旋風のひと夏

@sabutarou0407

第一話 監督の苦悩

 カッキーン

 鋭く気持ちの良い打球がグラウンド一面に響き渡る。

 我孫子市は千葉県の北西部に位置するのどかな小都市。人口は13万人で我孫子駅は常磐緩行線(地下鉄千代田線)や成田線の発着駅になっており、周辺はベットタウンとして賑わっている。県立手賀沼高等学校は我孫子市のシンボルともいえる手賀沼の真ん中の方のほとりにある学校だ。野球部はかつて甲子園にも出場したことのある中堅校で専用グラウンドもある。

 

「おい、才木に伊君ちょっと来い。スカウトが来ているぞ」

監督歴11年の小川監督が疲れ果てた声を出して、もやしのようにひょろっとした長身の才木と童顔で170センチくらいでつり目が特徴の伊君を呼び出す。秋の大会で勝ち進んだ途端、急に取材だの挨拶だのが来るようになってその対応に追われるのに精いっぱいで教員業のほうに手が回らないのが現実だ。だが、スカウトはそんなことはお構いなしにこれはどうとか普段はどうしているとかそんなの選手に聞けばいいということまで監督に聞かれるんだから困ったものだ。

 スカウトの対応が終わったら今度は選手達にノックを打つ。それもポジション別にまんべんなく打つわけだから練習が終わったころには心も体もくたくた。

 ベンチに座っていると「監督お疲れ様です。」とタオルを目の前に差し出されたが顔を上げる気力もなく受け取るだけで精一杯だ。

 

いつからこんなに忙しくなったのか振り返ってみるとやはり原因は昨夏の15年ぶりにベスト16入りしたことだろう。地元新聞でも古豪復活と取り上げられ古くからのファンも沸き上がった。

 その立役者は才木、伊君の右左腕2年生エースだろう。2人は2年前に入部した当時はそれほど目立っていた選手ではなかったが次第に実力をつけていき気が付けばプロ注目の投手となっていた。そのおかげで次の秋の大会も優勝候補として取り上げられるまでだ。


 それはもともと責任感の強い小川にとってそれは自分自身をより苦しめることになっていて飯もこのところ喉を通らない。


 秋の大会がまもなく始まる。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旋風のひと夏 @sabutarou0407

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ