第20話旅立ちの日

俺は応急処置として、右腕を包帯で巻き、固定した。

不馴れな左手で、部屋でミラナリア王国に行く準備をしていた。


「左手使いにくいな。」


「大丈夫か、坊主?」


「その声は、ウィリアムか。部屋に入って良いぞ。」


「おう」


そう言って、ウィリアムは、ドアノブを回した。部屋に入る際にも、大柄であるため、体を少し横にしなければ入れない。何を食ったら、そんなにでかくなるのやら。

俺は、自分のヒョロイ体を見てそう思った。


「ミラナリアなら行くんだってな。寂しくなるな。」


「俺がいなくても変わらないだろ。」


「そんなことはねーぞ。ギャンブルのライバルが減るんだよ。」


「結局、お前はギャンブルやりたいだけじゃないか。」


「そりゃそうだ!ギャンブルは俺の生きがいだ!」


「何もかっこよくねーぞ。」


ウィリアムは、俺にギャンブルを負けてからすごい絡んでくる。人柄は良いのだが、ギャンブル狂っていうのが難点だ。

あそこまでのめり込んでしまっては、どうしようもない。


「そんなことを話しに来たのか?」


「お前は、察しが良いな。」


「だって見れば誰だって分かるぞ。そわそわしすぎだぞ。」


「いや、俺もミラナリア王国に行くことになってな。

それを言いに来た。」


「さっきの言葉はなんだったんだよ!」


俺はその言葉にフリーズした。なんでこいつが来るんだ。ただでさえ、絡みが面倒臭いのに、ゆっくりと療養なんてできない。俺は、それを聞いてひどく落胆した。


「別にお前の邪魔はするつもりはない。ただな、お前スレイブのこと聞いただろ…。」


「ああ。」


「スレイブのお供え物って言うことで、ミラナリア王国に咲く、珍しい氷花っていう花を取りに行くんだ。

けどよ、それを取りに行くには危険が伴うらしいから、お前の力を借りるしかないんだよ。

だから、お前が治るまで俺もミラナリアに行く。」


「本気で言ってるのか?」


「もちろん本気だ。」


「わかったよ。準備は終わったのか?」


「おうよ。」


俺も準備が終わり、荷物を手に持ち酒場から出た。

まだ外は早朝っていうこともあり、暗く、空には星が輝いていた。


「さむっ!」


俺は意外な早朝な寒さに凍えた。そして、玄関にはケールの姿があった。

ケールは少し寂しそうな表情を浮かべながら、手を振り見送った。


「お土産、よろしくねー。」


俺は少し笑みを浮かべながら、手を振り


「おう」


と返事をした。ウィリアムが付いていくのは、想定外であったが、結局エルゼとルイの姿を見ることはなかった。


自らが望んだことだが、何とも言えない感情が渦巻いた。

夜空の綺麗な星とは対照的に、アルテミア王国は、荒れ果てていた。それは紛れもない魔道士が引き起こした惨事。

俺はその光景を目に焼き付け、ギュッと歯を噛み締めた。


「ウィリアム、言っておくが、あっちではあまりギャンブルをするなよ。」


「冗談だろ?」


「至って本気だ。ギャンブルするなら、お前を今ここで拘束してもいいぞ。」


ウィリアムは、俺の言葉に生唾を飲み、ゆっくりと頷いた。これがランクの差って訳か…。

こんなたわいのない話の中でも、このランクの関係性は非常に大きい。


そして、数分歩くとあの空港が目に入って来た。そこにはもちろんスレイブの姿は無かった。

しかし、思いがけない人物がそこにはいた。


「よっ!ウィリアム、龍真」


そう言ったのは、金髪で厳つかったローレンであった。

スレイブの同僚であるから、いるのは自然なことであるのだが。まさか、この時間帯に来るとは思わなかった。


「お前ら、ミラナリア行くんだろ。まあ、何て言うか、私も色々あったけど、ここで頑張るからお前らも頑張れよ!」


「ありがとう。」


「おうよ!」


「ウィリアム、朝っぱらからうるさい。」


俺はやっぱ怖いよこの人と改めて思った。

飛行船は前になったものよりも大きかった。長旅になるから、それだけ燃料や何やらを積んでいるのだろうと察したが、これだけでかいと好奇心がくすぐられる。


「行くか。」


俺は、そう言ってローレンに会釈した。知り合ってから、そんなに時は経っていないが、なぜかこの人でさえも、別れるのはなぜか辛い感情が湧いた。


ここに来てから様々な人と出会ったが、現実世界ではそれまで人に干渉しようとしなかったからな。


そんなことを思いながら、ボーッと前を歩いていると、飛行船にぶつかり右腕を打った、


「痛!」


俺の右腕にはまた激痛が走った。バカ、何してるんだ俺、2度も…。最近おかしいぞ。


俺は涙目になりながら右腕を庇った。


「ウィリアム…。」


「なんだ?」


「痛い…。」


俺はその場に崩れ落ちると、ウィリアムはやれやれと言った顔で俺を脱いだ服のように肩にかけ、俺を運んだ。


そして、俺を両手で持ち席に座らせた。


「全く、世話のかかる奴だ。」


「すまん…」


俺はそう小さな声で言った。


「お前が俺に対して、素直に謝るなんて珍しいな。

変なものでも食ったか?」


「あ?今のは取り消しだ!お前に感謝の気持ちを抱いた俺がバカだった。」


そんな会話をしているうちに、飛行船は飛び立ち、ミラナリア王国に向かった。

雪国か…。

俺は、頬杖をつきながら、久しぶりに見る雪国に心を躍らせた。

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