第2話 センセイ、そんなこと言われても!

 目が覚めた日から年明けまで、私は話を聞いた。私が事故にあったそのあと、周辺に変なものが現れて、私は血だらけのまま、何かつぶやきながらそいつらを殴って蹴って、倒した、らしい。

 もちろん、これも覚えてない。


 私が身に着けた人間じゃない仕様。まず、無駄な再生能力。怪我しても見る間にじわじわ治っていって、見た目だけならヒドイやけどでも10秒くらいで元通りを通り越してつやつやお肌になる。

 二つ目は身体能力アップ。オリンピック選手と一緒に走ったり飛んだりできるレベル。もちろん普段は隠すし、世間的には、事故のけがで特殊な薬とか装置つけてるということになってる。珍しい手術するからという名目でしばらく世間から隠れることができるし、学校の勉強も、私の代わりに授業を聞いた状態の家庭教師がわざわざ来て、見てくれる。学力は一ミリも関係ない。


 三つ目は、さっきの変なものをやっつける能力。事故の翌日からこの町のどこかに集団で表れるようになったそいつらは、触った動物を濁った謎の水分に変化させる。

 めんどくさいことに、戦車をやっつけるような大砲でドカン!しないと消えなかったそうだ。だけど、私や、他に実験で石を埋め込んだ人だけは、素手で触ろうが平気で、パンチやキックで倒せる。

 そりゃあね、街中に大砲や戦車並べておくわけにいかないもんね。移動も大変だし。撃ったら町がやばいし。


 というわけで、私は強制的に、その変なもの『メルティ』をやっつける任務を託された。今同じ任務を受けてるのは、私含めて二人。もともと埋め込まれる予定があった人で、事情も分かってるし、戦う訓練も受けている人。私の先輩になる。


 私に衝撃的事実を伝えた担当医兼研究者のセンセイ・佐久間了(さくま りょう)のしゃべり方は時々クセが強くて、嫌になるときもある。それに、先輩である羽鳥奏(はとり かなで)さんは全然打ち解けてくれないどころか、年明け早々、私の能力を確認するための訓練で、本気で私に武器を突き刺してきた。もちろん、痛い。痛みは治りと関係ない。これは三日くらいはずっと痛いだろうなー。


「先生、納得いきません。こんな、何もしらない素人が、相棒だなんて。……私の石を使っているなんてッ!!!」


 カナデ先輩が大きく息を吸い、呪文のようなものを謳った。刺さっていた武器は細い剣の姿をしていたんだけど、刃の形が変化していく。ぐりぐりねじ込まれてるみたいに、変化にあわせてめちゃくちゃ痛い。普通なら気を失いそうなんだけど、これまた鉱石の力でちゃんと意識を保っている。いっそ気絶したい。

 泣き叫ぶ私を放置して、佐久間先生が先輩のように呪文を謳いながらカナデ先輩に向かって行く。左腕が光ったかと思うとグローブのようなものが装着されて、その手で先生が先輩の剣に触れると、大きな音を立てて剣が折れた。折れた先は、床に当たると光になって消えた。


「やめないか!これから指定災害生物は確実に増える。仲間同士で争っている場合か!!」


 若くて細くて迫力ないけど怒りがこもった怒鳴り声。しかし精一杯怒鳴った先生の正面に立つカナデ先輩は平然と言い放った。


「アレは、仲間ではありません」


 解除の呪文をつぶやく声が扉の向こうに消えたころ、やっと私は泣き止んだ。単に泣きつかれて眠っただけともいう。

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