51 覇界神

 大西洋の白い大地に現れた光の城塞が螺導紋サークル――ダイラセン・アトランティスがおこなう空間支配の顕現であることは、戦場に集結したラ=ズたちの誰もが理解した。

 圧倒的な力を見せつけられ、中には怯む者も居る。

 そんな彼らに向けて、彰吾はクラクション・ボイスでげきを飛ばした。


野郎共アンタたち! この状況、どういうことかワカるかしら!? ――そうよ、ようやく相手むこうが札を切る所までってコトよね! !』


 事実である。

 アトランティスが周囲に展開した三ドリルのダイラセンを、彰吾たちは知っている。

 交戦し、打倒したことがある相手、ましてこころのかよわぬ傀儡におくれをとる道理はないのだ。


『足の速さに自信がある者はパシフィスの方へ。火力自慢はアタシについていらっしゃい! メガラニカをブッ潰すわよ!』

「ヴォンヴォンヴォン! ヴゥゥゥゥン!」


 彰吾トラックの荷台から飛び出した濤鏡鬼とうきょうきがエンジン音を轟かせたとき、彰吾のヘッドライトがギンと輝き。


 ドリルデコトラ変形トランスフォーム! 

 車体が中央から二つに割れ、巨大なアームレッグになった。


『いくわよ濤鏡鬼!』


 合体の号令だ!

 エンジンの音で応えた濤鏡鬼は、首から下だけをビークル形態に変形させる。

 そこへ真っ二つになった彰吾が装着コネクト


 ボディ前面が変形したドリル腕部アーム

 シャーシとタイヤが変形した走破脚部ダッシュレッグ

 後部荷台が展開した大型加速装置メガブースター

 

 並みのギガス族を見下ろすほどのドリル巨人が完成し、雷鳴のごときエンジン音シャウトを炸裂させる!


強襲殲滅夜露死苦形態ブッチギるわよ、オメーら!!』


 背中のブースターから巨大な火柱を噴き出して特攻する濤鏡鬼を、周囲のラ=ズが追いかける。

 どのラ=ズも銃火器や巨大な武器エモノを手にした“馬鹿力”である。


 メガラニカは必要以上の怒声を上げながら突っ込んでくる一団を迎撃。

 だが、深海並みの圧力がかかる支配領域フィールドも四方八方から伸び来る触手も、なりふり構わぬ推進力と後先考えぬ一斉射撃に突破ごり押しされた。


 *


 メガラニカの“方面”で盛大なスターマインが打ち上がるのと同刻。

 嵐剣丸たちラ=ズに取り囲まれたパシフィスが、地団太を踏むように何度も地面を打ち揺るがした。

 白い石灰の大地がひび割れ大きく隆起して、大小の破片をまき散らしながら巨大地棲生物がび出される。


「「狙うは大将の首のみ!」」


 嵐剣丸のすがたが一瞬ぶれ、瞬時に20体の分身を作り出した。

 数を増やした嵐剣丸と集ったラ=ズたちは各々おのおのでパシフィスを目指し、駆ける!


 進行方向に待ち構えるオケラの脇をかいくぐり、モグラの頭を踏み台にし、追ってくるミミズたちをスピードで翻弄しスパゲッティのように絡み合わせて自滅に追い込み。

 パシフィスが四股で地面の破片を飛散させれば、疾風はやての忍びや神速の騎士は空中の石塊を踏み台がわりに次々と飛び移り。


 わずか十数秒でパシフィス本体にまとわりついた小さなラ=ズたちが、巨人の各関節にドリルを突き立てる!


「「これぞ忍法・離裏破兎リリパット!」」


 全身の関節を貫かれたパシフィスは、たのみの剛腕を振るうこともできずされていった。


 *


 虎珠皇はただひとり、変わり果てたに対峙する。

 かつての重厚な黒鉄色を漂白したかのような石灰色のレムリアは、へし折られたドリルランサーを棄て両腕を前方へ突き出した。


「……何も、感じねェ」


 虎珠皇の呟きを聞いてか聞かずか、レムリアの両腕が本体から切り離され空中を走り出す。

 右腕はまっすぐ、空中に静止した虎珠皇に迫る。

 左腕は大きく弧を描いた起動で背後に回り込む。


 虎珠皇は動かない。

 ただ、両腕と背中のドリルを廻した。

 冷たい回転音が白銀の総身ボディから発せられた。


「――魔破斗摩マハトマを感じねぇってんだよ!」


 怒声と共に振るった右腕のドリルが、飛来した巨大なパンチに真正面から激突し――一瞬で八つ裂きにした。

 背後に至ったもう片方の腕も背中のドリルが発生させた螺導紋サークルとどめられ、そのまま削り潰された。


「レムリア。あんたは言ってたよな。自分はダイラセンの中じゃって。だから魔破斗摩マハトマを編み出して、ドリルの力を高めたってよ」

「あの人は強かった。本当に強かったんだ――魔破斗摩マハトマを使うダイラセン・レムリアは! 」


 虎珠と旭の想いがたかぶってドリルの回転数を高める。

 目の前に立つレムリアのカタチをしたモノに「これ以上その姿形すがたであることは許さぬ」と、両腕のドリルを猛らせる。


 背中のドリルが螺導紋サークルによって斥力を生み、虎珠皇を


 刹那よりも速く喉元を貫かれ、レムリアの骸は今度こそ灰に帰した。


 *


 要塞に捕らえられた刻冥は天守にあたるアトランティスの頭部を目指している。

 次々と襲い来る罠をかわして進む刻冥は、不意に外からドリルの気配が近づくのを感じた。


 壁に大穴が穿たれた!

 火焔ファイヤー虎珠皇だ!


「なにに進んでンだよ。ドリルってのはために使うモンだろ」

「……忘れてたわけじゃないもん……そうよ、爪を隠していただけだし」


 急速に修復が始まる“壁”の穴から二人は抜け出し、アトランティスから間合いをとって空中に並ぶ。


「そうかい。とっとと脱出しておっぱじめようぜ!」


 虎珠皇が両腕のドリルを空へ向けて打ち上げた。


「……下品な言い方……うん、最近は遠慮もなくなってきたし」


 刻冥は両腕を地へ向けて、左右2対のドリルから雷光いかずちを落とした。


「遠慮がェのはお互い様だろうが!」


 刻冥の放った雷光に反応して、地表――アトランティスの足元で8つの螺導紋サークルが輝きを増す。

 先の攻防でアトランティスに撃ち落とされたリモート・ドリルが予定通り機能しているのだ。


 そして空には燃える螺旋曼荼羅――虎珠皇の螺導紋サークルが空を覆う天蓋のごとく拡がった。

 天地に炎と雷の螺導紋が展開された時、空を走るほのおは地に湛えられた雷に引き寄せられる!


「「赫星討魔陣メテオフォーメーション!」」


 上空の炎陣から直径1メートル級の火の玉が絨毯爆撃。

 アトランティスの螺導紋城塞に降り注ぐ火の玉の雨。

 二人のミィ・フラグメントゥムが生み出した流星が直撃すれば、アトランティスの空間支配とて揺らぐ。


「それでも余には届かんよ」


 依然、高みから刻冥と虎珠、奮戦するムーの欠片たちを悠然と見下ろすアトランティス。

 その驕れる様を見て、刻冥の紅い瞳が輝く。彼女は柄にもなくほくそ笑んでいた。


「……そうね。これでもお前には届かない。破壊することはできない……ごくわずかなだけ」



「「。忍び込むには申し分なき間隙すきまなり」」



 パシフィスを分身に任せ地中に潜伏していた嵐剣丸の“本体”は、既にアトランティスの足下――螺導紋城塞の礎石にあたるサークルの中心に到達している。

 螺導紋を巡る経絡エネルギーが最も集まるその“部分”へ、逆手に持った結晶クリスタルドリル苦無クナイ――――を突き立てた!


 バツン、と、途方もなく大きな革袋を破ったような奇妙な手ごたえ。


 それと共に、ラ=ズの皆が足元に感じていた地底世界の気配が霧散する。

 どうやらアトランティスによって取り払われていた次元の壁がされたようだ。


 礎石が砕けたことによってか、立体をなしていたアトランティスの城塞そのものも崩れてゆく。


「ざまあ見ろ。これでテメーは丸裸だぜ」


 再装着したドリルの切っ先を向ける虎珠皇。


 螺真王ザ・パンゲアを名乗ったアトランティスから、大きな空洞うろに風が跳ね返る音がした。


 一拍置いて、その音がアトランティスのであることに誰かが気付いた時。捻利部界転の心底から無関心な声音が響き渡り。


「――まあ、ひとまず上出来だ。だがな、。ああ、まったく遅すぎる。学習しないのかね? 諸君は」


 一本足の異形神が両腕を拡げる。

 金と銀の身体カラダの表面が、とつぜん泡立ちながら膨張した。


 一瞬、アトランティスの膨張した身体が三体のダイラセンのシルエットを形成したかと思えば、すぐに引っ込んで元通りになる。


「地底世界との繋がりを断つ。それは良いアイデアだ。流石は穿地曉蔵あの男だよ。ゆえに――な。私がダイラセンたちの本質たましい、諸君らの目論見もくろみは成功したことだろうに」


 アトランティスの一本足の根元から、第二、第三、第四、第五第六無数の脚が発生――樹木の根のように枝分かれして恐ろしい速度で伸びる。

 伸びきった根は、次にねじれて混ざり合い、新たなカタチを成していく。


 アトランティスの下半身はわずか一秒の間に四足獣の姿となった。

 それと共に甲殻類エビに似た頭部が左右に割れ、額の両側に一対のドリル角を戴く銀色の人面があらわれた。


 後ろ脚で白い大地を踏みしめ前脚を持ち上げて。

 いななきの代わりにドリルの回転音をあげるその姿は、金属鱗で全身を覆った神麒麟ケンタウロスである!


「諸君らにとって最期の講義だ。覇界神ザ・ドリルの何たるかを、教育してやろう」

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