炎上マーケティングの始まりその2

 午前10時50分、谷塚駅に到着した人物がいた。

それは、以外にもアイオワである。私服姿なのはインナースーツを持参しなかった事が理由の一つ。

それに加えて、別件の用事もあった為かアスリート思わせるようなジャージを着用していた。

この姿でいると、周囲の反応はインナースーツの時とは大きく異なる。

何故かと言うと、アガートラームを使用して乱入した際の出来事が脳裏に焼き付いている為と言うのが有力だろう。

「なるほどね――」

 電車を降りた後、ARゲームのセンターモニターを発見し、それを見ていたのだが――相手プレイヤーの動きに違和感を感じていた。

その機動力は、どう考えても通常の3倍と言うレベルではない。下手をすれば、スピードにプレイヤーの方が耐えられないほどだ。

アイオワに関してはデカリボンの人物をチェックする事はなかった。とある疑惑がネット上に拡散していた、有名コスプレイヤーらしいが――。

「あの速度を再現できるようなARガジェットは存在しない。それに、時速50キロクラスのスピードは、レースゲームでも安全上の理由で出せないと言うのに」

 アイオワの指摘に対し、周囲のギャラリーもざわつき始める。偶然通りかかった通行人もざわついていたので、それほどの衝撃があるのだろうか?

何か悪い事を言ってしまったのか――と考えたが、そうではないらしい。正論だと判断しているユーザーが多いようだ。

「確かに、パワードミュージックの最大速度は20キロと聞く。それを踏まえれば、50キロと言う速度はプレイヤーが耐えられるはずもない!」

「インナースーツやアーマーの耐久力は――」

「それは、どう考えてもおかしい。戦艦並の装甲と言うのは――架空設定の話じゃないのか?」

 モブの会話は、どう考えても架空設定と現実設定が混ざってしまい、メタ発言と化してしまっている印象だ。

それをアイオワがまともに受け入れるとは考えられず、途中でその場を去ってしまう。

モブの方もアイオワが去った事には気づいていないようだ。それに加え、アイオワが最初からいなかったかのように感じる人間もいるほどである。

【あの動画――何かがおかしい】

【あのスピードを出せるようなARガジェットは現段階でも開発されておらず、ロケテストも行われていないという話だ】

【まさか、チートなのか?】

【さすがにチートでも、時速50キロとか100キロのスピードを出せるシステムはないだろう】

【それが自動運転自動車にでも搭載されたら、一歩間違えると大事故につながる】

 つぶやきサイトでも、あの動画に関するつぶやきが拡散しており、大方の予想ではチートと言う事らしい。

実際、あれだけの速度が出せるシステムが実装された場合、大事故に繋がると言う話もある。

「あれだけのスピードが出せるガジェットが小型化すれば、スポーツ競技大会等で新記録ラッシュとなるだろう」

 提督服の男性ガーディアンの一人がつぶやくのだが、その発言に反応する気配はない。

おそらく、動画の方に集中していて気づかないと言う可能性が高いだろう。



 午前10時55分、アンテナショップに到着した西雲響(にしぐも・ひびき)が直面した物、それは――。

『何だ、このゲームは? これがリズムゲームなのか』

 西雲が入って早々に見えたのは、軽装アーマーを装着し、サポートメカと思わしき小型ロボットを使用しているプレイヤーの姿である。

衣装の形状や体格からして女性プレイヤーだろう。西雲は彼女の体格を見て、自分の目を疑った。

『小柄の女性でも、あれだけの動きが出来るのか? まるで、ARサバゲの上級者並だ』

 サポートメカで的確に白いプレートを撃ち抜き、ARバイザーに出てくる方向マークの指示に従って動く姿は、ARサバゲにおける上級者プレイヤーに匹敵すると――。

その他にも、ARサバゲやARFPSで有力プレイヤーがかすむようなスーパープレイを披露する人物もいる。

本当にリズムゲームなのか――と西雲は疑う。その疑い方は相当なものであり、まるでリズムゲームを色眼鏡で見ているようでもあった。

『同じARゲームのプレイヤーとは到底思えない』

 他のプレイヤーを見ると、大男の様な体格の人物やプロレスラーを思わせるような人物もいる。

体格等はゲームをプレイする際には関係ないのだが、ARゲームではそうも言ってられない。

実際、ジャンルによっては体格によっては不利な状況になるとも言われているからだ。

ソースはネット上ではなく、ARゲームのアンテナショップだが。

「ゲームのエントリーですか?」

 受付に到着した西雲は、受付のスタッフに声をかける。すると、この反応が返ってきたのだ。

しかし、西雲はゲームのアカウントも持っていないので事情を説明し、アカウントの取得方法を尋ねる。



 午前11時5分、アカウント習得に手間取った西雲はレースのエントリーにも遅れていた。

【エントリー受付を確認しました。午前11時20分のラウンドでプレイ可能です――】

 ARバイザーにはエントリー受付のメッセージと共にプレイ可能の時間が表示されていた。

プレイ可能になるのは午前11時20分、フィールドは3と指定されているのだが――フィールドの場所を西雲は把握できていない。

「お客様、パワードミュージックは持ち込みのガジェットではプレイできません。こちらを使用して――」

 フィールドの場所を表示している案内所へ向かおうとした西雲に呼びかけたのは、先ほどの受付スタッフである。

どうやら、手持ちのARガジェットでは使用不可能らしい。手持ちのガジェットと言うと、別のARゲームで使用している物だろう。

『特にチート疑惑のあるガジェットではない。それでも、専用ガジェットが必要なのか?』

「パワードミュージックの場合、他機種のARガジェットでは使用できない場合もありまして――」

『その為の専用ガジェットと言う事か』

「そう理解していただければ――と。ここではレンタルも可能ですので、今回のプレイだけはレンタル、次回以降は新規で購入もできます」

 今のタイミングでじっくりガジェットを選んでいる時間もないので、今回だけはレンタルスペースへと向かい、そこでロングソードタイプの物をレンタルする。

その形状は通常の武器格闘で使用するような物ではなく、リズムゲームのコントローラを思わせるデザインをしている。

おそらく、これが他機種のガジェットが使用不可能と言う理由かもしれない。

リズムゲームでは、専用コントローラが多いという話も聞く。どんなゲームでも、慣れる事は必要なのだが――。



 午前11時10分、谷塚駅から姿を見せたのは、先ほどまで竹ノ塚にいた大和朱音(やまと・あかね)である。

「周囲が慌ただしいのは――」

 大和は電車から駅に降りた際、何かの違和感を持っていた。

それは、何かの襲撃者に狙われているのではないか――と思わせるようなオーラが漂っていた事。

それに付け加えて、ネット炎上させてアフィリエイト稼ぎでも考えている炎上サイトの管理人もいるような気配さえある。

しかし、実際には襲撃者やネット炎上とは無関係である事は、アンテナショップへ向かっている途中で判明する事になるのだが――。

それでも大和は一連の襲撃者事件の一件もあり、警戒を解除するような事はなかったと言う。

【危険なチート技術が流通している可能性があるらしい】

【これがARゲームで拡散すれば――】

【ARゲームが、さすがにスポーツの世界大会で採用される可能性はないと思うが――】

 大和はタブレット端末でつぶやきサイトのタイムラインを見ていたが、その際は立ち止っている状態でチェックしている。

歩きスマホ等が様々な分野で問題視され、ARゲームではゲームフィールド外でのARガジェットのシステムフル使用を禁止していた。

フル使用とは、ARゲームフィールドでゲームをプレイしているのと同じ状態を差す。

それがどのような仕様なのかは――運営側も把握していないらしい。

なお、これが分かっている人物はごく少数だが、大和さえも詳細を掴んでいないようにも――。

「アカシックレコードは万能ではない。それは分かっている。だが――」

 大和は眉間を手で抑えながら考える。

様々なコンテンツが超有名アイドルのかませ犬である――というアフィリエイトまとめに誘導するメッセージも見かけたが、大和は見向きもしなかった。

それ程に、今回の一件はこれから起こるであろう大きな事件の前触れに過ぎないと――そう大和は思っていたのである。

「企業機密や守秘義務さえもネタバレという言葉に言い換え、更にはそれを拡散してネット炎上を行う勢力は許す訳にはいかない。しかし――」

 大和は、今回のネタバレを巡るネット炎上が過去の戦国時代に匹敵するような大きな戦になると一時的には考えていた。

しかし、そうしたネット上の混乱を起こす事が敵勢力の狙いだとしたら?

ネタバレの解禁と共に企業機密などを入手し、それを特許申請して横取りを狙う転売屋等だったら――。

様々な思いはありつつも、大和は本来向かうはずだったARゲーム運営へは向かわず、パワードミュージックのアンテナショップへと向かう事にする。

「ARゲームを巡るネット炎上を警戒し、ライバル登録が可能なゲームでも特に友人関係であるような間柄でない限りは、相互ライバル登録はしないという」

 大和はARゲームで単独プレイをするプレイヤーが多い事に関して、ある懸念を持っていた。

対戦格闘などでもライバルと言う存在は、自分を強化する為にもプラスになると言う話を聞いている。それはARゲームでも変わりないはずだ。

それなのに――ARゲームではお互いのプレイヤーが情報交換をするようなケースは聞かない。ARFPSのようなジャンルであれば、クランを組む事もあるのだが――。

「ARゲームはぼっち専門ゲームと言う訳でもないはずなのに――」

 大和はため息をつき、何か哀しそうな目でARゲームを観戦していたという。

しかし、アンテナショップへ向かうと言う目的もある為、そちらを優先するのだが。



 午前11時30分、ARゲームの観戦を目的としたレストランで食事をしていたのはビスマルクである。

早い昼食と言う訳ではないが、コンビニ弁当ばかりでも――と言う事らしい。なお、料理は出来ない訳ではないのだが――。

テーブルに並んでいるのは、ハンバーグライス、コーヒー、中華サラダのランチメニューである。ハンバーグにはパスタが添えられているのだが。

「特に大きな動きもなければ、このままお昼を――」

 ビスマルクが手慣れたフォーク捌きでパスタを食べようとした、その矢先である。

パワードミュージックのフィールドに突如として現れたのは西雲響(にしぐも・ひびき)だった。

これにはビスマルクもパスタを一口食べてから、フォークを置いてモニターに集中する。

「まさか、西雲響が参加しているとは。一体、何があったのか」

 西雲はパワードミュージックの参戦候補コピペスレ等には名前が出ていない、いわばブラックホース扱い。

他にもブラックホースと呼ばれる人物もいるのだが、その中でも西雲は『あり得ない』と否定される程だった。

それが、どういう理由で参加表明をしたのか――ビスマルクはそうした事情も気になりつつ、レースを観戦する事に。

「既に1曲目は食事をしている時に終わって――!?」

 ビスマルクはリザルトのスコアを見て、ワンサイドマッチとまではいかないが――高い割合で初心者狩りとも指摘されそうなスコア差に言葉が出なかった。

そのスコア差は100万点ルールで設定されていたのだが、1位が97万、2位が89万に対し、西雲のスコアは68万点である。

クリアギリギリのラインと思われたが、勲章ボーナスを加算しても70万点には届かずに演奏失敗表示だった。

しかし、1位のプレイヤーがクリアノルマを突破している為、セーフとして西雲は救済処置を受けたのである。

「あの動きは、リズムゲームに慣れていないのか?」

 ビスマルクが思ったのは、西雲がリズムゲームに慣れていない事による動作――。

動きも素早い動作とも言い難く、他のARゲームでも実力がある人物の物とは到底思えなかったのである。



 同刻、アンテナショップの指定フィールドでプレイしている西雲は、既に2曲目のプレイに移ろうとしている。

1曲目はチュートリアルをプレイしたにもかかわらず、結果としては玉砕と言う展開になった。

1曲目は失敗しても2曲目へ移行できるのは、西雲にとっても救済処置と言ってもいい。リズムゲームによっては、3曲保障という作品もあるのだが。

それでも、スコアの差を踏まえると――このラウンドで1曲目のスコア以上が求められる。

しかし、プレイ回数的にもパワードミュージックのシステムを理解していない為か、どうやってスコアを上げられるかも分からずにいた。

「油断――?」

 西雲はボイスチェンジャーが不具合を起こしたような挙動に対し、途中で言葉を詰まらせる。

下手にしゃべれば自分の正体を晒す事になったのだが――あの爆音では周囲に小声は聞こえていないだろう。

『システムが、想定外のシャットダウンを起こしたと言うのか――』

 アプリのたち上げ過ぎでフリーズした訳ではないのだが、ボイスチェンジャーは物理的なシステムではなく、ARバイザーのオプションアプリである。

物理型のボイスチェンジャーもあるにはあるのだが――ARゲームでは一部ジャンル以外の持ち込みを認められていない。

ARガジェットの誤動作を招くと言うのが持ち込み禁止の理由だが、実際には違う可能性も西雲は考えていた。

『2曲目も相手の指定曲――自分の指定した曲は最後の3曲目か』

 楽曲の順番は仕方がないのだが、1曲目がいきなりの難易度7、2曲目も難易度9と貧乏くじを引かされた格好だ。

それに加えて西雲はリズムゲーム初心者とも言える状態の為、場数と言う意味では明らかに不利なのは間違いない。

【あのソード使い、初めてのプレイヤーか?】

【初心者プレイヤーに対し、高難易度曲をぶつけるとは――彼を計算に入れていないのか】

【違うな。計算に入れていると思うが、向こうは自分のスコアを詰める事だけで精いっぱいなのだろう】

【それだったら、他のリズムゲームみたいにそれぞれのプレイヤーが難易度別に設定できないのか?】

【それがパワードミュージックで可能だったら、逆に――】

 ネット上でも、西雲に対しては不利と言うつぶやきが多い。マッチングした相手が強すぎるという意見もあるのだが、プレイ回数は10回以下――。

つまり、西雲がマッチングしたプレイヤーは高難易度譜面しかプレイしないプレイヤーであるという事である。

リズムゲームの場合は、こうしたマッチングに遭遇する事も存在し、この辺りがプレイヤーの腕でマッチングの変わるジャンルとは異なる部分だろう。



 午前11時45分、ニュース番組の方ではあるニュースが報道されたのだが――その内容は非常に分かりづらい物だった。

『速報です。地下アイドルグループのファンが突如として刃物を持って暴れ出し、それを警察が銃撃するという騒ぎがありました――』

『事件があった場所は東京都足立区にある芸能事務所で――』

 地下アイドルグループのファンが暴走、その一人が刃物を持って暴れる――ここまでは不可解と言う訳ではない。

過去には類似した事件もあった為、芸能事務所側も神経を使う様な状態になっているという話も聞く。

それ以前に運営の不手際でアイドルグループが消滅する事例もあり、それに対しての暴動も報告されている。

【有名地下アイドルグループの運営が刃物男に占拠! 犯人は別アイドルグループのファンであり、ライバルを物理で消そうとした説も?】

 しかし、問題はその後だ。ネット上に出回っている同じ事件を扱っているであろう記事の見出しは、ニュースの報道とかけ離れたものばかりになっている。

しかも、警察が警告なしに銃撃と言うあり得ない話まで付け加えられており、ニュースの真実さえも捻じ曲げている格好だ。

「馬鹿な――聖地巡礼のエリアに風評被害を与えるような事を、誰がやったというのか?」

 アンテナショップへ立ち寄る途中、スーパーで2割引きシールの貼られたのり弁当を買い物かごに入れていた大和朱音(やまと・あかね)――。

彼女の声が周囲の客に聞こえている訳ではないが、大声で騒ぐのは買い物客に迷惑がかかるだろう。

それを踏まえて、ARバイザーのSNSはオフにしていた。しかし、ニュースが流れていたのはスーパーの食事スペースに置かれているセンターモニターである。

まさか、ここにもARゲーム用のモニターがあるとは――草加市があなどれないのか、それとも設置義務と言う物があるのか。

「とにかく、昼食後に向かわなければ――」

 駆け足にならなければ――という気持ちを抑えつつ、大和はレジを通る。

レジの方は無人と言う訳ではないが、男性のバイトは手持ちの機械でバーコードを読み取って行く。

「1000円になります」

 弁当以外にもお菓子やペットボトル飲料も買った為、予算は若干オーバー気味。

その後、大和はARガジェットからスマホ位の大きさの小型端末を分離させる。

「代金は、こちらで」

 どうやら、大和がバイトの男性に見せたのは電子マネーのようだ。

この端末は他にも様々な機能を持っており、ARガジェットの財布の役割を持っていると言ってもいい。

「弁当は直接アンテナショップへ到着してからか――」

 店を出てからは、若干の早歩きでアンテナショップへと向かった。

丁度、このスーパーからは数分ほどで到着するような距離である。

懸念が現実にならなければ――と大和は考えているが、ニュースでも報道されている以上は最悪のケースに備えないといけないとも考えていた。

大和としては今回のニュースが大規模に報道される事で、ARゲーム離れが起きる事の方を懸念している。

一度、このような事件で風評被害が拡散すると、それを修復するのに莫大な時間がかかる場合もあるからだ。

風評被害やネット炎上を受け、信頼の回復等よりもサービス終了の方が早いと判断したソーシャルゲームも数多くある。

そうした悲劇を繰り返す事はコンテンツ流通が、一部の芸能事務所のアイドルだけしか売れないという認識を海外にも拡散する事につながるだろう。



 午前12時、各局がお昼のニュースを放送する時間だが、地方局ととあるテレビ局だけは足並みをそろえていない。

その理由として、視聴率とは別に大人の事情と言う物があるらしいが……。

『こちらにはこちらのやり方がある。視聴率や一部の特定アイドル投資家のご機嫌伺いだけで放送する訳ではない』

 あのテレビ局はニュースで同じ内容の物が放送された際に、こう言及した。その時に放送していたのは、旅番組だったという。

『台風や地震等の緊急性がなく、放送は後回しにしてもかまわないと判断した』

 こちらは地方局。ケーブルテレビでも特別番組を組む程の物ではないと言うのが統一見解らしい。

ARゲームに関しては特殊な事情もあるので、専門チャンネルが特集を組むだろうと判断しているかもしれないが。

『午前の東京株式市場にて、不正なインサイダー取引が確認されました』

 国営のニュースでは、これだけである。犯人が逮捕された件などは報道されたが、その具体的な内容は言及されていない。

その他の民放では話が違ってくる。中には特定芸能事務所の名前を出している番組もあった位だ。

芸能事務所の名前に関しては秘密と言う指示は出ておらず、そのまま放送したとの事だが――。

【これは、どう考えても大手芸能事務所の新人つぶしだ】

【これはひどい】

【ここまでの事が認められるとでも思っているのか――あの芸能事務所は】

【あの芸能事務所は、自分達が地球上の全能の神にでもなったつもりでいる。だからこそ――】

【まるで――】

 あるつぶやきに関しては記述が削除されているような気配だったが、単純に削除されたように偽装されたサクラだった。

つまり、この件を炎上させ、自分のアフィリエイト系まとめサイトへ誘導して金を稼ごうと言う勢力がいる証拠である。

この辺りは、もはやテンプレ過ぎてガーディアンの方も手の内が分かり過ぎている為、対応の方も手際が良すぎる気配さえ感じていた。

【炎上マーケティングの黒幕の正体は――】

 子のつぶやきに関しては、ネタバレと言う名の情報規制がされていた。

その影響もあり、未だに犯人は捕まっている状況だが――事件が解決するような気配を見せていない。

ARゲームの運営対応が神対応とは呼ばれていないが、ここまで炎上を適切に処理できるのには別の理由があるのではないか――という疑いもネットで聞かれる。

一体、この的確な行動を起こせるパイプラインは何処にあるのか?



 同刻、アンテナショップに到着したのは大和朱音(やまと・あかね)だった。

彼女の目的はこのアンテナショップへ向かう事に変更されている。その理由は――。

「既に――帰った後か」

 大和が周囲を見回すのだが、西雲響(にしぐも・ひびき)らしき人影はなかった。どうやら、一足遅かったらしい。

それに加えて、周囲が微妙に騒がしいような雰囲気だったが――大和には興味のないような話題だったのでスルーをしている。

大和の行動を考えれば、周囲が騒がしい理由も把握できるだろう。おそらく、騒がしいエリアでは超有名アイドルの投資家がいたのかもしれない。

「仕方がない――ここで弁当を食べていくか」

 買い物袋から、先ほどのスーパーで購入したのり弁当を取り出し、フォークで食べ始める。

なお、フォークに関しては自分の持っている物であり、特にスーパーでもらった物ではない。

割り箸を入れてもらわなかったという訳ではなく、エコ的な意味で割り箸を断ったような気配である。



 午前12時5分、ネット上でも不正な株取引のニュースが注目され始めた頃、大和はある動画の存在を知った。

それは、島風がプレイしていた時の動画なのだが――。

「あのプレイヤーは――?」

 3倍以上の速度で動くプレイヤー、どう考えてもARアーマーの限界を超えるような――。

一部のプレイヤーがこの事例を指摘していた一方で、大規模な違法チート集団の存在もネット上で示唆されていた。

島風の動画は1回目のプレイと2回目のプレイの物が出回っており、2回目のプレイでは新人プレイヤーに敗北している。

彼女のプレイ回数も2回と言う事で大差はないように見えるのだが――相手のプレイヤーは文字通りの初回プレイだ。

なのに、この新人プレイヤーと思わしき男性は想像を絶する力を披露する。

「この挙動――あり得ない!」

 口を押さえ、大和は目の前の光景を最初は否定したかった。

使用しているチートの類が、どう考えても常識外れだったからである。このガジェットは何処で出回っているのか? 詳細は情報不足で掴めていないだろう。

その威力は、目の前に出現したノーツを瞬時に消滅させ、適当に剣を振り回しているのにタイミングはパーフェクト判定、クリア時のスコアは理論値――。

これだけのWeb小説のチート主人公を思わせるようなあからさま過ぎる物を見たのは――初めてではないが、パワードミュージックでは初めて見る。

「ここまでの分かりやすいチートを使っている以上は――」

 大和は島風が対戦したプレイヤーのアカウントを確認しようとした。

しかし、アカウントがゲストアカウント扱いで名前の表示はバグが影響して識別不能。打つ手なしとも言える状態である。

しかし、ある挙動がきっかけで大和は今回のチートが何処から出てきたのか――あっさりと思いだす事になった。

「そう言う事か。過去にチート識別プログラムをすり抜けたガジェット――あれに由来すると言う事か」

 そして、全ての謎が解けた大和は――改めてのり弁当を食べ始めた。

その犯人は同一人物と言うわけはないはずだが、明らかにあるWeb小説を参考にしたような能力だった事。

その小説に関して数日前にチェックしていた事があっさりと思いだしたきっかけでもある。



 午前12時20分、不正な株取引のニュースを見て陽動作戦と考えていた人物がいる。

それは、大和のいるアンテナショップとは別の場所でエントリー受付をしていたアイオワだった。

「アーマーはあの時の物がそのまま使えるとして――」

 アイオワは、以前のレースで使用していたガジェットをそのまま保管しており、それを今回のレースでも使おうと考えていた。

特に違反しているアプリやパーツもない為、そのまま使える事になっているが――気分の問題もあって、一部パーツに関しては変更する事に。

ARスーツはそのままに、メットにはインストールされていないアプリをいくつかダウンロードし、前回の時とは違ったスペックで挑む事になった。

「データの方は完全仕切り直し――と言うべきか。あの時はゲストに近い状態だったし」

 ARアーマーのデザインは以前とは異なり、ミリタリー調を思わせるテイストに変更されていた。

ただし、ARメットはそのままなので――ギャップが激しいのだが。

「アーマーを初回プレイ時と同じにしなくてはいけないというルールはない。カスタマイズは自由――」

 そして、前回も使用したナックル型ARガジェットを装備し、仕切り直しのデビューレースを始める事にした。

その一方で、アイオワの姿を目撃した人物がいた。順番待ちをしていた比叡(ひえい)アスカである。

「あの人物は、確か――」

 アイオワの姿を見て、ふと見覚えがありそうな――と思った比叡だが、アーマーデザインが違う事もあって、他人の空似と言う事で流す。

しかし、ARガジェットが同じと言う事もあり、もしかして――という思いはあった。

特徴的なアガートラームを装備していなかった事も、他人の空似と思わせる原因だったかもしれない。



 午前12時30分、午後の株式市場がスタートし、午前中に上場した芸能事務所の株が急上昇していた。

まるで、超高速株式取引を思わせる展開だが――1株500円スタートが、まさかの10万円である。

その後はアイドル投資家と思わしき人物が大量に売却し、大きく下落する事になったが――そのスピードは、どう考えてもインサイダー取引と言えなくもない。

【午前中の動きもおかしかったが、午後もおかしい】

【一体、何がどうなってる?】

【1株500円スタートのはずが、午前中の終値は1万――】

【今は10万円でストップらしい。何者かの相場誘導があったらしい】

【さっきのニュースか】

【そうなるが、報道していた株式とは違う物も含まれているようだ】

【どういう事だ?】

【おそらく、コンテンツ流通妨害でも企んでいるのだろう】

【やっぱり、フジョシや夢小説勢が絡んでいたのか?】

【そうレッテルを貼るのは不適切だ】

【しかし、アイドル投資家勢力はARゲームからは引き上げているという話を聞く。考えられる勢力は自然と絞られる】

 つぶやきサイト上では、今回の株式市場の市場操作にはフジョシ勢力が絡んでいると言及する者が多い。

フジョシの正体は――ここではネタバレとなる為、言及は不可能だろう。

第4の壁の先にある世界にありもしないような不当評価をするのも適切ではない。

その為、ここでは正体は言及を避ける。そうでもなければ――日本政府は超有名アイドルファン以外を切り捨てる政策を――。

「これも所詮は、アカシックレコードに書かれているWEB小説を再現しようとしているに過ぎない」

 一連の株式操作を切り捨てた人物、それは別エリアにいた大和朱音(やまと・あかね)だった。

お昼も食べ終わって、一息入れている可能性もあるが――そんな時に入って来たのが、株式操作の一件だったのである。



 午前12時35分、昼食を終えたビスマルクがアンテナショップへと向かった。

「株式操作か――まとめサイトが別の事件から目を逸らす為の口実だろう」

 ビスマルクはアンテナショップの入り口に置かれているモニターを見ても、本物のニュースとは信じていなかったのである。

その理由は、超有名アイドルファンの起こした超有名アイドル事変と呼ばれる事件もだが――別の理由もあるのかもしれない。

「自分達が都合のよい事案をでっちあげ、一部勢力をこの世界から完全に消滅――更には、自分達が第4の壁を超えた世界でも認知され、そこで賢者の石とも言うべき存在を生み出す――」

 ビスマルクの皮肉交じりの発言――それは、超有名アイドル商法を初めとした事件が実はある人物による印象操作の為に――と言う可能性の話。

しかし、一部の事件に関してはニュースサイトが炎上マーケティング目的にサクラを使用して起こした物である――そう認識されていた。

それ以上にビスマルクには思う所もあるだろうが。

「確か、ネット上にはこうしたでっち上げの事件を利用した炎上マーケティングの方法が――」

 ビスマルクがスマホのブラウザで調べようとしたのだが――。

【データエラー】

 真っ白な画面にエラー表示ではなく、検索窓に『超有名アイドル商法 でっち上げ 犯人』と入力した結果だった。

検索が0件であれば特にビスマルクも疑問には持たないが、データエラーに関しては話が別である。

「こちらを使うしかない――?」

 次にビスマルクが使用したのはARガジェットである。検索窓には先ほどと同じワードを入れるのだが――。

【該当する検索ワードでは記事を検索できません。お手数ですが、ワードの変更をお願いします】

 まさかのメッセージが表示され、ますます怪しいと感じていた。

しかし、ARメットの検索機能は特定ワードを検索不能とし、更にはエラーメッセージだけではなく警告音も実装されている。

そんな事をすればどうなるのか――想像をしなくても分かるだろう。

「どちらを使用しても同じならば、ここは違う方法を使うか。たとえば――」

 最後に奥の手としてビスマルクが使用するのは、アカシックレコードを取り扱うサイトである。

しかし、こちらの方は権限なしとしてアクセス拒否。やはり、スタッフ権限がなければ無理なのだろうか?



 同刻、アンテナショップで調べ物をしていたのは比叡(ひえい)アスカである。

ネット上のタイムラインでも流れてくる単語が気になったらしい。あれだけ露骨にワードが出てくれば、誰でも気づく可能性は高いのだが。

「アカシックレコード――確か、超有名アイドル事変や古代ARゲームにも関係があると言う話が――」

 しかし、比叡が検索してもろくな情報は出ない。

仮に出たとしても、アフィリエイト系まとめサイトへの誘導リンク、違法なアプリのダウンロードがスタートするリンクと言うのもある。

「明石のような人物でないとアカシックレコードへのアクセスは不可能なのか?」

 ネット上でも神として噂になっている明石と言うアカウント、この人物ならばアカシックレコードへのアクセスが可能だろうと考えている。

しかし、それ程の人物がARゲームに姿を見せるのか? しかも、パワードミュージックと言うフィールドに。

「しかし、アクセス可能な人間が明石だけとは限らない。むしろ、他の人間もアクセス出来る可能性があるのでは――」

 アカシックレコードが神のごとき力、それこそご都合主義の象徴、デウス・エクス・マキナとも言われる程の力を持つ――と言うのはネット上の話だ。

アカシックレコードの様な存在であったとしても、それを見た所で未来を変える事は難しい。

あくまでも、予防対策を取れる可能性がある――と言うレベルの場合も否定は出来ないだろう。



 午前12時50分、ネット上に拡散したとある動画は――『ある勢力』がARゲームを妨害しようとしているという決定打となった。

投稿した人物が誰なのかは、この際どうでもよかったというのが動画の内容を見れば誰の目から見ても明らかである。

「やっぱり、そう言う事か――」

 動画を店内で見ていたのはビスマルクだった。テーブルの上にはドリンクバーの特殊材質のタンブラーが置かれている。

このタンブラーはホットドリンクを入れても、テーブルから地面に落した位では割れる事もない。

それは例えの話ではあるが、耐久性は非常に高い物と言えるだろう。

実際、これを別のアンテナショップで購入する観光客もいる位だ。海外からの観光客には高い耐久性が喜ばれているのかもしれない。

「この動画を投稿した人物は、内部告発でもしようと言うのだろうか――」

 普通、ファミレス等では長い時間居座る行為に関して、良い目を見られない事が多いのだが――ここは、そう言った場所とは明らかに違う。

しかし、ここはARゲームを観戦する為の施設である為、基本的にARゲームの観戦目的であれば常識の範囲内で店内にいる事は問題視されていない。

この辺りはARゲームを町おこしで行おうと言う草加市の意向もあるのかもしれない。

「あの人物が何者かは知らないが――あの赤いプレイヤーは明らかにチートを使っている」

 ビスマルクが注目していたのは、赤いアーマーのチートプレイヤーである。

なお、この動画にはアイオワの姿もあるのだが、アーマーのデザインも変更されている為、ビスマルクは名前を見るまでは気づかなかった。



 午前12時51分、例の動画を見ていたのはビスマルクだけではなく――ARゲームガーディアンが総動員に近い状態で出動する事になった。

その理由はチートプレイヤーが通報された事なのだが――その規模は尋常ではない。動画を見た人物の通報でガーディアンが出動した訳だが――。

そして、追い詰められた犯人はARFPSのフィールドを展開する事になるのだが、それがテレビで報道される事はなかった。

ARゲームフィールドは、違法動画のアップ等を防止する観点からジャミングが強化されており、特定のアプリやシステムを実装している物ではないと撮影も不可能である。

一方で、ARゲームフィールド内部ではギャラリーから怪我人が出ないように特殊なシステムが実装されているが――詳細は不明だ。

こうしたシステムを、ネット上では『ご都合主義』等と呼称しているのだが――『ご都合主義』は超有名アイドルの方であるという事で、今は『ご都合主義』とは呼ばれていない。

ガーディアンのメンバーには磯風(いそかぜ)の姿があったという話もある一方で、あれは別の姉妹等ではないのか?

様々な憶測が憶測を呼び、ネット上ではある種の混乱と言うか祭りがおこなわれていると言っても過言ではない。



 午前12時52分、アンテナショップを出て別のアンテナショップへ向かって情報を収集しようとした大和朱音(やまと・あかね)、1分程歩いた所で突如としてフィールドが展開されていた。

「そう言う事か――。株のインサイダー取引も、あの連中が影で糸を――」

 違法ガジェットのバイヤーが逮捕され、違法ガジェットが摘発されているニュースはネット上でも稀に取り上げられる。

しかし、これらがテレビのニュースで放送されない理由は数多くあった。

ネット上では『お察しください』や『大人の事情』と言う事で片づけられているが、憶測だけが独り歩きをするのも危険と言う事で――報道していないのが理由かもしれない。

それが特にアイドル投資家や超有名アイドルだったとしたら――日本政府が力を入れている事業に関係する所が行っているという事だったとしたら?

「憶測だけが独り歩きすれば、それはレッテル貼りや風評被害――ネット上の自由を奪う様な事件に発展する」

 大和は不安そうな顔をしながらも、フィールドが展開された場所へと急ぐ。

そして、ARバイザーを早歩きの状態で被り、ARガジェットを腕に装着、ARアーマーも瞬時に装着された。

まるで――特撮物でも見ているような光景に周囲は驚くが、この光景はARメット等のARゲームに対応したアプリ等で見なければ、目撃する事は出来ないという。

「過去の事例を考えれば、憶測の一人歩きは非常に危険であり――無関係のカテゴリーにも炎上のリスクがある」

 憶測だけが独り歩きし、風評被害を受けた例としては過去の事例として該当するとすれば、超有名アイドルグループの大型ショップだろうか。

移転した場所が豊洲だった事、施設も本来であれば新市場として利用される予定だったものを大改装、2017年夏頃にはオープンした事――。

こうした動きが出来過ぎているとネット上で炎上しそうな予想が多かった。

 そして、新市場に関してもさまざまな情報が飛び交った事、連日のワイドショーで取り上げられた事もあり、『芸能事務所側の炎上マーケティング』というレッテル貼りをされた事でネット上が大炎上する。

それこそ、別コンテンツ勢が『超有名アイドルを炎上させたのは、○○の解散を望むファンの仕業』等と拡散、ネットの海は文字通りの戦場となった。

この論争は後に『超有名アイドル異変』等と形を変え――現在のネット上で語られる都市伝説へと変わって行く。

『ネットの海は平和であり、自由であるべき。特定の芸能事務所が全能の神として君臨する事は許されるべきではない――』

 これは、ネット上が大炎上し、その様子が世界大戦に匹敵すると言う事を訴えようとしたメッセージである。

これが誰のメッセージなのかは分からずじまいであり、結局は誰なのか特定する事もかなわなかったという。

実際、この戦争に巻き込まれた多数のつぶやきアカウント、有名所のブログ等が閉鎖する事態になり、文字通りの戦争と考えるユーザーも存在した。

この様子に関しては『形を変えた第3次世界大戦』という極論も出てくる――それほどの状況だったのは間違いない。

「ネット上の情報を鵜呑みにすれば――同じ事を繰り返す可能性は高い」

 大和はまとめサイトを確認しつつ、何度も考えていた事をつぶやく。

負の連鎖、繰り返される紛争――それをたちきれない事はないはずである。

それを踏まえれば、今回の事を主導しているのは、無限の利益を生み出す賢者の石とも言われるシステムを保持しようとする芸能事務所なのか?

それとも、機密事項でさえもネタバレと言う単語に変更し、海外へ流出させようとする投資家連中なのか?



 午前12時53分、大和はフル装備とも言える武装でフィールドを展開した人物を追跡し始める。

そのスピードは超高速と言う訳ではなく、追いかけても引き離される状態だった。

大和の主砲は威力こそは高いのだが、当たらなければ意味がない。その辺りは向こうも研究済みなのだろう。

最初の数発はあっさりと回避し、主砲の爆発は建造物にもヒットする。

直撃した建造物が破壊される事はなく、爆発のエフェクト発生後には何事もなかったかのようにビルが存在していた。

しかし、これだけの暴れ放題に近いフィールド内でも、プレイヤーがARフィールドの外に出る事は出来ない。

ギャラリーであれば任意に出る事は可能だが――実際、プレイヤーが外に出ようとするとバトル放棄と判定される。

そうした事情を含め、バトル放棄のペナルティを考えて自分でマッチングしたバトルは自分で放棄しないというのがネット上でも常識となっていた。

 それを犯人は全く知らなかった為、最終的には大和の主砲一発で沈められた。

所詮、チートを使ってまで賢者の石の力を手に仕様とした結果が、自身の破滅になるのは分かっていたはず。

大和の方も語る事はなく、そのままフィールドを後にする。



 午後1時、午後のニュースを報道する所では大抵が株のインサイダー取引を扱っている一方、あるテレビ局が動き出した。

『速報が入りましたので、お伝えします。アイドルグループ○○○のファンがアプリゲーム△△△の違法ツールを販売していた事で逮捕されました』

 スタッフから原稿を受け取った男性アナウンサーは速報とは別のニュース記事を読もうとしたのだが、スタッフからこちらを先に読むようにとの指示があり、渡された原稿を読む。

『逮捕されたのは、アイドルグループ○○○のファンである18歳の――』

 主犯格のメンバーは何と未成年の男性だったと言う。その為、テレビでは全く報道されていなかった。

しかし、ネット上では彼のハンドルネームが有名過ぎた為、そこから本名がばれてしまう事になり、ネット上に拡散する事になる。

それに加え、ニュース上ではアプリゲームと言及されていたのだが――ARガーディアン等にとっては、これがARゲームに関係した事件なのは明らかだった。



 午後1時5分、プレイを終了したアイオワをアンテナショップで目撃した比叡(ひえい)アスカは、何かの違和感を抱く事になった。

ネット上に拡散している違法ツールとはARガジェットの事を指すのは明白なのに、テレビのニュースでは別のアプリゲームと紹介されている。

単純に犯人逮捕が同じタイミングだったと言えなくもないのだが――比叡は何か別の存在がいる可能性を考えていた。

その状況下、比叡はあるニュースをネット上で目撃する事になる。

【あの事件は架空の事件ではなく、現実だった? 超有名アイドルの芸能事務所によるコンテンツ独占計画の全貌とは――】

 そのニュースとは、架空の事件として取り上げられていた物――超有名アイドルの芸能事務所が考えているコンテンツ流通の独占計画である。

独占計画に関してはアカシックレコードにも書かれていたことだが、知っているのはごく少数だろう。

「これは――どういう事なの?」

 比叡は、このニュースを見て驚くことしかできなかった。

これは超有名アイドル事変や他の超有名アイドル絡みの事件と全く同じ流れを意味していたからである。



 同じニュース記事を見つけた、大和は――比叡とは別の反応を示していた。

そのリアクションは衝撃と言うよりは、疑問と言えるのだろうか?

「今回の不正ガジェットの使い手――そう言う事だったのか」

 大和は、今回の不正ガジェットを使用していた人物が超有名アイドルファンと言う事に対し、何か巨大な存在を懸念していたのである。

「不正ガジェットプレイヤーの洗い出しをしていた所に、今回の襲撃事件や一連の事件を発想させる手口――」

 そして、彼女は思った。この世界は、予想以上に崩壊の一歩をたどろうとしていた事を。

それこそ、ARゲームを平和的に利用しようという日常を破壊し、超有名アイドルを唯一神にする為の宣伝道具として利用しようと言う非日常を呼び込む――。

過去には『玩具で世界征服』とも呼ばれていた事、それが『コンテンツで世界征服』という展開になりつつあったのだ。

何としても、デスゲームや世界大戦に発展する前にも止めなくてはならない。

「ARゲームの中立性を守る為にも――最善を尽くす!」

 新たな戦いを予感させるような気配を感じるような、大和の一言は――ARゲームを悪しき勢力から守ろうと言う物に変わりはない。

しかし、その一方で彼女は別の目的を併せ持っているような――そう言う気配も持ち合わせていた。



 この一連のニュースを見ていた、ARガーディアンの一人であるあきつ丸(まる)は、何かの資料を見ながらニュース記事を確かめていた。

「全ては、始まったばかり。ARゲームを巡る一連の事件はネット炎上では片づけられない大事件を呼ぶ」

 彼女は何を感じているのだろうか? ARゲームで戦争を起こそうという人間を彼女は放置するのか?

「まずは――諸悪の根源を見つける事か」

 あきつ丸以外にも諸悪の根源に気付く人間はいるだろう。

芸能事務所が全否定するよりも速く、諸悪の根源を見つける必要性があった。


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