世界の運命がおまえのせいでストロング0



 初対面の人間に突然おまえのせいで世界が滅ぶといわれて、はいそうですかではやめますといえるほど俺は人間ができていない。いくら美少女でもそんな口の利き方はないと思う。


「あんたは?」

「私は極光教の大神官をやっているものです」

「極光教?」


 また知らない単語が出てきた。まぁよくわからんけど偉い人なのか。それに大神官というだけあってなかなかに大きい。何がとは言わないが顔からすこし下に目が行ってしまう。しかし……


「なるほど。しかしなぜその大神官がわざわざ俺のところに?」

「きっかけは小さなものでした」


 大神官がなにか機械のようなものの中にある透明な球を俺に見せる。僅かに色がついている。


「……この球は、世界の可能性を提示するものです」

「世界の可能性?」

「例えばこの世界が平和な世界になるか、戦乱の世になるかなどです」

「まぁいろんな可能性があるよな。普通」

「魔王に支配される世界、などというものもあります。そうならないために異世界より来訪者の力を借り、世界の可能性を維持しています」


 なんだろう、うまく言語化できないが何か引っかかる。まだ話を聞いたほうがいい。


「ところが、昨日のことです。突然、その可能性そのものが減少するという状態が発生したのです。そして今日にはさらにその可能性の減少が加速しています」

「可能性がなくなる?」

「はい。そして今しがた、猛烈な勢いで、それこそ世界の存在する可能性まで減っていった……その原因が、あなたの力です」


 ……つまり俺は世界のエントロピーを消費することでストロング0を召喚し続けていたとでもいうのか?どうせ消費して償還できるならもっといいものを召喚したい。からあげとか。しかし気になることがあるな。


「アニス。一つ聞いていいか」

「大神官様に聞かなくていいの?」

「……何か違和感を感じるんだ。アニスもでかいけど、大神官はそれ以上に見える。だが」

「ちょっと何を言っているの!?」

「聞け。大事なことだ。耳かせ」


 俺はアニスにあることを聞いてみる。アニスが少し顔を赤くするが次には真顔になる。


「あるよ」

「あるのか」

「異能者の人が持ち込んだらしいよ」

「ふーん。んでアニス、どう見る」

「……そういわれると、なんだろう、おかしい気がしてきた」

「そうなのか」

「いや、絶対おかしい」

「……なら……最小限度に……ロン……」

「何を話されているのです?」


 どうもこの大神官、信用できなくなってきた。最初から信用する気はないが。


「大神官、一つ聞きたい」

「なんでしょうか」

「……俺以外にも異世界からの来訪者っているらしいが、今はどうしてる?」

「全員、魔族との戦乱で命を落としました。残念ながら」

「全員!?」


 うさん臭さが跳ね上がりやがった畜生。そうだよ、そういう奴だろうな自分を偽る奴は。


「その中には、いたのか?俺みたいに何かを生み出せる奴も」

「はい。いましたが何か?」

「そういう奴は世界の運命を削るからやめさせたのか?」

「そのような方はいませんでしたね」


 ……だとしたら、そういうことか。己の運命を削らせでもしたんだろうな。何が大神官だよ。邪神にでも仕えてるんじゃねぇかこのねーちゃん。


「おわかりになりましたでしょうか。無論、あなたがあまり困らないようにはいたしたいと存じます」

「冗談じゃない。うまく使えないからって良くて飼い殺し、下手すりゃ殺す気だろ?」

「……極光教をすべて敵に回すとでも?」


 大神官の目が開いた。ヤバいやつじゃないかこれ?なんか光ってるんだけど怖いぞおい!


「あなたの力を奪わせてもらいます!お覚悟を!」

「覚悟ね。もうできてる」

「え?……げぷ」


 ふいに大神官がげっぷをする。顔色が赤くなっているようだ。目の謎の光も消えた。そのままへたり込んでしまった。効いてる効いてる。


「い、いつの間に!?」

「あんたが下戸でないなら安心しろ、死ぬまではいかない」

「んな!?……ひっく」


 突然大神官が酔って座り込んだのを見たのを脅威に感じたのか、武装した兵士たちに囲まれる。突かれかねないな槍で。ならば威圧させてもらうとするか。持っているストロング0の缶を開けぐびぐびと飲み、兵士たちをにらむ。


「さっきの戦いは見たな?お前たち相手でも俺は全員を倒せる自信がある」

「……くっ。大神官様……」

「それよりあんたたち。一つだけ騙されているぞ、この大神官にな」

「何を?」

「おう、アニス。さすがにダイレクトはかわいそうなんで、どこかの部屋に連れてってくれ大神官を。んであとは」


 耳打ちをするとまたアニスが赤くなる。しかしそのすぐあと悪い顔になる。


「使っていいの?」

「全部使ったら入りきらないかもしれないがな」

「そこまではないんじゃない?」


 大神官を小屋に連れ込んでいったアニスが、しばらくすると部屋で叫び声をあげる。


「ちょっと!?何枚使ってんのよ!?」


 おーおー予想通りだなこれは。アニスがブルンブルン胸をふるわせ、えらいことになったまま飛び出してきた。ブラも借りたようだな。兵士の中には、思わず前かがみになっている奴もいる。


「見てよこれ!これで全部じゃないのよ!!」

「Gかそれ以上はあるじゃねぇか!もともとEぐらいあるのかアニス」

「よくわからないけど、とにかく盛りすぎよあの大神官!!四枚だけ使ったわよ」

「あとはどうした」

「これ」


 パッドを持っているアニス。さらに六枚ある……盛りすぎだろ。


「こんだけ持ってるやつは話も盛ってそうだな」

「そうね。どう、みんな」

「いやでも大神官の能力とおっぱいは関係ないだろ」


 兵士の言うことも一理はある。だが。


「でもこいつ、こんだけ偽ってたんだぞ自分を。別に俺は微乳が嫌いとか全くないけどさ、これだけ偽ってるやつのいうことはちょっと信じられない」

「うん、私もあれを自分より大きなサイズにまで盛られたらちょっと信用できない」

「俺たちも騙されていたよな、その意味では」

「しかし大神官の発言とおっぱいは関係ないのでは?」


 兵士たちにも不審が広がっているな。さて、ここでだ。新たに能力で作るのはともかく、作ってしまったものは有効活用しよう。


「とはいえ俺もこの能力がはっきりしていない部分がある。そこでだ。まずは能力をわかってもらうために、先ほど戦場にばらまいた酒を回収しようと思う」

「回収?」

「そして回収した酒の半分をみんなで飲もう」

「え?いいのか!?」

「いいぞ。飲んでみないとわからんだろ」


 兵士たちの目の色が変わる。慌ててみんなで酒を集めてきた。結構ばらまいたが、のめるやつも大量にあるな。素晴らしい。


「では、我々とみんなの出会いを祝して。かんぱーい!」

「かんぱーい!」


 近衛兵でもない兵士なんて酒が飲めるなら飲みたいってもんだろ。もっと兵士の福利厚生考えるべきだったな大神官のねーちゃんよ。


「きっついなこれ」

「でも飲みやすいぞ」


 兵士たちが口々に酒を飲んでいる。ひとまずこの場はやり過ごせたが、さてどうしたものか。実際この能力が世界の運命を削るんじゃうかつに使えない。だが、大神官のねーちゃんと揉めるのは困る。揉めるほどなさそうだけど。


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