第33話 私、そんなに安くない

 何とか扉を開けて進んだと思ったら、さっきまでいた扉が壁ごと粉砕されてた。私は距離を取りつつ、物陰を進んでいった。遠回りかもしれない方向だけど、おっさんロボの相手をしながらよりはいい。途中で追いつかれるのも面倒くさい。

 通路も部屋もないというか、やたら広く作ってあり、あのロボほどじゃないけど大き目の建機やロボットがうろうろしている。私は壁や天井を走ってそれらを避けつつ、適当にミサイルで壁を壊して最短距離で進み続けた。


 ずっと明るかったのに、突然暗い部屋を見つけた。天井が普通の家くらいの高さに低くなり、背後からの光で、奥のほうまでびっしり並んだ円筒形の透明な水槽の列がいくつも見えた。水槽の中には、水中用でも何でもない普通の服を着た人が入っていた。ほとんど女の子で、少し男の子がいた。ある列だけ大人ばっかりだった。大人ばっかりの列以外は、たぶん適合者だと思う。


 司令部との通信向けに、今までよりも少し細かめに室内の様子を話し、どうするか考える。通信のラグは1、2秒だから戦闘中とか絶体絶命でもない限り気にしなくていいのは助かる。

 佐々木先生が、過去の塔の研究やネイさんの残した記述から、水槽を単純に破壊すると入っている人が命を落とす可能性が高いと予想を話した。ネイさんたち人工生命のように、水槽の液体が生命維持になっているかもしれないとのことだった。


 水槽がなくても生きられるようにするには人工呼吸器と点滴のような、代わりをさっとつける、みたいな方法しか浮かばない。でも、ロボの歩く振動やあの男の思念がどんどん近づいてくるのが分かる。

 私は、生命維持を歌で補うと提案し、歌いながら丁寧に水槽の上部だけを破壊し、一人を外に引っ張り上げた。そして、生命維持の歌を歌うように頼み、列に沿って同じように上を開けていく。まず一列分に生命維持を頼み、もう一列分に、隣の人を出すように頼んだ。私は水槽の間を駆け抜け、他の塔の時のように唱石の反応が強くなるほうへ向かった。


 水槽のほうから気を散らすために、私の居場所をアピールするべく、適当な場所を派手に爆発させながら、『塔』の根元らしき場所を見つけた。

 むりやりこじ開けると、『管理者』を見つけた。三人とも小学生くらいだった。水槽の時のように生命維持を補いながら拘束を破壊し、水槽の子たちに任せようと思ったところで、ロボに追いつかれた。ロボに先輩たちが取り付いていたけど、振り落とされて私とロボの間に転がった。


 先輩たちの機装はかなりひび割れていた。素肌の表面的な傷はひどくなさそうだけど、内臓のダメージとか体力とか、持久力が削られてる感じだった。なかなか立ち上がれず、私が『管理者』の子を逃がそうとしたところにロボが回り込んできた。


 『管理者』は洗脳が強くて、水槽の子のように、一時的に歌で催眠をかけるのも無理だった。だから逃げようという意思もないし、移動どころか手足を動かす気がなくてぼーっとしている。盾にするようにロボのほうへ並べてわざと危険そうに見せてもも、ロボを見ることすらせず、視線はずっと自分の前の壁かどこかといった感じだった。


 石の感覚で、後輩たちがこっちに向かってきているのも分かる。水槽の子の催眠も切れてるだろうから、そっちを助けてあげたい。そのためにはロボを引き付ける必要もあるよね。男がなんかしゃべってる数秒の間に考えを巡らせ、出てきた答えは、ロボをここでぶっ倒して、後輩たちが救助した人たちと共に脱出すること。


 動けない先輩たちに、今いる空間に壁を紡いでもらい、ロボを出さないようにしてと頼んだ。それから後輩たちに脱出するよう先生から通信を入れてもらう。


「私があんたが探してる機装唱女だと思うよ。そこまで追っかけてきてくれたんなら、好きなだけ、相手してあげるわ!!」


 映画であるような、手の甲を相手に向けて指をくいっと曲げる挑発ポーズをうろ覚えでやってみる。


「小娘えええええ!!!」


 あんなんで効果抜群。というか効果あり過ぎ。延々と叫んでいるけどどうでもいい。


 先輩たちの攻撃の爪痕をじっと見る。頭部や胸部のような広い場所は多少擦れた跡があるだけで、攻撃が効いてないように見える。足元もカバーで守られていてたぶん同じだ。関節に攻撃を集中させたかったみたいだけど、あいつの動きがウザいしお約束が分かってるのか極力関節部分が露出しないようになってる。あとは、人間でいう肩と胸の間あたりにある、欧米で怒られそうな赤い地に白い円と黒いカギ十字のマークの周囲は攻撃の跡どころか汚れもなくぴっかぴかなのが気になった。


 同じマークはこの施設のあちこちにあった。すくそばの『塔』にも描いてあるし、でっかい旗が天井からいくつか下げてある。私はひらめいた。


 叫び続ける男に「無視しないでくれる?」と声をかけ、私はミサイルのように飛んだ。適当に旗の一枚に近づき、機装ミサイルと煙幕をぶちまけた。

 男は狙い通り飛んできた。というかあのロボが飛べるかどうかは私も自信なかった。飛んできたなら、ダメもとで狙う場所はココだ。


「先輩!!あいつの足の裏!!」

「知ってる!!」


 先輩たちも狙ってたのか、巨大な機装の槍が出来上がっていた。投げずにしっかり握って刺しに行くのがカナデ先輩らしい。もう片方の足の裏には、マモル先輩が剣のようなものを突き刺していた。

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