28話 泣き上戸で抱きつき魔


 俺は調理をしつつ、焚き火の側の寝床に腰を掛け談笑する若い美女二人を見た。




「水浴び……。 私もしたいなぁ」




「ふふ、でもリサちゃん。 とってもいい匂いですよ?」




「ちょ! ほんとダメっ、くすぐったいっ!」




 薄化粧になったギャルは最高である。


もちろんスタイルも抜群だ。 マッサージの時に確認済みの天然モノ。


柔らかく張りのある肌は瑞々しい。 褐色の肌にピンク色の頂き。




(たまってんのかな……)




 ギャルのマッサージを思い出しムラムラする。


 三十歳のおっさんは無駄に精力旺盛である。


そんなおっさんの拠点に美女が二人。 タイプの違う二人はイチャイチャしている。




「ほんと、凄い艶々……。 お手入れはどうされているんですか?」




「んっ! ……普通の安いやつだよぉ。 あ、でもこないだおっさんにココナッツオイルぬってもらった!」




 マッサージ凄い上手なんだよ! と得意気なギャル。


これはお嬢様にもマッサージチャンスか!?




「へぇ、そうなんですか……」




 疑いの瞳。




「虫よけにもなるからな。 リサ、後でまたぬってやるよ」




「う、うん!」




 疑い深いお嬢様に比べてどうだ、このギャルの屈託のない瞳は。


まるで何かを期待する雌の瞳である。 ギャルは目が一番エロいのだ。




「そろそろいいかな」




 もう完全に陽は落ちて辺りは真っ暗だ。


今日のディナーは四品。 カエルと蛇の塩スープ、カエルの姿揚げ、蛇のミンチ肉山菜炒め、そしてデザートはカエル卵のココナッツミルク煮である。 スープはココナッツの器に、カエルの素揚げはバナナの葉っぱにのせる。


他に器もないので蛇のミンチ肉山菜炒めもバナナの葉の上だ。 なにかもう一つ、深さのある器があるといいのだが。


 とりあえず、豪華なフルコースの出来上がりだ。




「うわぁ……」




「うっ……」




 カエルの姿揚げに興味津々のご様子。


一人一匹あるからね! 安心して欲しい。


スープに一匹使って残りの三匹は燻製にする。




「おぉ!? これ、凄い美味しそう!」




 バナナの葉を加工して器を作った。


そこに入れたカエル卵のココナッツミルク煮はなかなか見た目がよろしい。


カエルの卵は煮たら黒いタピオカみたいになった。




「あ、リサちゃん。 それは……」




 ギャルはいきなりデザートからいく。


スプーンで掬いココナッツミルクと一緒に口に入れた。




「んっ、んん? ……これナニ?」




 味わうように食べ、不味いというより不思議そうな表情だ。




「カエルの卵」




「ふぁ!?」




 奇声を上げつつ、マジマジと見る。


そして器を持ちつつ、お嬢様にかたりかける。




「……意外と美味しいよ?」




「え? わ、私は……」




 幼虫を回避したお嬢様に、不可避のカエルの卵が襲い掛かる。




「貧血にもいいと思うぞ」




 たぶん。




「だって! ほら、ほら!」




「へう……」




 突きつけられるナイフ。 違ったスプーン。 その上には黒い煮たカエルの卵。


お嬢様は口をすぼめ小さく開けた、そこにスプーンから白い液体と黒い卵は流し込まれる。




「んんっ! はふっ……」




 噛まずに飲み込んだな。


ある意味正解の食べ方かもしれない。




「……やさしい味ですね」




 まぁ基本的に塩とココナッツミルクの甘みだからね。




「ん! 旨いっ!!」




 素揚げしたカエル。 プリっプリのジューシーなもも肉に食らいつく。


まだ熱の残る肉を噛みちぎり食らう。 柔らかい部分も、少し硬い部分も、噛むほどに旨味が出てくる。 ココナッツオイルで揚げたおかげか甘みもにじみ出る。 




「くぅ……! ビールが欲しいなぁ〜」




 安定の蛇のミンチ肉山菜炒めを摘み、その蛇独特の風味に酔いしれる。 コリコリとした骨のアクセントもまた乙なものだ。




「うんうん、美味しい!」




「……ほんとですか?」




 パクパク食べるギャル。 野性味溢れる料理にどこか不安気なお嬢様。 


しかし、辺り香る食欲をそそる匂いに負けたのか、体は正直に語る。




『ク〜〜〜〜〜』




 可愛らしい腹の音色。 お嬢様は腹の音色まで上品だというのか?




「う……」




「あはは、ほら、理子ちゃんも食べよ!」




 ギャルは肉をちぎり食べさせてあげる。


親から餌を貰う雛鳥のように、お嬢様は目を瞑り口を開けた。




「んっ……。 美味しい……」




「でしょう!」




 やっと食べ始めたお嬢様。 三人での夕餉は続いていく。


そんな所に一人の青年が慌てた様子で訪れる。




「理子! よかった……。 心配したよ!?」




「英斗君……」




 イケメンだ。


汗の滴るイケメン。 




「戻ろう……?」




 温度差があった。 イケメンとお嬢様との間に。


おっさんは空気を読まないが、敏感ではあるのだ。




「……今日はリサちゃんと一緒にいたいので、ここにいます。 ごめんなさい」




 差し伸べられた手をとり、見つめ、そして離した。


そんなお嬢様の言葉に、イケメンは心底驚いていたようだ。




「そ、そっか……。 うん、分かったよ……」




 イケメンはとぼとぼと去っていく。




「よかったのか?」




「……いいんです。 ちょっとだけ、息抜きがしたくて……」




 夫婦生活に疲れた若奥様のような表情を見せる。


どうやら幼虫が食べたくない、というだけではないようだ。




「少し疲れました……」




 涙ぐんだお嬢様をギャルが優しく慰める。


楽しかった夕餉も、しんみりと幕を閉じた。






◇◆◇






 珍しくイケメンは一人だ


その寂しげな背中は焚き火で影を作る。




「よお、隣いいか?」




「や、山田さん……」




 落ち込むイケメン。


そんな姿を肴に酒を飲もう。




「さっきはすみません。 挨拶も無しに……」




「気にするな」




 秘蔵のお酒。 最初に分配された物を未だに飲まず取って置いた。


結構なアルコールの度数。 なにかあったとき、消毒に使えるかもと思ってのことだ。




「飲むか?」




「……いただきます」




 今日は夜空が綺麗だ。


余分な明かりの無い、満天の星空。


おっさんとイケメンは二人、静かに飲み始める。




「ふむ、テッポウかな? 当たりの幼虫だ」




「クリーミーですね」




 おつまみはバナナの葉で蒸し焼きにした幼虫。


クリミーな味わいにどこか芋を蒸かしたときの味も。


幼虫の中ではかなりの当たりだ。






「僕は……全然だめです……。 もうどうしていいかわかりません……!」




「いやいや、頑張ってる思うぞ? 俺は……」




 酒が進むとイケメンが泣きながらグチグチし始めた。


こいつ、泣き上戸か……。 めんどくさい。




「ダメなんです! 僕は山田さんみたいな知識も行動力もないんです……。 全部ただの知ったかぶりなんですよ……」




 それでも偉いと思うがね。 




「僕なんて……、ぼぉくなんてぇえええ……」 




「ぐっ! 落ち着け、抱き着くなっ! お前はよくやってるよ! だから、離れろっっ」




 しかも抱きつき魔か。 イケメンの爽やかな匂いが鼻につく。




「うああ、ごめんよ。 理子ぉおーー」




「おれは理子じゃねぇ!!」




 おっさんとイケメンの飲み会は続いていく。


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