修行開始ィィ!!……ってこれ花婿修行じゃねぇか!!

 ミリアーナ邸での修行が始まった

 AM4:00に起きる…とても健康的だ、朝起きたら先ずは屋敷の掃除が始まる


 長い廊下の隅の隅に至るまで雑巾や箒等で掃除し、それが終われば次はミリアーナが起きた後直ぐにお風呂に入れるように風呂掃除と風呂汲み


 AM6:00、ミリアーナが起きてくる

 朝の支度をしている間に凛汰郎は、厨房にて朝ご飯と弁当の用意


 AM8:00、ミリアーナが王国直下のクエストに出発した

 だが、凛汰郎に休みは無い…庭園花や木々の手入れをしなければならないのだ


 AM9:00、ミリアーナの出した洗濯物を手洗いで洗濯する

 凛汰郎もシャルも、アリアが使っていた様な《生活魔法》と呼ばれる生活に役立つ洗浄等の魔法を覚えていない為、仕方なく手洗いなのだ


 AM10:00、廊下の次は部屋の掃除だ

 何せ嫌気が差しそうな程の部屋数な為、部屋の掃除だけでお昼までの時間は潰れる


 PM0:00、部屋の掃除が終わり昼食タイム…なんて事はなく今から夜ご飯の買い出しへと出掛ける

 そこで毎回お菓子屋さんにてシャルが駄々をこね始めるが…一つペロキャンを買ってやれば大人しくなる


 PM1:00、今度は最近肌寒くなってきた為、街を出て草原を抜けた先にある森林にて暖炉の薪の気を切りに行く


 PM3:00、帰り道に話が長いご近所さんに絡まれてしまい軽く時間が潰れる


 PM5:00、ご近所さんから解放された凛汰郎は休む暇もなくミリアーナが帰宅した時のためにお風呂の準備と夜ご飯の準備を開始


 PM7:00、ミリアーナが帰宅

 大抵は先にお風呂に入る為、洗濯物を受け取りまた洗い始める


 PM9:00、ミリアーナが食べ終えた食器類を洗い寝具を整える


 PM10:00、ミリアーナは明日もクエストがある様で早く眠る

 クエストが無い日はこの時間帯は、9時から地下にある鍛錬場での鍛錬を延長させる


 PM11:00、最後の掃除を終わらせて凛汰郎とシャルも床につき寝始める

 明日も早い…特に考えることも無く布団に入ると心地よく眠れるのだ


――明日も…修行頑張ろう


________________________


「……じゃねぇだろうがァァァ!!!」


 凛汰郎は手に持っていた雑巾を床に叩きつけ絶叫する


 既にミリアーナ邸での花婿修行が始まって1週間が経とうとしていたのだ


「亀○流か? ハ○ターハ○ターのゾ○ディック家の使用人邸か?」

「特に日用品が異様に重い訳でもなければ、20kgの亀の甲羅を背負ってる訳でもないんだぞ?」


 凛汰郎はいつの間にか着こなしていたエプロンも脱ぎ捨て、箒をつっかえにして立って眠るシャルをたたき起こす


「行くぞ、アイツは勇者は勇者でもなんちゃって勇者だったみたいだ」

「1週間も無駄にした…仕方ない、独学で修行するしか無いようだ」


 そんな凛汰郎の叫びをつゆ知らず、寝室でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っているミリアーナ


 布団を引いてミリアーナを畳の上に転がす

 転がされた勢いに乗り、ミリアーナは顔面から部屋の壁にぶつかる


「痛いじゃないですの!! 乙女の顔を何だと思っているのかしらこの男は……」


 そう言ってわざとらしく鼻を押さえ、イテテて呟きながら立ち上がる


「1週間もお前の身の回りの世話をさせられた…いつかは修行が始まるだろう…そう思って耐えて耐えて耐えてきた…」

「だが…もう無理だ!! さようなら、俺達は独学で修行をさせてもらう!!」


 一応の関係という事で一言言った凛汰郎はそのまま立ち去ろうとしたが…凛汰郎に言われて何かを思い出したかの様にミリアーナは襖を引いて何かを取り出した


「別に何もしていなかった訳ではないんでふのよ!! 私は1週間の間…これを用意していたんですわ」


 ミリアーナはそう言って、何かドロドロとした液体がバケツ一杯に詰められ…言うなれば暗黒物質ダークマターをミリアーナは取り出した


「これは《ペリゴール大陸》にある妖霊種デモーニアの首都《畏怖の楽園ディーズ・エンド》でしか取れない貴重な泥ですわ」



 ミリアーナはそう言うと、テキパキと凛汰郎の服を脱がして庭に放り出し…凛汰郎の頭からその貴重な泥をぶっかける


「それじゃあ、私が戻ってくるまでにその泥を身体から落としてみなさい」

「それが出来たら次の修行に移るのですわ」


 ミリアーナはそう言い残して、またクエストへ向かった


「何だったんだ? まぁ…どうせ適当な事言って時間稼いでるんだろうよ」

「こんな泥…さっさと落として…あれ?」


 凛汰郎は庭に設置してある水の魔法結晶ラクリマ・アクアを発動させて水を被るが…

 どういう訳か、泥はまったくと言っていい程落ちずに…余計に粘着力を増して凛汰郎にまとわりつく



 実は先程、凛汰郎にぶっかけた泥の名前を《魔力吸収粘土生命体アライブ・デ・スライム》という

 その名の通り、周りにある魔力を吸収し名がら生きるスライムの一種である


 このスライムが体に付着した場合、体内に魔力を保持している生物ならば徐々にその部位ごと捕食され…やがて骨の一本も残らず死ぬという冗談じゃすまされない一品


 仮にクリスマスパーティで…

「ウェーイwドッキリ大成功ww」

「こいつぅw」


 何ていうリア充のやり取りに用いた場合…仕掛けられた方は、読んで字の如く驚いて昇天するだろう…天に召すという意味で…



 凛汰郎はそんな危ない泥をぶっかけられたとは知らない為、魔力を大量に放出すれば剥がれるだろうと思い…一気に放出する


 だが、直ぐに全部吸収されてまた更に大きく…粘り強く身体に付着する


「魔王ちゃん!! 【魔孔】を全部閉じて!!!」


 シャルが必死にそう伝えるも…凛汰郎は初めて聞く単語に困惑するのみである


 凛汰郎は段々と全身に激痛が走り始める

 ビリビリと電流が皮膚を伝って全身を駆け巡るかのように起こる痛みは、易々と気が狂ってしまいそうになる


 そんな時、凛汰郎は何か不思議な感覚に包まれた…身体が脱力しまるで冷たい秋の風が全裸の肌に吹雪いているかの様な感覚


 すると泥はみるみる内に身体から離れていき、そのままミリアーナが持ち出したバケツの中に吸い込まれるかのように入っていく


 理由はわからないが…全身に付着したスライムが無くなりその場にへたり込む


 ふと周りを見渡すと、シャルの姿が見当たらない…まるでその場から消えたか様な感覚に襲われる


「魔王ちゃん、ウチはここだよん☆」


 肩をチョンチョンとつつかれて、振り返るとそこにはニコニコと笑顔を見せるシャル

 何がしたいのか理解ができない凛汰郎は、シッシとハエを払う様な手振りをすると…


「あ~そうそう、早く魔孔を開かないと……ウチから溢れ出る魔力で死んじゃうZO☆」


 そう言われたのも束の間、例えるならば急に酸素を大量に摂取してしまいクラっと立ちくらみしてしまう様な感覚に襲われる


 だがしかし、それは本来一瞬のモノだが…それが永続的に続く現状において…酸素のみを吸っている様な幻覚を引き起こす



――仕方ねぇな、もう一度だけだぞ



 どこからとも無く声が聞こえると、死にそうな程の嫌悪感は消えいつもの感覚に戻った


「今の声は……まさか…な……」


 その声に聞き覚えがある凛汰郎は、その主を予想するが…その人物が自分に味方するとは到底思えない為、今は黙っている事にした

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