第2話 はじまり

 俺は電車の窓から心躍らせて街の景色をながめた。

 日本の鉄道は優秀だ。

 よほどのことがないかぎりは定時で目的地へ到着する。

 いまだってわずか数十秒の誤差で着いた。

 今日からはじまる新天地での生活ドキドキが止まらない。


 ※

 

 なんてことはないふつうの構内をながめて、なんてことはないふつうの改札を通りぬけた。

 あっ、寮長が改札口で待っててくれてる。

 おお、ありがたい。

 新生活に期待を寄せてるとはいえやっぱり見知らぬ町は不安いっぱいだ。

 寮長が手招きしてる。


 「朝比奈くん。こっち、こっち」


 「あっ、はじめまして」

 

 寮長の顔は写真でだけ見たことがあった。

 寮長はザ・ふつうという青年。

 じつは俺はこの町に一度もきたことがない、なんたって滑り込みで入寮を決めたからだ。

 

 「はじめまして。僕は寮長でふだんでも寮長って呼ばれてるから、朝比奈くんも寮長って呼んでね?」


 「は、はい。では僕も寮長と呼ばせていただきます」


 「うん。呼んで。呼んで。じゃあさっそくいこうか?」


 「はい」


 俺は寮長のあとについていく。

 駅の扉をぐわんと開くと駅前の繁華街が見えた。

 だが目の前はロータリーになっていてバスやタクシーふつうの自動車が走っている。


 なるほどこれじゃあここは渡れない。

 俺と寮長は歩道橋の階段へ足をかけた。

 待ち望んでたひとり暮らしがこのさきにあるのか、そんな思いで階段をあがっていく。


 「朝比奈くん、我が町にようこそ」


 「お世話になります」


 「うん。楽しい寮生活にしようね?」

 

 俺と寮長が話すたびに、階段を登るコツンコツンという足音も加わる。


 「はい」


 「僕ね、この前百点満点のカラオケで百三十点だしたんだよ~」


 なぜだか寮長が誇らしげに武勇伝を語りはじめた。


 「へ~凄いっすね!!」


 どうやら寮長の笑いのセンスはじゃくだ。

 けど、まあそんなことがどうでもいいくらいに人当たりがいい。

 顔も声も穏やかだ。


 「あと、この歳でもう天下あまくだり!!」


 「マ、マジっすか? キャリア組ですね!?」


 おっと、またスベった。

 寮長の上の階級はなんなんだ管理人か? 大家か? 


 でも寮長は優しい、そう優しいんんだ。

 スベるのがなんだってんだ、どんなにスベっても優しさにはかなわない。

 ローターリーの上から下を見ると、この町はなかなかカオスな感じがした。

 ガンマンが決闘するときに転がっている謎のシャモシャモが転がっている。

 あのシャモシャモの正体はなんなんだ?


 そうこうしていると、俺らが通っていくであろう付近でシャモシャモが溢れてあたりを埋め尽くしていった。 

 どっかにシャモシャモの水源地でもあんのかな? それとも異常気象の影響か?

 その中にひとつにだけ、ラッキーシャモシャモがあった。

 あの“当たり”をつかんだらどうなるんだ?


 ――三つ集めるとふつうよりも一回り大きい、ちゅうシャモシャモがもらえるよ。


 りょ、寮長に心読まれた。

 シャモシャモがちゅうになったところでなんの意味が……。

 穏やかだった町中に風が吹きはじめた。

 ビュービューと風は強まっていく。

 その風にあおられてシャモシャモは飛んでいった。

 さよならシャモシャモ、さよなら、一個だけのラッキー。


  ……綿毛のように飛んでいくシャモシャモのなかにふたつ目のラッキーシャモシャモを見つけた。

 でも、どうでもよかった。

 三つ集めたところでちゅうが当たるだけだし。


 「風がやんできたね。これはなにかが起こる予感。それも神事しんじのようにとても荘厳そうごんなことが、ね」


 「えっ、本当ですか?」


 「おっ!!」


 寮長がめずらしく声をあげた。

 なんだ? モーセの十戒のように居残りシャモシャモが左右に割れた。

 この量が砂漠で転がってたらガンマンの邪魔になるよな?


 「朝比奈くん。この町の二大総長が対峙してるよ。そっか、さっきの風はこの前触れだったか」


 寮長がどこかを指をさした。


 「えっ?」

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