家族のカタチ(その3)

舞彩さんが話した内容はこうだった。

何ヵ月か前から休日になると一人の男の人がベンチに座って遠くを眺めてるらしく。それだけなら別に普通で特に気にしない。

けれど、男の人の顔は酷く青ざめていて、今にも死にそうな顔をしていた。

舞彩さんはよくその公園を通るらしくいつもその男の人を見ていた。舞彩さんはその男の人のことが気がかりで今日、マスターに話に来たらしい。


「もしかしたら、マスターなら何か知ってるかなと思って来たんだけど....知ってる?」

「いえ、見たことも会ったこともないですね」

 マスターは新しいコーヒーをつくりながら返事した。

「そっかー。マスターも知らないか~」

 残念!と言いながら舞彩さんは体勢を元に戻した。

「その男の人は何か悩んでいるのかもしれませんね」

 マスターは舞彩さんと私の分の飲み物を持ってきた。

「そうなんだよねー。だからマスターなんとかならない?もう毎回通るたびに私まで悲しくなっちゃって....」

「僕がでしゃばるもんでは無いですよ。その人が店に来ていただければ何か出来るかもしれませんが」

「来るかどうかも分からないですもんね」

 私はボソッと呟いた。

「そこですね」

 マスターは共感するように言った。

「誘ってあげれば?」

 私の膝に座っていた海斗くんが忽然ともらした。

「それだ!連れて来ればいいんじゃん!」

 舞彩さんは立ち上がり走って出ていった。

「そんな急に言われたら相手もビックリしますよ!」

「え、ちょっ!舞彩さん!?」

 マスターと私の声を聞く前に舞彩さんは飛び出してしまい。後にはドアの音が鳴っていた。

「決断が早い子ですね....」

 加藤さんはビックリした顔をしていた。

「初めて会った時と比べたら少し変わりましたね。もしかしたらあっちが本当の舞彩さんかもしれません」

 マスターは舞彩さんが飛び出したドアを見ながら呟いた。

「それとも誰かさんのお節介がうつったのかもしれませんね」

 私はそう言うとマスターの方を見た。と同時に加藤さんもマスターを見た。

「え、僕、ですか?」

 マスターは二人の視線に気づき少しビックリしている。

「さぁ....どうですかね」

 私は少し首を横に振った。

 加藤さんはクスクスと笑っている。


私は海斗くんにギューと抱きついた。海斗くんは少し苦しそうにもするがはね除けてはくれなかった。優しいなぁ。海斗くんは

舞彩さんが出ていって一時間がたっただろうかまた突然ドアが開く音が聞こえた。


「ただいまー!連れてきたよ」

 舞彩さんの後ろには少し猫背の男の人がいた。

「えっと・・・」

 男の人は困ったような戸惑ったような顔をした。

「いらっしゃいませ」

 マスターは二人に近づきながら話す。

「すいません。無理矢理連れて来られて大丈夫でしたか?」

「あ、マスター酷い!ちゃんと了承を得て連れて来たんだよ」

 舞彩さんが頬を膨らまして言うが私は「今は静かにしましょう」と小声で言って舞彩さんを席に連れていった。

「あ、あぁ。それは大丈夫ですけどここは?」

 男の人は首を縦に振った。

「ここは僕が経営する喫茶店【true heart】といいます。何か悩みがあるんじゃないでしょうか?」

 え?と男の人が困惑する。

「あの女の子が心配していて、いつも何か悩んでいる顔をしてると言っていたので、僕でよければ話を聞きます」

「えっと....」

 男の人は申し訳ないような顔をしてこちらを見ている。

 舞彩さんは何も言わず頑張れとポーズをとっている。

 男の人はまだ迷っているようにも見えた。

「急に連れてこられ言われてもすぐには呑み込めないでしょう」

 こっちらにどうぞ、とマスターは席に案内した。

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