第24話 初詣

 この土地で崇められている神を殲滅するために、邪神たちがついに動き出した!


「クトゥルーも、初詣にいくのです」


「神社に行くのです」


 人間たちが崇める神でさえ、邪神の敵ではないのだ。

 この地上の真の支配者の前では、怯えた眼を見開いたまま、触手に蹂躙されて行くのだ!


「ゴミどもがうようよいるのです……」


「すぐに、片付けるのです」


 クトゥルーは、参拝客の残したゴミを次々に片付け始めた!


「向こうに人がいっぱい集まっているのです」


「みんな、どこに向かっているのです?」


 邪神たちよ、まだそこは参道で、神社ではないのだ!

 人々が向かう先に神社がある!


「クトゥルーも行ってみるのです」


「あそこが目的地なのです……あれは!」


――ガラガラ。


 そこに、人々が願いを託す本堂があった!

 邪神の底知れぬ欲望は、人間の願いが詰まった賽銭箱に目を付けたのか!


「クトゥルーも、ガラガラ鳴らすのです」


「ひもを引っ張りたいのです」


 魔を払う鈴が邪神の手に落ちてしまうのか!


「人がいっぱいで前に行けないのです」


「端からいくのです」


「一号が、人込みに流されているのです!」


「迷子になると危険なのです」


「触手を繋いで並んでいくのです」


 ついに、本堂へと忍び寄る邪神!

 最早、人類に抗う術は無い!


「一番前までこれたのです」


「ガラガラ鳴らすのです」


 だが、邪神の手が鈴緒に伸ばされようとした、その時!


「クピャー!」


 まさか、邪神に抗える神がこの世界に残っていたのか!

 薄れゆく信仰の中で、まだこれ程の力を残しているというのか!


「痛いのです」


「空から何か降って来るのです」


 邪神の頭上に降り注いでいるのは、小銭だ!

 列に並ぶのを待ちきれない参拝客が、後ろから投げた、小銭だ!


「ガラガラ鳴らすのです……」


「もう少しなので……がくっ……」


 邪神たちの伸ばした触手も、弾幕のように降り注ぐ小銭の前に力尽きた。


 お賽銭は投げないようにしましょう。

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