんは、毛布に作った切り込みからニュッと手を出して、あんまんをハフハフ食べだした。なんか、毛布にしては変な感じ。


「クマパンちゃん、それって、毛布じゃないの?」


「毛布じゃないよ、ミケちゃん。きぐるみだよ。ぼく、きぐるみ、着てんの。もっとも、元は毛布だったんだけど。ぼくのお手製」


「えっ? クマパンちゃん、ぬいぐるみだよね? それなのに、きぐるみ、着てんの?」


「そうだよ」


 きぐるみって言われても、どう見たって、毛布を着たテディベアにしか見えないけど。

 あっ! そうか、寝袋か! よく見たら、毛布、袋になっているし。


「ねぇ、クマパンちゃん、寝袋なら、きぐるみって言わないよ」


「失礼だな、ミケちゃんは。寝袋じゃないよ。みのむしだよ、みのむし! これは、みのむしのきぐるみなの!」


「えっ! みのむしさんなの?」


 さっき、公園の木の枝で、みのむしさんを見たばっかり。どう見たって、みのむしさんには見えないよ。やっぱり、寝袋だよ。


「みのむしのきぐるみでも、寝袋でも、どっちでもいいけど、なんで、そんなもの着てるのよ。あたし、クマパンちゃんが風邪でもひいたのかと思って、心配したんだからね!」

 あたしは今まで心配していた反動で、カッカしてきた。


「ミケちゃん、頭に血が上ってるみたいだから、もう一枚、冷却シート、貼ってあげようか?」


「いいわよ!」


「ほらほら、熱くならない。ぼく、クマだから、冬支度ふゆじたくしてんの」

 クマパンちゃんは、スイートポテトに手をのばした。


「なに言ってんのよ。クマって言っても、クマパンちゃん、ぬいぐるみなんだから、冬眠なんてしないでしょ」


「冬眠は、しないよ。冬眠したら、クリスマスケーキも、お雑煮ぞうにも食べれないじゃないか」

 さすが、食欲の王者……。

「冬眠じゃなくて、冬ごもりの冬支度だよ。木枯らしの吹く冬の間は、みのむしさんのきぐるみを着て、みのむしさんになって、ぬくぬくしてようと思ったの。それでさ、出来上がったばっかりのきぐるみを来たら、あったかくて、もう、出たくなくなっちゃったんだ」


「呆れた。まだ、秋なのよ。今から、そんなで、冬が来たら、どうすんのよ」


「ミケちゃんも、そっちの毛布に包まってごらん。きぐるみ作って、みのむしさんになりたくなるから」


 あたしは、チラッと、毛布を見た。ふかふか毛布が、あたしを誘惑してくる。おでこの冷却シートと毛布の熱い誘惑がバチバチと火花を散らす。冷却シートが一歩引き、冷静な判断が熱い誘惑に負けそうになった時、きつねこちゃんの声が玄関から、聞こえてきた。


「クマパンちゃーん、いますかぁ? ミケちゃん、来てますかぁ?」


「はーい、あたしもクマパンちゃんも、いるよぉ。きつねこちゃんも、上がっておいでよぉ」

 口いっぱいにスイートポテトを頬張っているクマパンちゃんの代わりに、あたしは返事をした。


「おじゃましまぁす…… あれっ? クマパンちゃん、風邪ひいた? 熱でも、あるの?」


「ちがうよ、きつねこちゃん。クマパンちゃんたら、冬ごもり用に、みのむしのきぐるみ作ったんだって。それで、試しに入ってみたら、あんまり気持ちよくて出たくなくなっちゃったんだって」 


「だったら、クマパンちゃん、ほんとに、みのむしさんになっちゃったんだ」きつねこちゃんも、呆れ顔だ。「それと、ミケちゃんは、なぜおでこに冷却シート貼ってんの? ミケちゃん、お熱あるの?」


「あるわけないでしょ。あたしがクマパンちゃんに文句言ったら、クマパンちゃんが貼ったのよ、あたしのおでこに」


「わたし、ぜんぜん、意味読めないんですけど」

 きつねこちゃんは、あたしとクマパンちゃんを見比べた。それから、クマパンちゃんに言った。

「クマパンちゃん、みのむしなのに、なんで、プリン食べてんの?」


「あたしが、買ってきたのよ。スイートポテトと栗入りどら焼きとかぼちゃのプリンとあんまん。クマパンちゃんが食べたいって言ったから。熱でもあるかと思って、心配して冷却シートといっしょに」


「お見受けしたところ、冷却シート以外に、残っているのはどら焼きとクマパンちゃんが食べているプリンだけなんですけれども」


「あんまんとスイートポテトは、すでに、みのむしクマパンちゃんのおなかの中」


「ああ、それで、ミケちゃん、クマパンちゃんにカッカして文句言ったんだ」


 クマパンちゃんは涼しい顔で、どら焼きに手を伸ばしたが、食欲の女帝きつねこちゃんがさっと取り上げて、半分に割ってから片方をあたしにくれた。


「クマパンちゃん、みのむしなのに、あんまんとスイートポテトとプリンとなんて、食べていいの?」


「いいよ、いいに決まってるでしょ、きつねこちゃん」


「みのむしになったら、もう、なにも食べれないんだよ、クマパンちゃん。みのむしのオスのおとなは、口がないんだから」

 きつねこちゃんは、パクってどら焼きを食べた。


「えっ? ウソ! ほんと?」びっくりしたクマパンちゃんが、ゴニョゴニョ言い出した。「だって、ぼく、まだ、こどもだし」


 あたしはクマパンちゃんを横目に、どら焼きを食べながらながらたずねた。

「きつねこちゃん、あたしとクマパンちゃんに、なんか用?」


「そうなの、ミケちゃん! 焼き芋屋さんを、半年ぶりに駅前で見かけたのよ! いっしょに行かない?」


「わぁ! 行く行く!」

 でも、待てよ。あたしは、お財布をのぞいた。さっき、コンビニで使っちゃったんだ。


「いいよ、ミケちゃん、今日はあたし、おごってあげる。焼き芋屋さん、行っちゃう前に、早く行こう!」


 やった! 持つべきものは、親友よね!


「きつねこちゃん、ミケちゃん、ぼくも行く」


「クマパンちゃんは、みのむしなんでしょ」

 あたしは、おでこの冷却シートをはがして、みのむしクマパンちゃんのおでこにぺたんと貼った。

 それから、きつねこちゃんと焼き芋屋さんを探しに行った。


 でもね、すぐに、クマパンちゃんは、みのむしのきぐるみを脱ぎ捨てて、あたしたちを追ってきた。あんなに食べたのに。焼き芋は、別腹だって。まったく、もう。

 食欲の秋が終わって、冬になっても、クマパンちゃんは、きっと、みのむしさんには、なれそうもないよ。 


 三毛猫 ミケ




***




 みのむしというのは、不思議な生き物です。

 きつねこちゃんが言っていたように、成虫のオスには口がないのだそうです。だから、成虫になって、みのから出ても、ずっと飲まず食わず。やっとメスのみのむしを見つけて交尾し終わると、そのまま死んでしまいます。

 そして、みのむしのメスは、一生、蓑の外に出ることもなく、オスと交尾をしたあと産卵して息絶えます。メスが蓑の外に出るのは、死んでからのこと。

 地球という母は、様々な生き物を創り、それぞれの生態を与えました。

 もしかしたら、みのむしさんたちから見たら、人間の方こそ落ち着きもなく、あくせくと一生動き回っている不思議な生き物なのかもしれませんね。



【こっそり予告】

 2年間連載した絵日記カレンダー。

 今回で、いったん終了して、読みやすいようにまとめようかなと考えています。 

 この2年間のお話を中心として、新しいお話も加えながら、ミケちゃんたちの1月から12月までの楽しいお話「おはよう! ミケちゃん」として、短期連載していきます。

 その後の新作連載とともに、待っていてくださると、うれしいです。


 お楽しみは、これからだ!(´pゝω・)ニャン

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絵日記ミケちゃん 水玉猫 @mizutamaneko

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