第28話 龍飛王子

「昇勇…太監?そなた、宦官となっていたのですね。道理で見た覚えのある顔だと思いました」

瑞華長公主杏英アンエイは納得のいった顔をした。

「皇太子殿の側近ならばそなたの未来も安泰でしょう。わらわは少し安心しました。そなたの先行きをとても案じていたものだから…」

昇勇は寂しげな目で笑うと瑩珠の頭を撫でた。

龍飛リョウヒお兄様、お座りになって?ここは王府なのだから」

金鈴は昇勇に席を譲った。

「…龍飛…殿下?」

「金鈴、王府ではそう呼んで構わないが王城に戻ったらその名を口にしてはならないからね?」

心得たという風に金鈴は頷いた。

「お兄様は私が入宮する前にお早く出仕なさったものだから…恥ずかしいことにしばらく経つまで全く気づきませんでしたのよ?金鈴、禍根とは怖いものです。没落させられたがために、李氏は照王家の血族を恨み続けている。恨まれるようなことは全くありませんのにね…」

憂いた表情に金鈴は心が苦しくなった。

「それは真か…?」

聞こえるはずのない声に一同振り返った。

「鸞…皇太子…殿下」

昇勇の目がこれまでにないほど見開かれていた。

「昇勇…いや、龍飛従兄上あにうえ…」

「従兄と呼んでいただけるような身分ではありません故お控えください、殿下。私めは…宦官ですから」

宦官という言葉を口にすると同時に昇勇の目から涙が溢れ出した。次から次へと止めどなく。

「お兄様…」

瑩珠が昇勇の涙を手巾で拭っている。

「李氏と念氏の間の確執というのはこのことであろうか?」

「左様にございます。この件に関しましてはお兄様も被害者。私達照王家にとっても到底許せるものではございません…!」

「落ち着くが良い、そなたらしくないぞ。…奏沙のことを好かぬのはきっとこの件があるからであろうとはわかる。しかし、そなたは李の母君とはよしなにしておったよな?」

李の母君こと蓬姫の母、李修媛と瑩珠はとても仲が良かったのだった。

「李の母君様はご実家から勘当されておいでで…李氏の名でおられますがなんら関係はございませんのよ。王族に嫁いだことで破門とされたのですとか…」

「そのようなことがあったのか…よく心に留めておこう。時に、凰琳よ。大事なくば、東宮へ戻ってもらいたいのだが…あぁ、昇勇は照王府にいて構わない。しばしの休暇だ」

瑩珠は首を傾げて返答した。

「承知いたしました、殿下」

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