第7話 まつ子、唱える

※前回までのあらすじ。もう昨日のことは忘れた。


 ある晴れた日。

 お師匠様はルージュに外に出なさい、と言いつけました。

 もしかして?これはとうとうもしかして?とルージュは思います。そして二人で少し離れた空き地にやってきましたとき、それは確信に変わりました。


「それでは、今日は実際に魔法を唱えてみましょう」

「やったあ!!」


 今日はルージュがずっとずっと、一番楽しみにしていた、魔法の実践授業です。


「お願いします!!お師匠様ぁ!!」


 いつもより元気でにこやかなまつ子にお師匠様は微笑みます。


「今日はなんだか機嫌がいいのね、まつ子」

「そりゃあもう、お師匠様に師事してやっと・・・これまでもずっと座学ばかりで「まつ子の座学の成績が悪いからです」・・・今日は負けない。話を続けますわ。今日という日は魔法使いの第一歩のようなものですもの。それと、あとルージュと呼んでくださいまし」


 お師匠様はふぅ、とため息をつきました。


「忘れてたわ。ごめんさいまつ子。で、魔法使い、魔法の修行を積めば、確実に強力な使い手になります」

「はい。で、私のことはルー「でも忘れてはいけません。私はこの力を空から、大地から、自然から、精霊から借りているのです」・・・借りているんですの?」


 しつこいルージュをお師匠様は畳み掛けます。しつこさで言えばどっこいどっこいですが。


「そうですまつ子。魔法は自分の力だけで放つものでははありません、”借りている力”だということを強く意識し、決して慢心せず、そしてその源である精霊を裏切ってはいけないのです」

「私の魅力は利息をつけても余りあると思うのですが・・・」

「はぁ・・・その根拠のない魅力はどこからくるのですか?」

「そんな。恥ずかしいですわ」

「では聞きません」

「そんな・・・もうひと押ししませんの?」

「もういいです。それでは、今日まで教えた成果をお見せなさい。水を出す魔法です」

「は、はい!」


 ルージュは杖を持って空を仰いで、大きく手を広げました。


「ババババッ」

「なんでしょうか?」

「予備動作です」

「・・・そうですか」


そしてそのまま中腰になって、真剣な顔をします。


「ゴゴゴゴゴゴ・・・・」

「待ちなさい、ちょっと待ちなさい、まつ子」


 まるで何かの必殺技を放つように中腰になっているルージュを見て、お師匠様は早々に止めます。


「ゴゴゴゴ・・・なんでしょう?お師匠様」

「いくつか質問があります。まず・・・そのリボンだらけのエグい棒っきれはなんなのですか?」


 ルージュの片手には、ルージュの身長の半分くらいの棒があります。そしてその棒はいろんな色のリボンが巻かれており、その先にはリンゴのおもちゃが付いています。


「この日のために作った杖です。銘を”バーニングエクストリームレッドロッド・ポムポム戒”といいますの」

「そうなの」

「お師匠様とお揃いです」

「あらそうなの・・・そうなの!?」


 お師匠様はしばらく、30秒はルージュの杖を見つめ、そして自分が持っている杖を比べます。お師匠様の杖は飾りが何もなく、短めでまっすぐな白銀の杖です。ルージュのバーニングなんとかというものとは、似ても似つきません。

 そしてお師匠様はまたため息をつき、こめかみを押さえながら左手をヒラヒラさせました。


「私のとは全然違います・・・が、まあいいでしょう。まだあなたの実力では、どんな形であっても同じですから」


 どうやら続けていいようです。


「では・・・こほん・・・」


 ルージュは小さくかわいい咳払いしました。


「こほん」


 もう一度します。かわいいみたいなので。


「では・・・ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ」

「忘れてたわ・・・待ちなさい」

「ゴゴ・・・はい?」


ルージュは何故止められるのかわかりません。


「忘れてました。本当に忘れていました。そのゴゴゴゴ・・・とはなんです?」

「迫力です」

「不要です。本当に掛け値なく不要です」

「わかりました」

「本当に無駄に素直ね」


お師匠様は何度目かのため息をつきました。


「ではでは、あらためて・・・『空よ、雲よ、雨よ、そして大地に根付くあまねく水面の精霊よ・・・我はルージュなり。風に還り、水の衣を纏え・・・』」


 ・・・さてルージュは初めての授業で魔法を出せるのでしょうか。

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