3-8 報告に

 真っ暗な夜の道を馬車が走る。首都を縦断するバックボーン・ラインをひたすら北へと向けて走り続ける。目指すはノースト・エンド。リヒトと決闘に及んだ、内乱で潰れた町が広がっている北の端。


「返事をするために、わざわざ町の端まで行くだなんて。しかも夜」


 向かいに座るリーフィが、車体に上半身を預けつつ言った。


「ひとつ屋根の下に住むギルドメンバーなのに」

「アジトに戻れないくらい忙しいんだろ。最近、団長ずっと留守がちだしな」

「ノースト・エンドまで呼び出すってことは、この近くで待機してるってこと? こんな線路も通せない辺鄙なところで何してるんだろ」

「さあな。ギルドとは無関係なのは確かだけど」


 ちょうど俺を直属へ推薦すると言った頃からだろう。団長の顔を見ることがめっきり減った。先日、俺が街中でやらかした仕事を仕切っていたのも副団長だ。

 ――今日は、直属行きについて返事をする期日。

 しかし当の団長がいない。用があればここに連絡を寄越せと電報番号をもらっていたのだが、流石に電文ひとつで返事を済ますなんて、失礼すぎる。

 結局、直接返事をしたいのですがどうすればいいでしょうかと、番号先にお伺いを立てた。

 翌日、電報業者が俺に手渡した返信紙には、手間だがノースト・エンドまで出向いて欲しいと記されていたのだ。


「つーか、どうしてお前まで付いて来るんだよ」


 灯りに薄らと照らし出されたリーフィの顔をねめつけた。


「この距離となれば馬車だって安くねえぞ」

「なによう」


 頬を膨らませた。


「あんな大きな話を断るんだもの。緊張するでしょ? だから少しでも和らげてあげようと、わざわざ付いて来て」

「御者に言ってお前だけ下車させる」

「わ、うそうそ! こんなところで降ろされたら本気で困る! 御免なさい。暇を持て余していただけです」

「お前、俺のこと出汁にし過ぎだろ」

「ダシ? ダシって何?」

「知らないのか。東国料理で使う旨味……」


 って、説明すると逆に面倒だな。


「つまり、都合よく俺を理由付けに使い過ぎって言いたいんだよ」

「え、だって便利なんだもん」

「おい待て。ちょっと待て」


 便利だと、臆面もなく言い切りやがったな。


「あのさ、リーフィ」

「なに?」

「心配してくれてるってのは解るけどさ。いい加減、放っておくことも覚えろって。副団長に未熟扱いされるのは諦めもつくが、お前は同い年だろ」

「ん……ひょっとして、鬱陶しい?」

「とても」

「うーわっ、力強く頷いたよ、このヒト」

「心配しすぎるお前が心配だよ、俺は」

「むう、その言葉。喜ぶべきか、拗ねるべきか」


 ――お客さん、着きますぜ。

 戯れ合っているところに、御者の声。馬のいななきと共に窓からぼんやりと見える殺風景な景色の流れ方が緩やかになる。リヒトと闘った場所より、更に北。本当に瓦礫ばかりだ。

 内乱で潰れて以降、放置されたままの廃墟だ。新しく引かれた線路と遠過ぎることもあり、物見遊山に訪れる人もいない。

 こんな時間、こんな場所に何の用だと御者が首を傾げるだけのことはある。


「本当に、ついて行かなくても大丈夫?」


 リーフィが指で膝をつついて来た。


「大丈夫だって」


 言ってるそばから、こいつは。


「付き添いがなきゃ何も出来ないお嬢様じゃねえんだから」

「お嬢様って……別に言ってないか。じゃあ、待ってる」

「ああ、むしろこっちを頼む。ここで引き返されると帰る手段がなくなっちまう」

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