家族のカタチ(その4)

男の人はカウンターに座って、マスターと何か話している。

私たちからは何を話してるかまでは聞き取れなく、ただ静かにカウンターを見ていた。


「なに話してるんだろうね」

 舞彩さんはカウンターを見ながら小さな声を出した。

「ここからじゃ聞き取れませんから分からないですね」

「それにしてもどうやってここに連れてきたの?」

 加藤さんはチラッと見ながら舞彩さんに聞いた。

「それは、会いに行ったら今日も座って居たので初めにあいさつしました。そして次に喫茶店に行こうって誘いました」

「いきなり過ぎじゃないですか!?」

 私は聞いてて思わず大きな声を出してしまった。

 加藤さんと舞彩さんからシー!と怒られ、海斗くんは耳を塞いで怒ってる顔をして私を見てくる。ごめんね、と頭を撫でた。

「すいません」

「誘ってみたけど、男の人が遠慮するからいつも何でここに居るのか聞いてみたら・・・」

「舞彩さん、何でも直球すぎませんか?」

「そうかな?」

「中々の行動力だわ」

 私は呆れたような声で、加藤さんは驚いた声で言った。

「それで聞いてみたら、『私は、酷い男だ』って頭を下げはじめて・・・ならなおさら喫茶店においでって誘ったんです」

 舞彩さんは体勢を戻し、残ってるコーヒーに手をかけ、一口飲んで続けた。

「マスターなら解決してくれるって言ったら一緒に来てくれたんです」

「酷い男って、何をしたんですかね」

「さぁ、見た感じはそんなことも無いのにね」

「おじさん、酷く悲しい顔をして、何かに頼りたかったんだと思います。だから来てくれたのかも」

 舞彩さんは真剣な顔で二人をじっと見つめた。


舞彩さんってたまに核心っぽいことを言って、ちゃんと人を見てる。あのテンションから想像つかないから人って見た目じゃ無いんだと私は思った。


それから少ししてマスターと男の人が立ち上がり、マスターは男の人に奥の部屋を案内しようとしていた。

「マスター、私も一緒に」

 私は海斗くんを舞彩さんに預け、立ち上がった。

「朱音ちゃんも来たら誰が店番するんですか」

「それなら私が待っときますよ」

 加藤さんが手を上げてマスターに言う。

「何かあったらすぐに呼びに行きますから」

「そんな、お客さんに申し訳ありません....」

「大丈夫ですよ。幸い海斗もさっきから静かに本を読んでいるので心配はいりません」

 加藤さんは有無を言わさぬ笑顔をマスターに向ける。

「そこまで言って下さるならお願いします」

 マスターは加藤さんに頭を下げた。

 私も遅れて加藤さんに感謝の言葉を言った。

「私も行きたい!」

 舞彩さんが大きな声を出した。

「舞彩さん、ここは従業員以外ダメですよ」

「そこを何とかお願い!私も力になりたい」

 舞彩さんは両手を合わしお願いする。

「舞彩さん....何で」

 私は舞彩さんの行動にビックリして舞彩さんの方を見る。

「何でって、私が一番なんとかしてあげたいたから」

 顔を上げ、真剣な顔でマスターを見る。

 

無言で見つめ合った中、誰一人として言葉を発しなかった。静かな中重い空気が周りを包む。根を上げたのはマスターの方だった。


「分かりました。一緒に来てください」

「ほんと!ありがとう」

 舞彩さんは頭を下げお礼を言う。


こうして、私、舞彩さん、マスター、男の人、四人で奥の部屋に行くことになった。

加藤さんだけは店番をしてくれるらしく、残った。嬉しいけど申し訳ない気持ちになりながら扉の中へ私たちは入った。


今回もやっぱり前とは構造が変わっている。前は教室だったのに今回は・・・公園?


「ここは....」

 男の人はありえない光景を目の当たりにして体が立ち止まった。

「貴方の悩みに近い場所のはずです」

 マスターは公園のベンチに向かい、またお香を焚いている。

「あれ? 喫茶店の裏? に公園なんてあったっけ?」

 舞彩さんはハテナマークを顔に浮かべ辺りを見渡している。

「嘘だ、ありえない。だってここは家の近くの公園で...喫茶店からはほど遠いはずなんだから」

 目の前のことが信じられず、理解できない恐怖といった顔で前より一層顔は青白くなっている。

「この場所を理解しようとしなくていいです。ここはそういう場所ですから・・・」

 マスターはベンチに腕を伸ばし、どうぞと男の人を案内しながら言う。

「どうか話してください。僕たちに、貴方が何を恐れているのか、何に悩んでいるのかを....」

 

私と舞彩さんも公園のベンチに向かい、足を踏み入れた。


地面はやっぱり本物の感触で偽物とは思えない。見るもの全てが本物でどこからどう見ても公園だ。違いがあるならここには今、私たち以外誰もいない。


私はまだこの部屋のことも理解できていない。この部屋が何なのか、どうなっているのか何一つ知らない。


後ろを振り替えるとそこには扉は無く、白だが少し鼠色も混じった霧に覆われていた。

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