第四話

バケモノ(その1)

窓から差し込む光が外の暖かさを教えてくれる。窓の外から空を見ると白い雲が少しあるだけでほぼ青空が広がっていた。そこに空から地面に熱い光を当てる太陽がきらめいていた。


「今日は暖かそうですね」

 私は窓から外を見ながら店内に居る人に語りかけた。

 

中に居るのは私―笹倉朱音とこの店のマスター、後はお客の加藤さんの三人だ。

今日は息子の海斗くんはパパと映画を観に行ってるらしい。


「私も今日は溜まった洗濯物を干して来たところなんです。絶好の洗濯日和ですよね」

 加藤さんが飲み終わったコップを置いて言った。

「こういう日に散歩だったり遊びに行ったりしたいですよね」

 マスターも窓を見ながら言った。

「平和だなーって感じがしますね!」

 私は窓から離れてマスターと加藤さんに言った。


何事も無く、ゆっくりと時間が進んでいく。ほのぼのと過ごす毎日が平和と感じるのは大切なことだと私は思う。


「でも最近、良いニュースはあまり聞かないですよね」

「そうですね。事件や事故が毎日のようにTVで放送されてますもんね」

「え?そんなに多いんですか?」

「朱音ちゃんはニュースとかあまり見ないタイプかな?」

「そう、ですね。友達ともあまりそういう話はしないので」

 私は少し恥ずかしく思った。

「最近、いじめ問題が激しくてね」

 加藤さんが悲しい顔をして続ける。

「色々な学校でいじめが発覚して問題になってるの」

「いじめ....ですか?」

「そう。ある学校じゃ自殺してしまった子もいるの」

「そんな....」

 

私は加藤さんの話を聞くだけで何も言えなかった。いじめ問題がニュースになってることすら知らなかったのだから、己の世間への興味がどれ程なのか理解できる。


「いじめは自分には関係無いように見えても実際は身近で起きてるものなんですよ。」

 マスターは何かを思うように遠くを見つめて言う。

「私の周りでも起こってるかもしれないってことですか?」

 私はマスターを見つめる。

「朱音ちゃんの周りじゃなくても他クラスや他学年で起こってるかもしれないと言うことです」

 マスターは真剣な表情で言う。

「いじめだけじゃなく事故や事件に巻き込まれる可能性は誰にだってあります」


私と加藤さんは無言でマスターの話を聞いた。


「偶然と言う悲劇が一番怖いモノかもしれませんね」

 マスターは空を見上げるようにして言った。


「用心してどうにかなるモノじゃないですものね」

 加藤さんは優しく笑顔で言った。

「そう、ですね」

 マスターの言葉が耳から離れなかった。

「あ、もうこんな時間」

 加藤さんは時計を見ると立ち上がり帰る支度をした。

「主人と子どもがそろそろ帰ってくるのでそろそろ帰りますね」

 早々に走って加藤さんは帰った。

「そうですか。また来てください」

「ありがとうございました」

 マスターと私はそう言って加藤さんを見送った。

 加藤さんが事故に合わないように願って....


「朱音ちゃんもそろそろ休憩にしようか。何か作るよ」

 マスターはそう言ってエプロンをくくり始めた。

「いつもありがとうございます」

 私はカウンター席に座りマスターにお礼を言った。

「いつもバイト頑張ってもらってるお礼だよ」

 マスターは優しい笑顔をして奥に入って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る