第19話戦いの爪痕

俺は、目を覚ますとベッドに横になっていた。

ベッドは少し埃っぽいが、ふかふかで、基本的に気持ち良かった。俺は、ベッドから立ち上がり大きく伸びをした。


昨日の記憶といえば、ギャンブルで勝ちまくったこと。そして、部屋のテーブルの上には勝ってもらった賞金が置いてあった。


「10万エルクか。」


俺はその大金を見ながら使い道を考えた。

スレイブの姿が昨日から見えないのが気になり、ドアノブを回し、部屋から出た。


部屋を出るとそこは二階なのか分からないが、狭い廊下が続いていた。道がわからないので、とりあえず右に曲がり通路を進んだ。


基本的に木材で作られていて、木のいい香りが俺の鼻を刺激した。


目をつぶって歩いていると、俺は急に右足が宙に浮き、そのまま下に転がり落ちた。

端的に言うと、俺は階段から転がり落ちたのだ。


凄まじい音が鳴り響き、俺は思いっきり腕を打った。


「痛てて…。」


俺は立ち上がろうと名をついた瞬間激痛が走った。

右腕に力が入らないのだ。曲げようとすると痛みがする。


「やばー、これ折れてるわ。」


不注意で腕を折るとか無いだろう。俺は今の自分の状況が悲しくなった。

そして、その音に驚いたケールが大慌てで、駆けつけてきた。


俺を見るなり、心配そうな表情を浮かべた。


「大丈夫かい?」


「まあ、なんとか」


「嘘ね」


「嘘です…。」


「どこ打ったの?」


「右腕を思いっきり打ちました。」


そう俺が言うと、ケールは俺の右腕を取り、軽く曲げたりして、どうすると痛いとかなどを入念に聞いた。

そして、ケールの診断が終わると思いっきり頭を叩かれた。


「折れてるわよ。もーう、階段から落ちて骨折とか子供じゃあるまいし。まあ、無事なだけ良かったけどね。」


「すいません。」


「これだと、単なる回復魔法じゃ直せないわ。私の知り合いの回復魔道士ミーゼがいる、雪国のミラナリア王国に行った方が良いわ。

アルテミアにはもう人が少ない。あなたを見てくれる人はいないわ。」


俺はエルゼが頭によぎったが、俺はエルゼに協力しなかった。

言い訳するなら、王宮内に魔力はあまり感じられなかった。二手に分かれる必要もない。


エルゼ一人で十分であった。

だから、俺はこっちに来た。


まあ、あいつがいない今どうでも良いんだが。探しても探してなくても、俺がしたいことをするだけだ。

人の思惑に付き合ってられない。


「ケール、本当にありがとう。ミラナリア王国に行ってみるとする。」


「どうってことないわ。あなたは私たちの命の恩人だもの。でも、あのお嬢ちゃん達は、良いの?きっと探してるわよ。」


「今はどうでも良い。俺がしたくないことを強いられるだけだ。」


「それが本心なの?表情はそうには見えないけど。」


「本心だ。」


「まあ、良いわ。ミラナリア王国に行って、療養して、ゆっくりと考えなさい。新しい出会いもあるかもしれないしね。」


「そうするよ。後、気になったんだが、スレイブの姿が昨日から見えないんだが。」


俺がそう言うとケールは頭を下げ、地面を見つめた。

俺は察したくないが、察してしまった。スレイブが魔獣になってしまったと言う事実を…。


「あまり思い出したくなかったんだけど、言うわ。スレイブに何があったか。

聞いた話だけどね。

スレイブはいつものように空港で働いてたんだけどね。そして、王宮から魔獣が解き放たれたの魔獣はどんどん人間を喰らって数を増やしたわ。


そして、当然スレイブにもその脅威は襲いかかるわ。

スレイブとその同僚は必死に逃げてたんだけど、丁度同僚の家族も逃げてる途中だったの。


そして、その同僚なら子供がこけて、その子をスレイブが魔獣から守って魔獣化してしまったわ。」


「同僚の人は?」


「ローレンっていたわよね。女の人。」


「いました。厳つい金髪の、でも髪がまとまってなかったような。」


「本当はギャンブルはあの人1番嫌いなのよ。あういうことが。でも、スレイブが目の前で魔獣になって、少し病んじゃってね。

ストレス発散というか。なんというか。子供も目の前でスレイブが食われたショックで寝込んでるわ。」


「最後までどんだけ、お人好しなんだよ…。」


俺はスレイブと初めて出会った時のことを思い出した。訳も分からず、死んだ扱いされて、こんな世界飛ばされて。でも、得体のしれない俺でも、スレイブは、俺を親切にしてくれた。


あの人が居なかったら、ケール、ルイ、エルゼ、ウィリアム、カットなんかに出会えなかった。


あんな良い人というか、本当に他人のことばかり考えているバカな人はそうそう現実の世界にもいない。


俺は同じ状況であったら、自分の命を優先する。クズ人間だ。分かっている、俺はあのスレイブがなんか羨ましかった気がする。


「ケール、いざ人っていなくなると悲しいよな。」


「私だって悲しいわよ。だって、昔からの付き合いだもん。」


俺は、ますます何のために戦うのか分からなくなった。魔道士って何だ?魔道士はなんのためあるんだ。


俺は自問自答したが、答えは出なかった。明日の早朝から、飛行船に乗って、ミラナリア王国に行く。


でも、空港にはもう、陽気な影はない。俺はそう思うと、自然に涙が出た。

泣いたのはいつぶりだろうか。俺はそんなことを思いながら、弱い自分を嫌いになった。


その弱いは、武力的な弱さじゃない。心の弱さだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る