第31話 私、もう行っちゃいます

 翌日、ロシア東部の、街から離れた小さな施設で、私たちは待たされた。機体の準備自体は、かなり進んでいる。あとは出発時間に合わせて行う作業と出発の時の手順だけらしい。昼間はいいけど、夕方になると強い風が吹いてきた。この状態では建物から出られないとなまった英語で言われて、マモルさんが通訳してくれた。


 暖房を囲み、野菜スープを飲みながら、休憩のスタッフが日本の政府は何をやってるんだと文句を言いだした。ビーツという野菜で真っ赤なスープをすすりながら、私も先輩方も落ち着かなくなっていった。


 翌日。本当なら今朝打ち上げなのだけど、まだ両政府の許可が下りない。施設を出た私は、施設の責任者に話をするため、ロシア語の通訳の人を引っ張っていった。


「私たち。このままいきます。これ以上は、そっちに迷惑かけちゃう。だったら、許可が出たときに次の人を打ち上げたほうがいいと思ったの。」


 責任者さんは、それでいいと言ってくださった。訓練が済んだ奴から載せていくさ、と気さくに返してくれた。



 私と先輩方は、ロケットから離れ、敷地の外(本来は立ち入り禁止区画)に出て、どんどん砂漠の奥へ進んだ。それから、一気に機装を展開し動力をつくる。打ち上げのロケットやしくみの説明を思い出しながら、強く噴き出すイメージを頭の中に描いた。足部分のユニットがどんどん変化して、轟音が吹き出した。


 月の方角を確認して一気に速度を上げていくと、全身のユニットが傘のように円錐形の防具のようになった。もう少し上げたら音速を超えるっぽい。初めての音速超えの時はわかんなくて切り傷と謎の打ち身だらけになったっけ。


 音速を超えて、少し先輩たちと距離が空いたので振り返ると、地球から沢山の機装唱女たちが飛び立ってくるのが見えた。一人早くて、ロケットみたいなユニットはたぶんサユちゃんだ。ロケット詳しいもんね。イメージしやすいんだろう。

 中継衛星のおかげで、地球から離れても力の減衰はほぼない。地球周回だけでなく、月までの間にもいくつか中継衛星がいるのを感じて、嬉しいというか、安心した。

 時折、地球の方向で歌を感じる。飛び立つついでに、あとは地球に残った唱女たちがあのUFOをやっつけているのも頼もしい。


 月までは音速で飛び続けても二週間はかかるって佐久間先生が言ってた。機装を使った最高速度は、記録上は音速の約1.1倍。それ以上は、非公式にネイさんが宇宙へ飛んでいったことがあるとカナデ先輩が教えてくれた。


 二週間なんて、そんなの時間かかり過ぎ。ネイさんが昔言ったことには、理論上は唱石の力が届くスピードの8割までは出せるらしい。それがどれくらいなのかは分からないけど、宇宙ステーションよりは早いと言っていた。やっぱり分かんない。

 私はもっと加速しようとサユちゃんのロケットを真似ようと機装を変化させた。せめて私だけでも、出来るだけ早く着かなきゃ。



 あとで教えてもらったんだけど、このとき、私は本当に国際宇宙ステーションに近いスピードで飛んでいたらしい。そうでないと、月に着いたときのマーカーの計測があわないって。先輩たちは私より数時間後に着いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る