code-6-2:晩餐

 キッチンの扉を開けると、芳醇な香りが鼻をくすぐる。目の前のテーブルにはサラが山で捕ったであろう動物の肉を使ったものや山盛りのサラダなどの料理がところ狭しと並んでいる。

「ほら、これ全部ダイニングまで運ぶよ」

 確かにこの量をクロンとメディの二人で運ぶのはかなり大変だ。クルセイドとサラはいくつか皿を持ちダイニングまで運んだ。クロンとメディがその後に続く。皿を運び終えると全員が席に着いた。メディの前にのみ料理ではなく、ジュースの紙パックのようなものが置かれている。旧型アンドロイド用のエネルギーパックだ。

「よし、準備完了!さっそく食べ…」

「まあ待ちな、今日はをやるよ」

「えー、あれ長いじゃん」

「つべこべ言わないんだよ!ほら、手合わせて」

 クロンとサラが両手を組んでうつむき、メディも少しむくれながらもそれに合わせる。なんだかよくわからないがやった方がいいのかと思い見よう見まねで動きを合わせる。

 すると、クロンが何かぶつぶつと言い始めた。何を言ってるのかはわからない。小さくて聞き取れないとかではなく、そもそも意味を理解できないのだ。だがそれを聞いていると、不思議と懐かしさを感じた。かつての記憶の断片なのかもしれないが、残念ながら答えは出ない。

「…よし、顔を上げな」

 1分はたっただろうか。ようやく理解できる言語が聞こえたため顔を上げる。

「クロン、今のって…」

「昔とある国で使われてた言語だよ。若いときに世界中旅をしたことがあってね、その時になんかの遺跡で見つけたやつなんだ。意味は平穏への感謝だとか生きる歓びだとからしいけど、まあクサい決まり文句さ。ただどうしても頭から離れなくてね、特別なことがあるといつも唱えてるんだ」

 意外とそういうの気にするんだなこの人、などと失礼なことを言いそうになったがすんでのところで飲み込む。

 平穏への感謝、生きる歓び、確かによくある文言だが、クロンがそれを言うとどこか説得力のようなものがある。

「いつまで話してるのよ、料理が冷めるじゃない」

「おっと、それもそうだね。じゃあ早速いただこうか」

 全員が料理に手を伸ばす。香ばしいバターの香り、はじける肉汁の味、まさかこの体でも感じることができるとは思ってもいなかった。戦いの後であるためか、それが尚更体に染み渡る。

 戦い…そう、自分はもはやただの人間ではなく、戦いに身を投じた未熟な戦士なのだ。これさえも、もはや当たり前ではなくなるかもしれない。クルセイドはそう思うと、先ほどの言葉が身に染みて実感できた。もう平穏も生存も、約束されたものではなくなった。だけど今だけはそれを忘れ、この心地よい喧騒に身を預けることにした。

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クルセイド━名も無き復讐者━ 池永五月 @satukintoki

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