蓋を開けたら煙が出た

釣りっぽり

 認めたくない訳ではないけれど、まあ、軽く受け流そうとしたふうたんのお誕生日。


 ふうたん、また 一つ 年をくいました。


 ふうたんのお誕生日は、てっちゃんが会社の休みを取って、ふうたんがハマっていて、晩の支度が早く終わった時自転車で通っている近所の釣りっぽり行った。


 てっちゃんが5匹釣って、

 ふうたんが2匹釣って、

 2人合わせて、目方9キロ分の鯉が釣れた。


 その釣りっぽリは、鯉堀(こいぼり)と近隣の昔の人たちから呼ばれているところで、ふうたんが、

「釣りっぽり行ってきた。」

 と地元の人に話すと、

「あそこの鯉堀まだやってたの?へえ。」

 と、感心される歴史的建造釣りっ堀なのだ。



 瓶ビールのケースをひっくり返した上にベニヤ板がクギで打ち付けてあるのが、椅子。釣りっぽりの池の周りに、椅子が置いてあって、それを適当に持って釣りスポットに置き、腰かける。


 トイレに行きたくなったら、外側にしか鍵がついていない、コンクリで囲われたベニヤ 板とトタン板で作られた扉のぼっとん便所があるので、そこを利用する。

 トイレの内側からは、扉についた紐を手で掴んでいないと扉がオープンしてしまうので、片手で用を足す行為を全部熟さなければならない。紐を掴んだ手が外れちゃって、扉オープンして外から見られてしまうのは、まだ大したことがない。

 外側についている鍵は、L字型の金具がついている上にかまぼこの板をはめるってだけの鍵で、かまぼこの板がL字型金具の上になった状態で中に入ってしまって、風が吹いたりなんか不可がかかると、

 カチョ

 と、鍵がかかってしまって、外に出られなくなるケースが多々生じる。

 ふうたん、釣り中に、

「助けてくれ~、あ~けてくれ~。」

 という雄たけびを聞いて、何人もの人の命を救っている。人命救助女王ふうたん、だ。



 そんな釣りっぽりで、誕生日に釣りをしていたら、ふうたん、何でだか分かんないけど、竿を持ったまま、

 ちゃぽんっ

 と、池の中に落っこちた。


「た~すけてくれ~。」

 これこそ、ホントのSOSだ。

 てっちゃん、ビール瓶のケースの上に座ってたはずのふうたんの姿が見えなくなって、

「ぼっとん便所にでも行ったのかな?」

 と、優雅に釣りを続けた。


 ふうたん、てっちゃんに助けを求める。

 足は池の底に着くけれど、底なし沼とはこういうのを言うのか。ってな具合に底に着いた足が沈んでいくので、バシャバシャと、釣りっぽリの歌舞伎劇場でいうなれば、花道の様な、池の中に釣りっぽりのおじさんが作って建てた、木の橋に捕まった。

 一生懸命橋の上にあがろうとするふうたんなのだけれと、体が水の浮力でクルンと回ってしまってあがれない。


「た~すけておくれ~」

 ふうたん、必死に助けを呼ぶ。ただでさえ。客足薄い釣りっぽりの平日の昼間なぞ、釣りに訪れる客などいやしない。いるのは、てっちゃんと、小屋の中にいる岩崎さんというおじさんだけだ。


 てっちゃん、ようやくふうたんが池に落ちてると気付いた!

 橋の上に乗せようと、ふうたんの腕を一生懸命引っ張るてっちゃん。しかし、救助活動は早々に切り上げられた。

「こりゃ自分1人の力で引っ張り上げるのはムリだ。」

 と、てっちゃんは小屋の中のおじさんに救助要請をしに、一旦その場を離れただけで救助活動を放棄したわけではないのであった。

 が、しかし、

 ふうたんは、てっちゃんに捨てられた気持ちでいっぱいになり、


「た~すけておくれ~。岩崎さ~ん!」

 と、釣りっぽりの小屋にいる管理人のおじさんの名前を叫んだ。


 てっちゃんがハシゴを持った岩崎さんを連れてふうたんの元へ戻ってきて、ハシゴを池の中に入れる。そこから登って、ふうたん無事陸上に無事帰還。でも、てっちゃんに捨てられた感半端ない。



 ―「そんな誕生日が何歳の誕生日の時か忘れたけどあったねえ。」

 ふうたん、1日しかつけていない日記帳の続きを読む。



“釣りっぽりで池に落ちたそのあと、ミニストップにいって、


 アイスコーヒーと、フィッシュ&チップスを買って食べて

 夜は、もつ鍋を家で食べた。


 綺麗なお花のプレゼントを、ふうたんはてっちゃんから貰った。

 それと、日記帳も貰った。“


 そういう事が書いてあるんだと、次の文面を見て察知した。


 “今日は誕生日で釣りっぽりに行きました。すごくねむかったです。

 池に落ちました。すごくねむかったです。

 綺麗なお花とこの日記帳をもらいました。すごくねむかったです。“


 人の日記帳を覗き見する様な人ではないてっちゃんが、ふうたんに、

「何見てるの?」

 と聞いている。

 ふうたんは、

「その日あった事だよ。日記なんだから。」

 と、答えた。

 てっちゃんは、まさか、自分がプレゼントした日記帳に、こんな日記1つしか書いてもらえていないとは想像だにしていないであろう。


 池に落ちた後、釣りっぽりに行ったふうたんとてっちゃんの姿を見た岩崎さんは、ふうたんに、

「もう2度と来てくれないと思ってた。」

 と、嬉しそうに出迎えてくれたんだったねえ。

 ふうたんにだって、少々の根性はあるんだぞ。



 そんな事を思い出したのは、この事件が起こった時の事。



 釣りっぽりにハマっていたふうたんであったが、いつからか気候が暑くなって、行かなくなった。


 時は過ぎ、

 ある真夏の日。

 恐ろしいものをキッチンで発見した。

 釣りの餌を、

“鯉にはこれだ!”

 という凄く臭いエキスを使って片栗粉に混ぜてゼリー状にした餌を手作りして釣り餌入れ用のお弁当箱に入れてあったのをふうたんは発見した。ふうたんは、中にまだ餌が入っているとは思いもせず、蓋を開けた。


 煙が出た。

 凄い異臭が家中に漂った。


 てっちゃんは、くっさいおならをするふうたんの、バージョンアップしたおならがかまされたのかと思い、笑いながら、

「ふうたんのおならは、すごいねえ。」

 と、キッチンに立つふうたんの元に来た。


 ふうたんは、一瞬開けたら、煙がでてきて怖くなったから直ぐ蓋を閉め直した釣り餌用お弁当箱をてっちゃんに渡して、

「これ、洗っといて。」

 と、押し付けた。

 何も知らないてっちゃんは、地獄を見ることとなった。


「うがああ、なんかけむりでとる~。死ぬうう。」

 てっちゃんの悶える声と共に家中に広がる鯉にはこれだ!の腐った臭い。


 ふうたんは、

「し~らない。私知~らない。」

 と、しらをきって、日記帳を見つけて読み返し、岩崎さんやぼっとん便所の事を思い出して、

「にひひひ。」

 と、笑っている。

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レギンスが脱げない事件から始まる寝ぼけ女王ふうたんエッセイ まさぼん @masabon

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