50話 覗きは犯罪です ①


「あ、帰ってきた!」




「亜理紗っ!!」




 湖の散策を終えて暗くなる前に水場の拠点へと戻ってきた。


出迎えはギャルとお嬢様に、黒髪短髪も待ち構えていた。


 こちらに走って来る黒髪短髪に、俺は身構える。


以前に突き飛ばされて背中を強打したことがあるからな。




「美紀ちゃん、ただいまですぅ!」




「おかえりって……! そうじゃないでしょ!?」




 俺を無視して亜理紗に駆け寄っていった。




「……おっさん、おかえり〜」




「……」




 俺に近づいて来たギャルはどこかよそよそしく、お嬢様は……怒っている?




「山田さん最低ですね。 リサちゃんという者がありながら、女性と二人で外泊なんて……」




「いや、これはだな……?」




「言い訳なんて見苦しいです!!」




 うっ……。


お嬢様めんどくさい。 元はと言えばお嬢様が陥没おっぱいをマッサージさせてくれなかったからなのに。




「いいんだよ。 男なんてみんな同じだよぉ……」




「リサちゃん……!」




 抱きしめ合う二人。


なんだこの茶番は? それとも百合でも芽生えたのだろうか。




「ぐおっ!?」




「……おっさん。 次は潰すって言ったよね、私?」




「み、美紀ちゃん!? 山ピーは悪くないですぅ、私がノコノコついていってしまっただけなんですぅ……」




 黒髪短髪に急所を蹴られた。


コッカケは常に使っている訳ではない。 奇襲で急所蹴りはイカン。


 いつかのように俺は片膝をつき、胸倉を黒髪短髪に掴まれた。




「気づいたらもう帰れなくて、二人でお泊りするしかなかったんです……。 山ピーは凄い策士ですよぉ!」




「おっさん……!」




 天然系ピンクよ。


ワザとか? ワザと俺を貶めようとしているのか?




「サイテーですねっ!」




 お嬢様まで乗っかってきた。


女性陣が俺を取り囲み審問会が始まる。




「だいたい山田さんはデリカシーがないんです。 すぐ裸になるし、お腹の調子とかオシッコの臭いとか聞いてくるし……。 それと、……胸ばかり見すぎですよ?」




 体調が悪そうだったから、聞いただけじゃないですかぁ。


胸だって気づいたら見てしまうのだ。 不可抗力、つまり俺は被害者だろう?




「ごめんなさい」




 一応謝るけど。




「そうだよぉ。 お嬢様の胸ばっかり見てるよねぇ、そんなに巨乳がいいの? おっぱい星人なのぉ?」




「おっぱい星人でごめんなさい」




「違いますよーー、山ピーはキノコ星人ですぅ!!」




 何言ってんの?


これが恐怖の天然タイムか。




「「「キノコ星人っ!?」」」




 マズイな。


状況は不利になる一方だ。 どうにか打開せねば!




「そ、そうだ。 新しい果物、見つけてきたんだ。 早く食べようぜ?」




「キノコ星人ってどういうこと?」




「卑猥です……」




「やっぱ潰すしかないようだなぁ……!」




 マズイな。


ここは一旦退散だ。




「あ!」




 三十六計逃げるに如かず。


俺は転がりながらその場を後にする。


 しばらく時間を置こう。






◇◆◇






 暇つぶしに道具作りに精を出し、日が暮れる頃に拠点へと戻る。 


しかし、夕暮れ時の水場の拠点は静かだった。


いつもなら騒がしく、慌ただしく食事の準備をしているはずだが。




「誰もいない?」




「山田さん?」




 イケメンに遭遇した。


夕陽に照らされるサラサラの髪がなびく。


 爽やかな声が俺の名を呼ぶ。




「よう。 他の奴らは?」




「女性の方は皆さん水浴びに行ってます。 他の男性の人達は砂浜に行きました」




 機長は体調が悪く寝込んでいると、イケメンから教えてもらう。




「そうか。 砂浜には行かなかったんだな?」




「足手まといだと、断られてしまいました。 ははは……」




 イケメンから哀愁が漂っている。


リストラされたのがバレたお父さんのようだ。


以前に飲んだ時も落ち込んでいたが、このままでは本気で禿げるぞ。




「少し気を張り過ぎだな。 そんなんじゃ持たないぞ?」


 


 助けがいつ来るかも分からないんだ。


ストレスは発散していかないと。 


 


「ですが……」




「ふぅ……。 自分を奢り過ぎだぞ? お前が頑張らなくても意外となんとかなるさ」




 少なくとも自分を犠牲にしてまで、他人の面倒を見る必要は無い。


できるなら凄いと思うが、そんな義務は無い。




「……」




 真面目過ぎる。 意外と頑固なのか。


これでは生き辛いだろうなぁ。 息抜きが必要だろう。




「まったく……世話の掛かる奴だな。 少し付き合え。 男同士の付き合いも重要だぞ?」




「は、はい!」




 爽やかなイケメンの笑顔。


 なんでそんな嬉しそうなの? まぁイケメンは同性に嫌われやすいからな。


男友達いないんだろうか。 






「そう言えば、田中さんは弟子になったんですか?」




「あぁ、一応な」




「そうなんですか……」




 俺はイケメンと共に歩き出す。 世間話をしながらゆっくりと。


隠しているようだが、歩き方がぎこちない。


まだ足が痛いのだろう。




「おら、脱げ」




「ええぇ!?」




 俺は裸になり、イケメンに服を脱ぐように指示する。




「大きな声をだすな……気づかれるだろう?」




 沢の方へとやって来ていた。


今は女性陣の水浴びタイムらしい。 




「な、なんで脱ぐんでしょう?」




「バレた時、俺たちも水浴びに来たと言えるだろう?」




 裸で覗きに来る奴なんていないからな。


そう、俺はイケメンを連れて女子の入浴を覗きに来たんだ。




「や、やっぱりダメですよ! 覗きなんて……」




「うむ。 だからこそ、興奮するだろう?」




 適度な興奮はストレス発散にいいからね。


娯楽のないこの生活では貴重なアトラクションだ。


 犯罪だけど。




「一皮剥けるための修業だと思えばいい。 それとも、怖いのか?」




「っ! そんなことありません!」




 だから声大きいよ。


とはいえ、やる気になってくれたようだ。


 元気よく服を脱いでいくイケメン君。




「さぁ、いきましょう!」




「お、おう」




 凄いやる気。 ほんとは覗きたかったんじゃないか。


むっつりスケベなのかな。


 


 おっさんとイケメン。


裸の二人は女性陣の水浴びする沢へと忍び寄る!




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