第7話 先生!助けてくださいよぉ

 それから毎日、カナデ先輩はマモルさんが居ないところでは私を攻撃してきた。堂々と正面から歩いてきて突然機装展開したり、背後から襲ってきて研究所の硬い廊下にたたきつけてきたり。少ない日でも一時間に一回はぼこぼこにしてくる。容赦なくぼろぼろにしてくる。

 連休明けにせっかく学校に通えるようになっても、学校の帰りに友達と分かれる道の陰に先輩が隠れていて、私は一人になったとたんに柔道か空手か何かの投げ技で地面に倒される羽目になる。


 研究所だともっと遠慮ない。研究所の人はカナデ先輩の強さを知っているので、偉い人が一度「ほどほどにしようね?」みたいな声をかけた程度で、だれも止めようとしない。止められないからだけどさ。


 マモルさんがいるときは彼女が先輩と私の間に、物理的な間にも立って名前通り守ってくれるのだけど、ずっと一緒というわけにはいかない。しかも、私とマモルさんが訓練とか座学とか検査で二人になると、そのあとが激しい。機装に限界がきて分解するのを初めて見た、と佐久間先生の先輩だとかいう偉い人に感動されてしまった。


「なんとかしてくださいよぉ~」


 本人がいる目の前だけど佐久間先生に泣きついてみた。でも先生が何か答える前に、カナデ先輩が言い放った。


「せめて、『役に立つ』ところまで教える必要はあると思います、先生。」


 先輩何にも教えてないよ! 教えてない! ただ殴ったり蹴ったり投げたり切ったりするだけ!!教えるとは言わない!!あ、受け身は覚えたわ……ってそれだけじゃね?


 結局佐久間先生も、ほどほどにしなさい、しか言わなかった。マモルさんだけだよお、私をかばってくれるのは。


「んもう、気持ちはうれしいけどさ、後輩ちゃんには教えることいっぱいあるんだから、先輩のあんたがそんなじゃあ、後輩ちゃんは戦う前にボロボロになっちゃう」


 座学の時間。学校帰りだから眠い。マモルさんがカナデ先輩をけん制してくれる。もちろんカナデ先輩は私がしんどいことなんか一ミリも感じてないのであった。


「マモルやリョウ先生が甘やかすから、せめて私がしっかりしないと。」


 座学はほぼ機装の力の仕組みと、使うときに気を付ける点。起動のときのように、プログラムになっている決まった歌がいくつかある以外は、好きな歌とかそのとき思いついた歌とか、なんでもいい。適当なメロディで鼻歌をうたっても、私でも弱いメルティなら十分倒せた。まだシミュレーション合わせても三回しか出動してないから弱い奴ちまちま倒してる間に先輩がたや先生が一気に殲滅しちゃうだけ、とも言えなくもない。


 鉱石『唱石(しょうせき)』が歌や声を機装の力に変換する、そのためのプログラムや指令が歌にあたる。

 プログラムにあたる決まった歌、呪文とか祝詞とかそれぞれ勝手に呼んでるやつは、確実に効果を出すし細かい効能も込められるけど、それ以外のことはできない。その場で必要になったからコレ追加、みたいなことはできない。

 逆に、好きな歌や思いついたフレーズを歌うのは、細かいことは言えないけどとにかく今こうしてほしいという思いを反映する。


 細かい仕組みも説明されるけど、専門用語で意味が分からなくなる。とにかくしんどい。夕方だからか眠いし。

 だけど、私たち数人以外には、警察や自衛隊に編成された専用特殊部隊にしかメルティを倒せない。重火器とか大砲とか使うから、場所を封鎖して、終わったらいっぱい後片付けをして、目撃者や被害者がいたら各種ケアと、秘密を守りますっていう契約をする。そしてしばらく、気づかれないように監視がつく。

 あ、私たちの場合も、見られないようなフィールド(ユイさんの謎シールドとか)があるにはあるけど、いつも使えるわけじゃないと教えられた。現場近くにいる人には他言無用!という契約をするし、場合によっては研究所に連れ帰って記憶処置をする。

 私が事故にあった時一緒に乗ってたおじさんたちも記憶処理をしていて、事故にあったけどショックであんまり覚えていないふうになってるし、私も唱石が入ってこなければ記憶処理されてただろうし、その前に重傷で死んでた可能性のほうが高い。


 カナデ先輩みたいに私は戦う訓練とか肉体改造なんか全くしてない。せめて戦い方や機装をもっと上手に使って、巻き込まれる人を減らしたい。でなきゃ、心が何よりもしんどい。




 記憶処理はもちろんないけど、私は常時何人かの関係者に見張られている。私自身が関係者だからか、時折わざとチラ見される位置にいる。居心地は最悪。

 授業中にメルティの出現連絡が入り、教室に見張りの人が入ってきて先生に声をかけた。先生が私を呼び、荷物を置いたまま私は早退した。


 商店街の路地で機装展開しようとして、私は見張りの人の目の前で機装展開しようとして思い出した。

 展開すると、一秒あるかないかだけど、身に着けているものが全部分解されちゃうのだ。成人男性に囲まれて全開はよろしくない。薬局ののぼりの陰に入って展開。あぶないあぶない。


 ちなみに、服は展開を解くと元に戻る。強制解除されちゃった場合は、元に戻るまで数秒かかってしまうのでやっぱり困る。いちおう、分解されないための特殊スーツを下着の上とかに着れば下着で済むと言われたんだけど、下着さらすんじゃ意味ないよね……。スーツ自体を透明じゃなくせばいいのに、と愚痴ったらまだ研究中らしい。

 ついでに。佐久間先生が展開すると、長袖だろうが何だろうが一瞬腕だけ丸見えになるとか。

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