第6話 末妹之名

帝子達は振り返り、声をあげた。

「修媛様!」

修媛は艶やかに微笑んだ。

「お集まりのところを失礼いたしましたわ、帝子様方。」

修媛様がこちらにいらすとはなんと珍しゅうことでしょう…」

季修媛は九嬪の最下位の妃だが、後華宮の中の女性ではとても身分が高いのだ。

「いえいえ…。季修媛が両殿下にご挨拶申し上げます。帝子様方におかれましてもご機嫌麗しゅう。」

季修媛は跪いた。

黎翔はすぐに立たせた。修媛の隣で立ち上がらずに跪いたままだった少女にも立つように言った。

少子しょうしもお立ち?」

少子とは末子という意味である。この少女は帝子達の中で一番幼い御子なのだ。

「ありがとうございますっ。」

栄貴妃の娘のヨウ王姫、宵怜ショウレイが季修媛に問いかけた。

「修媛様、どうなさいましたの?少子は帝子宮で過ごすにはまだ早うございましょう?」

「えぇ、それはまだ。吾子様の御名顕みなあらわしに参りましたのと、両殿下へ…吾子様も帝子様方の末席に連なっておられます故、拝謁申し上げたいと。」

黎翔と凰琳は喜んだ。

「ありがとう。」「嬉しゅうございますわ。」

「いえ、ふていへいか に いただいたを あにうえさまがた に おつたえしとうございましたのでっ!」

「左様か…そなたも三歳だものな。この兄様にそなたの名を教えておくれ?」

「えっと…ホ…ホウと もうします。ホウキと およびください。」

九嬪第一位のチャン昭儀の息子であるリョウ君子、響牙キョウガが呟いた。

「ホウ…?」

蓬姫ホウキ様ですわ。」

黎翔は身を乗りだし、蓬姫の頭を撫でた。

「蓬莱の蓬か。父上は皆に良き名をくださる。あと2年もすれば真名をくださるだろう。」

「蓬姫様、よしなに。」

「はいっ」

季修媛は怪訝な顔をした。

「恐れながら、凰琳様…。妃嬪への敬称は黙認されておりますが…。」

黎翔が気づいて言葉を続けた。低位の者から高位の者へ間違いなどを指摘するのは無礼であるというものがあるからだ。皇帝の妃嬪である修媛という身分にあっても、次代の皇帝の正妃たる皇太子妃はその上の存在なのである。

「左様でありますね。凰琳、そなたは帝子達より遥か上位。なれば、名は呼び捨てにせねばな?それに、そなたは瑞王公主なのだから。」

「では…蓬姫?」

「ありがたきしあわせっ!」

その後もしばらく歓談していたが、外朝である鳳城ホウジョウの鐘の音を聞き、黎翔は凰琳を連れて東宮へと帰った。

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