第5話 眷属

 地球侵略を目論む邪神クトゥルーの前に難関が立ちはだかった。

 それは凶悪な魔物でも、知恵を武器に抵抗を試みる人間でもなく、地球そのものが邪神を拒むかのような、自然の猛威、地球上で最も過酷な環境を作り出す砂漠であった。


「今日は、ついに、砂漠を侵略するのです」


「怖いのです」


「干からびてしまうのです」


「砂なのです」


 邪神でさえ二の足を踏む、灼熱の太陽にさらされ、一滴の水もなく、生き物は飢えと渇きに苦しみ死んでいくという砂漠。

 だが、そこにも人類は存在していた!


「へっへ~。こっから穴を掘って、その山まで行くぞ~」


「やめてよ。私の山が崩れちゃうじゃない」


「山を侵略だー!」


 三人の子供たちが既に、砂場を占領していたのだ。


「先に侵略されているのです!」


「山が危険なのです」


「城を作って守るのです」


「え? お姉ちゃんたちは?……」


「急いで、山に城を作るのです!」


 クトゥルーは、女の子と協力して、砂の山の上に城を築いた。どんな攻撃にも耐える城だ、攻め落とされることは無い。


「よーし、城の周りに溝を掘るぞー」


 子供たちは正面からの攻撃を諦め、城を包囲するように溝を掘り始めた。


「どうしよう、お姉ちゃん」


「溝を掘られてしまったのです」


「囲まれて出られないのです」


「このまま、干からびてしまうのです」


「死んでしまうのです~」


 砂漠の城に取り残され、絶望のあまり泣き出したクトゥルーに、意外な所から救いの手が差し伸べられた。

 まさに、暗雲から差し込む光明、パンドラの箱に最後に残った希望、絶望の地に舞い降りる天使であった。


「えーっと、僕たちも仲間になるよ。一緒に城を作ろう」


「ほら、橋が出来たよ!」


「わーい、出られるのです」


「干からびないのです」


「こやつらも、良い人間なのです」


「インスマウス人にして、一緒に侵略をするのです」


「みんなで、城を作って侵略するのですー!」


「おー!」


 純真な子供たちでさえ容赦なく手にかける、恐るべき邪神クトゥルー。

 人類は、気が付かぬ間に深淵の闇の中に引きずり込まれて行くのだ……。

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