第四十一話:『トラックの運転手』

「女神様、見てくださいこのどんな鉱石も掘り進められるオリハルコンドリル。格好良いでしょう」

『罰として切断した腕で遊ばないように』

※前話参照。

「隻腕になったらやっぱりこういった義手には憧れますからね」

『前向きなところは評価すべきなのでしょうが楽しまれると腕を奪った身としては何とも言えなくなりますね』

「普通の義手だと逆に利便性に優れちゃうのでその辺の程度は守っていますよ」

『まあ冷静に分析すればドリルの腕が日常生活に役立つ機会はほぼありませんからね』

「戦闘力は高そうですよ」

『高そうには見えますが貴方の器用さを考えれば弱体化もいい所ですね』

「一応海賊の船長御用達の鉤爪義手も用意しましたがこちらは料理の際に適度に役立ちますね」

『指を動かす技術のない時代からすれば引っかけることのできる義手が最も容易に作れて利便性にも富んでいましたからね』

「後はどんな義手にしようかな、そうだ銃とかも良いですね」

『紛れもなくなるのはどうかと思いますが、通用する相手もいない武器を作っても空しいだけでは』

「武器というのは見るだけでも楽しいものですよ」

『ファンタジー世界に存在する伝説の武器に慣れている私としては貴方の世界の時代に合わせた兵器にはほとんど興味を持てませんね』

「俺はSFとかも好きですからね、石器時代からオーバーテクノロジー、なんでもござれです」

『ならいっそのこと全身機械になるのも良いかもしれませんね。そういったオプションもありますよ』

「おや本当だ。ファンタジー世界で全身機械だとメンテナンスが大変そう」

『ゴーレムに近いと思いますがパーツの生成には苦労しそうですね。別にファンタジー世界に拘る必要もないのですが』

「でも女神様経由で異世界転生するならやっぱりファンタジー世界が妥当なのでは」

『そう言われると正論さを感じますがローファンタジーくらいならギリギリ許容範囲かと』

「現代が舞台のファンタジー要素ありのロボットですか。素直にSF路線で行った方が属性過多になり過ぎないと思いますね」

『喋る瓶やネジに異世界転生した人の台詞とは思えませんね。リアリティを追求しない世界ならば特に問題ありませんよ。何か凄い力で動くとかそんなオプションもあるくらいです』

「それ最後まで伏線を回収できない作品になりませんかね」

『ですがこういうふんわりとした設定だとあまり待ち時間が発生しないのです。ほら、この通り』

「本当だ、そこまで増えませんね」

『おっと、そろそろ異世界転生の時間ですね』

「そういえば腕が無い状態での異世界転生は初ですけど転生先に影響はないのでしょうか」

『そこは大丈夫です。隻腕に拘りたいのであればオプションで調整できますが』

「義手が装備できそうな転生先ならそれも面白そうですけどね。ではガサガサっと。まろやかさんより『トラックの運転手』。なんと人ですよ」

『人ですね、おめでとうございます。しかし何故トラックの運転手なのでしょうか』

「異世界転生のテンプレにトラックに轢かれて死亡というのがありますからね」

『悪漢に刺されるか事故死が主なテンプレでしたね』

「電車とかですと残される遺族に多額の賠償金とか振りかかりますからね。トラックならむしろ貰える側になりますし」

『トラックの運転手からすればいい迷惑ですね』

「その辺の対策もきちんと考えなくちゃダメですね」

『異世界転生を行わせるトラックの運転手がその対策を取れば異世界転生者が生まれなくなりますね』

「元の世界に迷惑を掛けたまま異世界ライフを楽しもうというのはよろしくないですよ」

『そうですね、なんか死んだ貴方が言うと無駄に説得力がありますね』

「突然死なので警察や大家さんに迷惑を掛けたとは思いますけどね。人が死ぬというのは色々手間が増えるものです」

『そうですね、貴方のせいで私の手間が物凄いことになっていますからね』

「オプションは……折角ならドライビングテクニックは高めが良いなあ」

『申し訳程度の運転手要素は大事ですからね』

「後はデコトラにするか普通のトラックにするか」

『デコトラに轢かれて異世界転生したら転生先の夢で何度も見そうですし止めておきなさい』



『試しに義手を組み立ててみましたが思った以上に難しいですね。いっそのこと全身を吹き飛ばして元に戻してしまった方が私としてもスッキリするのでは』

「ただいま戻りました。おや、義手を用意してくれたのですか」

『ロマンを感じる義手では喜ぶだけですから不格好な義手を手配しました』

「確かにまともに調べもしない初心者が造ってみました感のある義手ですね」

『この初心者感を出すのに名工の技術を用いています』

「なんという無駄遣い。では早速装備、うんピクリとも動きませんね」

『……暫くはその状態でいなさい。私の気が向いたらリスポンさせて腕を戻してあげましょう』

「了解です。それでは報告ですね」

『トラックの運転手ですか』

「ええ、轢いた相手を異世界転生させるトラックの運転手ですね」

『テンプレ通りですか』

「ちなみに舞台はファンタジー世界」

『異世界転生させるトラックに乗って異世界に行ったのですか』

「それだと異世界転移じゃないですか」

『それもそうですね、詳細の説明をお願いします』

「発端はトラックに轢かれてファンタジー世界に異世界転生を果たしたある人物です。その人物がファンタジー世界で造ったトラックにはその人物の因果がうんたらかんたらで轢いた相手を異世界転生させる効果が備わっているのです」

『なるほど、無理のない設定だということにして詳細は無視しましょう』

「そして俺はそんなトラックの運転手であるロボでした」

『何故にロボ』

「女神様が全身機械になるオプションの説明をしていた際にそのオプションが選択されたままだったようで」

『そう言えば見せた時にタップしてしまっていた気がしますね』

※オプションはタッチパネル式の専用端末を使って設定しています。

「おかげで待ち時間がごそっと減りましたね」

『異世界転生をさせるトラックの運転手のロボですからね、需要は少ないでしょう』

「まあ赤子から成人までの工程がすっ飛ばされたと思えば楽だとは思いますがね」

『転生ライフのほとんどを否定する発言ですね』

「赤子からならどうにかこうにか勉強したりしてトラックの運転手以外になれないものかと試行錯誤するつもりでしたけど流石にトラックの運転手ロボとして生まれたからにはトラックの運転手しかできませんでしたね」

『そして地味にお題を無視しようとしていたのですか』

「役職が決められていると何というか他人に敷かれたレールの上を歩いている感じがしますから」

『他人の出したお題を選んでいる時点で紛れもない事実なのですがね』

「最初は課せられた命令に従って荷物の運搬をしていたのですがある日俺は人類に反旗を翻します」

『いきなり佳境ですね』

「『俺は機械じゃない、心ある存在なんだ』と訴えてやりましたよ」

『貴方を作った人からすれば機械で心がない存在の筈なのですがね』

「心を持った機械として俺は世界から狙われることになりましたが流石は異世界転生者産のトラック、ファンタジー世界の連中では追いつくことすら叶いません」

『余程の高スペック系化物でもない限り時速百キロ以上で走行できるトラックに追いつくのは難しいでしょうからね』

「いえ、時速千三百キロは出ていましたね」

『従来の十倍近い速度ですね。マッハの域』

「運転手がロボですからね、速度の限界は気にしないで良かったんですよ」

『確かに機械の体ならば体に掛かる衝撃にも十分耐えられそうですね』

「障害となって立ちはだかる相手も次々と異世界転生させてやりましたよ」

『まるで異世界転生が隠語のような感じですね。しかし死屍累々というのはあまり良い印象ではありませんが』

「大丈夫です、俺の運転したトラックに轢かれても死ぬことはありません」

『音速のトラックに轢かれたら普通は即死なのですがね』

「普通は肉体が死んで魂だけが異世界に行ったりするじゃないですか。でも死体が残ると殺人になるかなと思いまして、轢いた相手を肉体ごと異世界転生させるようにしておいたのです」

『それ異世界転移では』

「いえ、ランダムな生物の赤子として生まれるようにしてあったので異世界転生だと思われます」

『しかし他者を異世界転生させるには神の力が必要なのですがね』

「そこは大丈夫です。いつも紅鮭師匠を転生させている神様の空間を経由するようにしておきましたから」

※紅鮭師匠は別の神様の所で異世界転生を繰り返しています。

『傍迷惑過ぎる。そもそもその神様と知り合いだったのですか』

「いえ、今回のオプションを思い付いた際に『あ、でもこれってどこかの神様の協力とかいるかなー、紅鮭師匠の所に頼んでみるか』との考えに至り、紅鮭師匠に連絡を取っておいたのです」

『それで了承したと』

「二つ返事で承諾が取れましたね」

『紅鮭師匠がですか、その担当神がですか』

「両方ですね」

『よくもまあそんな無茶振りを受け入れましたね』

「どうも紅鮭師匠の所の神様の下には異世界転生者がほとんど現れないらしく、閑古鳥がいつも鳴いている感じだとか」

『ああ、下っ端の神なのですね』

「下っ端とか分かるんですか」

『異世界転生を生業とする神は転生させた者が転生先の世界に貢献することでその世界から神格を得ることができます。なので多くの異世界転生を行わせることができればそれだけ神格も上げやすいのですが格の低い神ですと異世界転生者を引き寄せる力も弱いのです』

「何やらビジネスっぽい話になってきましたね」

『異世界転生に特化している神は大量生産ならぬ大量転生の仕組みまで完備していますからね。程度の低いオプションを使っての転生なので大成することは稀ですが』

「そう聞くと女神様の女神業は大丈夫なのでしょうか」

『貴方一人なら紛うことなく赤字ですね。ですが他の転生者達にはきちんとした転生先を選ばせ、強力なオプションを付与することができているのでしっかりと神格は回収できています』

「この空間だと他の転生者に会ったことないんですよね」

『何度も戻ってくるのは貴方だけですからね。他の方々はきちんと転生先で一生を終えていますよ』

「あれ、でも質の良い転生先とかだと待ち時間が発生するのでは」

※第一話参照。

『ええ、なので個別の空間でドミノを延々と並ばせて時間を潰させています』

「数百年単位でドミノとか中々にえげつない」

『転生先の環境に対応できる精神を鍛える上で役立っていますよ。それにしても紅鮭師匠が魚に拘っているのは担当の神の実力不足だったからなのですね』

「いえ、魚縛りは紅鮭師匠個人の拘りだそうです」

『そこ迄言われると聞かない方が良い気がしてきました』

「割と感動できる話なんですけどね」

『今度にしておきましょう』

「ああ、それで紅鮭師匠の所の神様という受け口があったので俺は次々と転生先の連中を異世界転生させてやったわけですがいつまでも思うようにはいきませんでした。俺を生み出した異世界転生者が率先して対処を行い始めたのです。人を造っておいてどうにかしていますよ本当」

『暴走するトラックですからね、対処をしない方がどうかしています』

「手始めにされたのが進行先を地雷原にしてきましたね」

『トラック相手に容赦ない』

「ですがそこは俺、華麗なドライビングテクニックを披露して突破しましたよ」

『地雷の間を的確に走り抜けたり、飛び越えたりとかそういったアクション映画ばりの操作ですかね』

「いえ、地雷を踏んで爆発するまでの間に爆破範囲から離れました」

『そういえばマッハで走るトラックでしたね。華麗なるドライビングテクニック関係ありませんね』

「次にトラックの全長より高い巨大なバリケードを進行先に設置してきましたがこれも華麗なるドライビングテクニックを披露して突破しましたよ」

『ドライビングテクニックで越えられるものなのでしょうか』

「真っ直ぐに突き破りましたね」

『マッハで走るトラックですからね。ですが正面衝突していてトラックの耐久は大丈夫だったのでしょうか』

「俺の持ち込んだドリルが役立ちましたね」

『そういえばどんな鉱石でも掘り進められるドリルでしたね。持ち込んでいたのですか』

「紅鮭師匠に自慢したいなーと思いまして」

『紅鮭師匠もその世界に異世界転生していたのですか』

「いえ、残念ながら田中さんしかいませんでした」

※田中さんも別の神様の所で異世界転生を行っています。

『貴方に残念がられたら田中も不本意でしょうね』

「それに田中さんは潜水艦に異世界転生していたのでほとんどすれ違いの関係でしたね」

『珍しく物に転生していましたか。トラックと潜水艦がすれ違うだけでもなかなかの奇跡だとは思いますが』

※田中さんは基本人として転生できています。

「とまあこのように様々な妨害が飛び交うも俺は華麗なドライビングテクニックを披露しつつ突破していきます」

『力技なだけで華麗なドライビングテクニック要素を感じられない』

「手が常に残像を残しながらで背景に花びらが舞っていましたよ」

『演出だけは華麗でしたか』

「ただ都度花びらを捨てないと運転席が花びらだらけになるので面倒でしたね」

『演出で出現する花びらは普通イメージなだけで存在しないのですがね』

「そこはオプションで」

『普通の異世界転生者が一つ得られれば満足なオプションを無駄遣いし過ぎです』

「ただ追手はいつまでもついてくるので止まる暇もなく忙しい逃亡劇でしたね」

『マッハで逃げ続けるトラックを追いかける気力は褒めてあげたいところです』

「思うが儘に走り続けた俺でしたがついに最期の時がやってきます」

『今の所貴方の人生が終わる要因が見えない』

「取り敢えず魔王を轢いて異世界転生させたところまでは順調だったのですが」

『まともに語られることもなくトラックに轢かれて異世界転生させられる魔王が不憫でならない』

「魔王城が崖の上にありまして、そのまま魔王城を突き抜けて崖の下に真っ逆さまでした」

『しかも自分の城にトラックが突っ込んで来ていたと』

「いやあ、魔王相手に引き分ける結果になるとは」

『確かにいつもなら魔王は相手になりませんからね』

「勇者の立てた案内板にしてやられましたね」

『そして無理やり回収しようとしている勇者要素』

「最初から話していましたよ、異世界転生者ですよ」

『異世界転生者は勇者になっていましたか。そういう意味では魔王を倒した兵器を生み出したとして成すことを成したわけですね』

「まさか『この先可愛い子いっぱいいるよ』という看板で誘導してくるとは……外道でしたね」

『ロボなのだから色欲くらい克服したらどうですか』

「やはり他の異世界転生者は要注意ですね、身に沁みましたよ」

『チート頼りではなく貴方個人の趣向を理解しての行動が効果的だった結果ですからね。見事に嵌ったのを聞いて貴方もまだまだ人なのだなと安心できました』

「あ、お土産ですが紅鮭師匠の所の神様から魚介詰め合わせセットを貰いました」

『貴方がその神経由での異世界転生者を量産したおかげで神格もそれなりに上がることになったでしょうからね。そのうち紅鮭師匠も良い異世界転生を達成できるかもしれませんね』

「紅鮭師匠とは競争の関係になりそうですね、俺も負けないように止まらずに走り続けますよ」

『走り屋根性が身についていますね。それでふと思ったのですが止まらずに進んでいたトラックや貴方自身の燃料はどうしたのですか』

「何か凄い力で動いていました」

『あ、それ私が外し忘れたやつですね』

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